来た。
来てます。
来てます。
思いっきり来てます。
自然的ひざカックン。
きょうの月曜回診はわたしの医師生活の中で、最悪のものとなった。
でも、4・1kmという距離を、アルトサックスを吹きながらマーチングするという初めての体験が、夢ではなく事実であったことの証なんだけど、このひざカックンをなんとかして。
「おう! じゃ、もう一発行ってくるわ!」
休憩スペースでお弁当を食べていたわたしたちのところに、以前、往診のときに白バイ9台を従えて、先導と護衛に協力してくれた、彼の盟友で北海道警察旭川方面本部交通課係長が現れた。
「おまえ、きょうはな、先導だぞ先導。速水さん一斉一代の大舞台だ。めでたいねー。行進順はおまえの団体が最後だな。後ろの守りは自ら隊3台が並列する。パトカーに追われる側の気持ちを経験してみろ」
往診のときのお礼を、わたしはまだ伝えてなかった。
あのう、この前は、ありがとうございました
近いうちに必ずお礼にうかがいます
「あー。いや、自分は自分の仕事をしただけですので。ちなみに、旭川銘菓「氷点下41℃」が大好物です。ところで、患者さんは?」
それが・・・・・・わたしが未熟だったために・・・・・・
「人間、亡くなる人がいるから、生まれてくる子がいる。そういうことでしょう。北海道では、毎日、交通事故で亡くなる人が2桁もいます。あまり気にしないように。さて、時間だ」
係長は土手を上がりかけて振り向いた。
「亡くなる人がいるから、生まれてくる子がいる。我ながら名言だ、うん。ハーバード卒業のガチガチ頭には理解できんだろうがな!」
「低速走行でぶっ倒れるな!方面本部の恥だ」
「おとといきやがれ!この速水さんのテクニックで、沿道の女性をヒーヒー言わせてやる。ちなみに、本店音楽隊がトップだ。いいとこ見せて、昇進だ!」
係長はヘルメットを振り回しながら走り去った。
「ああいうバカだから、いまだに結婚できないで、合コンに命を懸けてるんだ。札幌本店の音楽隊か。ということはスリーアミーゴスもいるな」
彼はお弁当を食べかけのまま、走っていった。
おもしろそうだから、わたしも後についていってみた。
いた。
方面本部のスリーアミーゴス。
本部長と捜査一課長、特殊捜査一課長。
「はあー。やっぱり札幌本店は弁当にドリンクつきを方面本部が出したんですか。支店音楽隊は自腹だというのに」
彼は大きな声で言った。
「何を言ってるの、えっ。札幌本店からわざわざお見えになられたんだから当然のことだよ。本店が出張る時は支店がお弁当やお茶、お茶菓子一切を負担するのは当然のことでしょうが」
特殊捜査一課長は言った。
「なら、支店音楽隊はどうでもいいってことですか!」
すぐそばでコンビニ弁当をぱくついていた支店音楽隊の連中が、一斉にスリーアミーゴスを睨んだ。
「なに、なによ、それが規則でしょうが」
本部長は後ずさりしながら言った。
「みなさん、それで納得されますか?」
支店音楽隊の面々は一斉に首を振った。
「共同戦線を張る気か。それならそれでこっちにも考えがあるぞ!」
捜査一課長。
「何言ってるの。だめだよ、ぼくの部下に向かってそんなことを言っちゃ」
と、本部長。
この人のボケは作り物で、本当の顔は頭の切れるすばらしい上司。
3人は逃げていった。
支店音楽隊から拍手が起こる。
「ありがとうございます。生活安全課第4班班長を勤めさせていただいております。みなさん、本日は、支店の意地を見せ付けてやりましょう!」
支店音楽隊から、気勢があがった。
実際の警察は、ドラマを越えている。
オウムの逃亡犯は逃げ切ることができるだろう。
わたしたちの団体の休憩所に戻ると、チャラ夫婦とガンバ夫婦がいた。
「副医長2名様。ガンバ以下、4名、アネさんに医療班としての同行を申し渡され、転属となりました!」
ガンバは相変わらず元気だね。
「ごくろうさま、ちょっと待っていて」
彼は走り去り、すぐに、団体のおそろいのTシャツとお弁当にドリンクを抱えて戻ってきた。
あとから団体の理事長と札幌の病院の医師がついてくる。
「みなさん、ありがとうございます。藤田さん、そこまで考えてくれたの。本来はウチの病院で医療班を組織するべきところなんだけど、医師は全員団員として演奏に回ったものだから。あとで、藤田さんには私からお礼をしておきます。さあ、PTAの手作り弁当だけど、一緒に食べて」
「頼もしいな。君たちの病棟の部下かい?」
札幌の医師は言った。
「部下ではなく同僚、いや、職場の仲間です」
彼は言った。
副医長とただの医師ですが、わたしたちの病棟では、副医長は名目で、上下関係はありません
ともに言いたいことは言い合っていないと、肺癌には勝てませんから
「なるほど。すばらしい。ウチの病院でも真似させてもらうよ」
「それでは、ありがたく、お弁当をいただかせていただきます」
と、チャラ。
「どう。PTA手作りの弁当は?」
彼は訊いた。
「いやー、豪華の一言です。病院食と比べたら天国と地獄と言うか」
ガンバ、言いすぎだよ。病院食は管理栄養士部が頭を悩ませて、カロリーを考えて発注してるんだから。
食事が済んだら、おそろいのTシャツに着替えて
公衆便所しかないけど、市長もあそこで着替えてるから
男はここでもいいけど、女の子はここでは着替えられないでしょ
彼はアネさんにお礼の電話を入れた。
「ありがとうございます・・・・・・市民が間違えるわけないでしょう、ちゃんと着いてますよ。団体のおそろいTシャツを着てもらいます・・・・・・そっちはどうですか、緊急搬送は・・・・・・はい、それでは、1日お借りしてよろしいんですね。はい、失礼します」
手招きでわたしを呼ぶ。
「看護師長と副師長で宴会をやってるみたいだ。妙に盛り上がってる」
昼間から宴会・・・・・・
でも、樽酒を飲みきっても酔わない人たちだから
それで、4人を出したんだ
アネさんらしい
わたしたちの団体が、スタート位置につく時間になった。
前を行くのは、北海道警察旭川方面本部音楽隊。別名、旭川支店音楽隊。
わたしたちの団体のうしろに、3台のパンダパトカーが並列で並ぶ。
パトランプはまわしていたが、音は出していない。
あっ、そうだ。わたしの母校はAKBメドレーだって
「フライング・ゲット」がメインみたい
よかったね
「よくないんですけど」
お母さんの母校でしょう
お母さんも合唱部だったっていうから、同じ音楽の後輩でしょ
そんなことは言わないの
AKBを演奏してくれるんだよ
「あのね、こういう場合は、楽曲二次使用権料という名目の印税が派生するんだ。金額はCD印税の倍、7円。AKBを演奏する団体はかなり多い。3年後の所得税に乗っかるの」
あー、なるほど。
国に献上しなきゃいけないんだ。
わたしたちの団体の前に、プラカードを持った3人の女の子が立った。
「あれはグランブルーの所属する病院の看護師だ。外来は土曜休診だから、外来勤務だろう。あっ、やっときたな、院長も。きのうの夜中からお腹を下して脱水症状を起こしかけたらしい。コンサートの前はいつも必ずだ。緊張して胃けいれんを起こすんだよ。そのたびに臭化ブチルスコポラミンを服用するから、効き目がなくなって、きのうから点滴で落としていたみたいだ。しっかりして欲しいよ、ったく」
彼もきょうはとてもよくしゃべる。緊張してる証拠だ。
わたしの携帯が鳴った。
「姉貴、翔子だよ。変なおじさんがきのう、ものすごく高いハンディカムを買ってきて、姉貴の団体を撮影するって、出かけた。沿道にいるから気をつけな。どうせ、何も映ってないだろうけど。翔子はまだ寝る。情報料は白くまくんセヴンイレヴンプレミアム1個。きょうは深夜最後だから、病室へ行くからね」
変なおじさんまで出てきたか。
まあ、あの人にはハンディカムなんか使えない。
それも、きのう買ったってことはぶっつけ本番でしょ。
沿道で見ている人の後頭でも映ればたいしたものだ。
それで、携帯をOFF電。
リーダーから、一斉に携帯の電源OFFの指示が出たから。
リーダーを務めるのはグランブルーのリーダー。
彼が、自分よりも優秀だと認める、バンド・ディレクター代理。
リーダーのホイッスルが鳴った。
4・1kmの始まりだ。
というわけで、この4・1kmが、きょうの、ひざカックンを引き起こした原因だ。
チャラもガンバも、2人の日勤の奥さん(看護師。元は赤十字病院と、変なおじさんのいる病院に勤務していたが、末期肺癌を宣告され、ウチの病棟へ送られた。元・看護師であると知ったアネさんは厚労省指針を無視して、オペを行い、腫瘍を全摘出。彼と同じように、保険適用外治療をチャラにするから、この病棟に看護師として勤務するよう誘導した)も、きょうから日勤に入った佐橋看護師も、クールな安積看護師までが自然的ひざカックンで思うような仕事にならなかった。
佐橋看護師は、カートを押して、患者さんの抗癌剤投与をしに病室に行く途中で、ひざカックンが起きて、倒れ、立つことができなくなり、「だれか助けてくださーい」と叫び、患者さんたちに両脇を抱えられて仕事に就く始末で。
月曜回診の間も、わたし、彼、チャラ、ガンバ、が順にひざカックンになり、診察もろくにできなかった。
それでも、アネさんは、わたしたちがマーチングをした日、まだ病棟に戻る前にグランブルーの病院の副院長とPTA代表が、お礼にきてくれたことをいたく感激して、わたしたちに、きょう、ペリトールを1本ずつプレゼントしてくれた。
彼は電子カルテに記入しようとパソコンの前のイスに座ろうとしてひざカックンを起こし、イスに逃げられ、背もたれが思いっきり後頭部を直撃、目の前が緑色に見えると、しばらくうなだれていた。
ペリトールは本数を製薬会社のMR(営業マン)に発注したから、なくなったら新しいのを病棟薬剤師に申し出て持っていけと言ってくれた。
先輩にお礼を言われたのが妙にありがたかったらしい。
とにかく、義理で生きてる人だから。
変なおじさんは、やはり撮影に失敗していたと、きのうの夜中に、出勤してきた妹が笑っていた。
自宅の60V大画面TVにリンクして再生したところ、映っていたのはやはり沿道で見学していた見知らぬ他人の後頭部だけだったと言う。
彼に言わせれば、映すターゲットをロックすると、自動的にターゲットを追尾するタイプのハンディカムで、妹が型番を言うと、40万円近くする機種だと言うことだった。
変なおじさんは所詮変なおじさんに過ぎない。
この自然的ひざカックンは短くて2~3日、通常は一週間前後続くと、彼の経験上から確定診断を出した。
これから、まずはわたしのペリトールで、わたしの足を彼にマッサージしてもらい、そのあとで彼の足をわたしがマッサージすることにした。
とびっきりSEXYなパンティー姿で、足を投げ出したら、彼はその気になるだろうか。
それにしても一週間前後のひざカックンか。
考えただけでぞっとするよ。
アフターコンサートに続く、彼の所属するバンドのライブや、その後のことは明日更新の記事で。
いつ襲ってくるかわからないひざカックンの恐怖におびえながらも、新しく入院し、彼が担当になった患者さんのPET検査を頼まれて、引き受けてしまった。内視カメラを操作している最中にも、ひざカックンは襲ってくるだろうか。
追伸: パナソニック・シアター『ハンチョウ5-警視庁安積班ー』を見終えたところだ。
今回のシリーズは前回までのシリーズと比べて、魅力がまったくない。
神南署安積班ほど、部下たちの個性が感じられない。
彼が音楽を降板した理由もわかるような気がする。
6月末までの超短期シリーズだというし、個性的なメンバーあってのチーム安積だ。
それでも、TVの前の双生児は、安積班長と表情が見事にリンクしている。笑顔になれば笑顔に。怒りの表情は怒りに。
それを見ている方がはるかに楽しい。
やはり、刑事部長役の水戸黄門様が印籠を見せて、犯人を観念させるべきだろう。
来てます。
来てます。
思いっきり来てます。
自然的ひざカックン。
きょうの月曜回診はわたしの医師生活の中で、最悪のものとなった。
でも、4・1kmという距離を、アルトサックスを吹きながらマーチングするという初めての体験が、夢ではなく事実であったことの証なんだけど、このひざカックンをなんとかして。
「おう! じゃ、もう一発行ってくるわ!」
休憩スペースでお弁当を食べていたわたしたちのところに、以前、往診のときに白バイ9台を従えて、先導と護衛に協力してくれた、彼の盟友で北海道警察旭川方面本部交通課係長が現れた。
「おまえ、きょうはな、先導だぞ先導。速水さん一斉一代の大舞台だ。めでたいねー。行進順はおまえの団体が最後だな。後ろの守りは自ら隊3台が並列する。パトカーに追われる側の気持ちを経験してみろ」
往診のときのお礼を、わたしはまだ伝えてなかった。
あのう、この前は、ありがとうございました
近いうちに必ずお礼にうかがいます
「あー。いや、自分は自分の仕事をしただけですので。ちなみに、旭川銘菓「氷点下41℃」が大好物です。ところで、患者さんは?」
それが・・・・・・わたしが未熟だったために・・・・・・
「人間、亡くなる人がいるから、生まれてくる子がいる。そういうことでしょう。北海道では、毎日、交通事故で亡くなる人が2桁もいます。あまり気にしないように。さて、時間だ」
係長は土手を上がりかけて振り向いた。
「亡くなる人がいるから、生まれてくる子がいる。我ながら名言だ、うん。ハーバード卒業のガチガチ頭には理解できんだろうがな!」
「低速走行でぶっ倒れるな!方面本部の恥だ」
「おとといきやがれ!この速水さんのテクニックで、沿道の女性をヒーヒー言わせてやる。ちなみに、本店音楽隊がトップだ。いいとこ見せて、昇進だ!」
係長はヘルメットを振り回しながら走り去った。
「ああいうバカだから、いまだに結婚できないで、合コンに命を懸けてるんだ。札幌本店の音楽隊か。ということはスリーアミーゴスもいるな」
彼はお弁当を食べかけのまま、走っていった。
おもしろそうだから、わたしも後についていってみた。
いた。
方面本部のスリーアミーゴス。
本部長と捜査一課長、特殊捜査一課長。
「はあー。やっぱり札幌本店は弁当にドリンクつきを方面本部が出したんですか。支店音楽隊は自腹だというのに」
彼は大きな声で言った。
「何を言ってるの、えっ。札幌本店からわざわざお見えになられたんだから当然のことだよ。本店が出張る時は支店がお弁当やお茶、お茶菓子一切を負担するのは当然のことでしょうが」
特殊捜査一課長は言った。
「なら、支店音楽隊はどうでもいいってことですか!」
すぐそばでコンビニ弁当をぱくついていた支店音楽隊の連中が、一斉にスリーアミーゴスを睨んだ。
「なに、なによ、それが規則でしょうが」
本部長は後ずさりしながら言った。
「みなさん、それで納得されますか?」
支店音楽隊の面々は一斉に首を振った。
「共同戦線を張る気か。それならそれでこっちにも考えがあるぞ!」
捜査一課長。
「何言ってるの。だめだよ、ぼくの部下に向かってそんなことを言っちゃ」
と、本部長。
この人のボケは作り物で、本当の顔は頭の切れるすばらしい上司。
3人は逃げていった。
支店音楽隊から拍手が起こる。
「ありがとうございます。生活安全課第4班班長を勤めさせていただいております。みなさん、本日は、支店の意地を見せ付けてやりましょう!」
支店音楽隊から、気勢があがった。
実際の警察は、ドラマを越えている。
オウムの逃亡犯は逃げ切ることができるだろう。
わたしたちの団体の休憩所に戻ると、チャラ夫婦とガンバ夫婦がいた。
「副医長2名様。ガンバ以下、4名、アネさんに医療班としての同行を申し渡され、転属となりました!」
ガンバは相変わらず元気だね。
「ごくろうさま、ちょっと待っていて」
彼は走り去り、すぐに、団体のおそろいのTシャツとお弁当にドリンクを抱えて戻ってきた。
あとから団体の理事長と札幌の病院の医師がついてくる。
「みなさん、ありがとうございます。藤田さん、そこまで考えてくれたの。本来はウチの病院で医療班を組織するべきところなんだけど、医師は全員団員として演奏に回ったものだから。あとで、藤田さんには私からお礼をしておきます。さあ、PTAの手作り弁当だけど、一緒に食べて」
「頼もしいな。君たちの病棟の部下かい?」
札幌の医師は言った。
「部下ではなく同僚、いや、職場の仲間です」
彼は言った。
副医長とただの医師ですが、わたしたちの病棟では、副医長は名目で、上下関係はありません
ともに言いたいことは言い合っていないと、肺癌には勝てませんから
「なるほど。すばらしい。ウチの病院でも真似させてもらうよ」
「それでは、ありがたく、お弁当をいただかせていただきます」
と、チャラ。
「どう。PTA手作りの弁当は?」
彼は訊いた。
「いやー、豪華の一言です。病院食と比べたら天国と地獄と言うか」
ガンバ、言いすぎだよ。病院食は管理栄養士部が頭を悩ませて、カロリーを考えて発注してるんだから。
食事が済んだら、おそろいのTシャツに着替えて
公衆便所しかないけど、市長もあそこで着替えてるから
男はここでもいいけど、女の子はここでは着替えられないでしょ
彼はアネさんにお礼の電話を入れた。
「ありがとうございます・・・・・・市民が間違えるわけないでしょう、ちゃんと着いてますよ。団体のおそろいTシャツを着てもらいます・・・・・・そっちはどうですか、緊急搬送は・・・・・・はい、それでは、1日お借りしてよろしいんですね。はい、失礼します」
手招きでわたしを呼ぶ。
「看護師長と副師長で宴会をやってるみたいだ。妙に盛り上がってる」
昼間から宴会・・・・・・
でも、樽酒を飲みきっても酔わない人たちだから
それで、4人を出したんだ
アネさんらしい
わたしたちの団体が、スタート位置につく時間になった。
前を行くのは、北海道警察旭川方面本部音楽隊。別名、旭川支店音楽隊。
わたしたちの団体のうしろに、3台のパンダパトカーが並列で並ぶ。
パトランプはまわしていたが、音は出していない。
あっ、そうだ。わたしの母校はAKBメドレーだって
「フライング・ゲット」がメインみたい
よかったね
「よくないんですけど」
お母さんの母校でしょう
お母さんも合唱部だったっていうから、同じ音楽の後輩でしょ
そんなことは言わないの
AKBを演奏してくれるんだよ
「あのね、こういう場合は、楽曲二次使用権料という名目の印税が派生するんだ。金額はCD印税の倍、7円。AKBを演奏する団体はかなり多い。3年後の所得税に乗っかるの」
あー、なるほど。
国に献上しなきゃいけないんだ。
わたしたちの団体の前に、プラカードを持った3人の女の子が立った。
「あれはグランブルーの所属する病院の看護師だ。外来は土曜休診だから、外来勤務だろう。あっ、やっときたな、院長も。きのうの夜中からお腹を下して脱水症状を起こしかけたらしい。コンサートの前はいつも必ずだ。緊張して胃けいれんを起こすんだよ。そのたびに臭化ブチルスコポラミンを服用するから、効き目がなくなって、きのうから点滴で落としていたみたいだ。しっかりして欲しいよ、ったく」
彼もきょうはとてもよくしゃべる。緊張してる証拠だ。
わたしの携帯が鳴った。
「姉貴、翔子だよ。変なおじさんがきのう、ものすごく高いハンディカムを買ってきて、姉貴の団体を撮影するって、出かけた。沿道にいるから気をつけな。どうせ、何も映ってないだろうけど。翔子はまだ寝る。情報料は白くまくんセヴンイレヴンプレミアム1個。きょうは深夜最後だから、病室へ行くからね」
変なおじさんまで出てきたか。
まあ、あの人にはハンディカムなんか使えない。
それも、きのう買ったってことはぶっつけ本番でしょ。
沿道で見ている人の後頭でも映ればたいしたものだ。
それで、携帯をOFF電。
リーダーから、一斉に携帯の電源OFFの指示が出たから。
リーダーを務めるのはグランブルーのリーダー。
彼が、自分よりも優秀だと認める、バンド・ディレクター代理。
リーダーのホイッスルが鳴った。
4・1kmの始まりだ。
というわけで、この4・1kmが、きょうの、ひざカックンを引き起こした原因だ。
チャラもガンバも、2人の日勤の奥さん(看護師。元は赤十字病院と、変なおじさんのいる病院に勤務していたが、末期肺癌を宣告され、ウチの病棟へ送られた。元・看護師であると知ったアネさんは厚労省指針を無視して、オペを行い、腫瘍を全摘出。彼と同じように、保険適用外治療をチャラにするから、この病棟に看護師として勤務するよう誘導した)も、きょうから日勤に入った佐橋看護師も、クールな安積看護師までが自然的ひざカックンで思うような仕事にならなかった。
佐橋看護師は、カートを押して、患者さんの抗癌剤投与をしに病室に行く途中で、ひざカックンが起きて、倒れ、立つことができなくなり、「だれか助けてくださーい」と叫び、患者さんたちに両脇を抱えられて仕事に就く始末で。
月曜回診の間も、わたし、彼、チャラ、ガンバ、が順にひざカックンになり、診察もろくにできなかった。
それでも、アネさんは、わたしたちがマーチングをした日、まだ病棟に戻る前にグランブルーの病院の副院長とPTA代表が、お礼にきてくれたことをいたく感激して、わたしたちに、きょう、ペリトールを1本ずつプレゼントしてくれた。
彼は電子カルテに記入しようとパソコンの前のイスに座ろうとしてひざカックンを起こし、イスに逃げられ、背もたれが思いっきり後頭部を直撃、目の前が緑色に見えると、しばらくうなだれていた。
ペリトールは本数を製薬会社のMR(営業マン)に発注したから、なくなったら新しいのを病棟薬剤師に申し出て持っていけと言ってくれた。
先輩にお礼を言われたのが妙にありがたかったらしい。
とにかく、義理で生きてる人だから。
変なおじさんは、やはり撮影に失敗していたと、きのうの夜中に、出勤してきた妹が笑っていた。
自宅の60V大画面TVにリンクして再生したところ、映っていたのはやはり沿道で見学していた見知らぬ他人の後頭部だけだったと言う。
彼に言わせれば、映すターゲットをロックすると、自動的にターゲットを追尾するタイプのハンディカムで、妹が型番を言うと、40万円近くする機種だと言うことだった。
変なおじさんは所詮変なおじさんに過ぎない。
この自然的ひざカックンは短くて2~3日、通常は一週間前後続くと、彼の経験上から確定診断を出した。
これから、まずはわたしのペリトールで、わたしの足を彼にマッサージしてもらい、そのあとで彼の足をわたしがマッサージすることにした。
とびっきりSEXYなパンティー姿で、足を投げ出したら、彼はその気になるだろうか。
それにしても一週間前後のひざカックンか。
考えただけでぞっとするよ。
アフターコンサートに続く、彼の所属するバンドのライブや、その後のことは明日更新の記事で。
いつ襲ってくるかわからないひざカックンの恐怖におびえながらも、新しく入院し、彼が担当になった患者さんのPET検査を頼まれて、引き受けてしまった。内視カメラを操作している最中にも、ひざカックンは襲ってくるだろうか。
追伸: パナソニック・シアター『ハンチョウ5-警視庁安積班ー』を見終えたところだ。
今回のシリーズは前回までのシリーズと比べて、魅力がまったくない。
神南署安積班ほど、部下たちの個性が感じられない。
彼が音楽を降板した理由もわかるような気がする。
6月末までの超短期シリーズだというし、個性的なメンバーあってのチーム安積だ。
それでも、TVの前の双生児は、安積班長と表情が見事にリンクしている。笑顔になれば笑顔に。怒りの表情は怒りに。
それを見ている方がはるかに楽しい。
やはり、刑事部長役の水戸黄門様が印籠を見せて、犯人を観念させるべきだろう。