きょう1日は全てを忘れて遊ばせてもらいました。
わたしの仕度が整うまでに、彼は事務長に話があるといって事務局へ。
恐らく、高額医療扶助制度のことで、ソーシャルワーカーさんと3人で話をしていたんでしょうね。
オペの後直ちに、電子カルテを記入して事務局へ送ってあったので、時間は短かったですよ。
市長が持ってきてくれて、まもなくですから、きのうのことを予測していたのかな、とちょっと不思議な気分です。
さあ、出発。
特にここにいくと決めずに、街中を飛ばし、気になったお店の前で車を停めるやり方で、三十数年間この街にいても全然知らない、古くから営業しているお店がたくさんありました。
一軒の古着屋さんが目に留まって、車を停めてもらったんです。
ウィンドウに、これは絶対にゲットしたいと思った、ブリーチのデニムがあって、思い切って手に入れようと思って。
今、手に入れないと永遠に会えないような気がして。
わたしの後に彼が続いてお店に入ると、いきなり、
「あーっ!、おまえ」
店員さんと同時に叫んでました。
なんと、彼の高校時代の同級生だったんです。
「なんでここにいるんだよ」
「ここは私の店だからだよ」
「私の店?」
「そう。社長だよ、ざまあみろ。いろんなショップでバイトして貯めたお金で自分の店を持ったの。驚いたのは私だよ。アメリカに移住したって聴いてたから」
「うん、確かに。でも、母親が肺癌で亡くなって、ぼくも大腸癌と胃癌と肺癌をやって、治療費が払えなくて日本で就職した。今は花咲の医療センターの末期癌病棟で医師をやってる」
「どこでライセンスを取ったの?」
「自動車学校で」
「ばかか、相変わらずおまえは。医師って意味」
「そっちか。ハーバード大学っていうボロなガタピシ大学。その前にコロンビア大学って、圧倒的に弁護士を出す学校に間違って入学して、臨床心理士のライセンスをとって、ハーバードで医師免許を取った。コロンビアには医学部がなかったんだ」
「ハーバードって、あの?」
「どの?」
「だから日本でよく言う、全米一の難関」
「っていうか、みんな頭がよすぎてイッテる奴が多かった」
「まあ、全教科満点だったしねテストは。全校共通問題学力テストでもいつもしのりんと常に全校一を争ってたし。吹奏楽とテニスの掛け持ちでほとんど勉強してないくせに、不思議な奴だった。しのりん、子供が4人だよ、今」
「高校卒業と同時に結婚したから、それくらいにはなってるだろうね。ぼくは子供が嫌いだから」
「結婚しないっていってたけど、したよね」
「イオンのショップの店長から聴いた?」
「見たらわかるって。あんたは女の子と恋人関係を続けることはしない。プロテスタントに憧れて、同じ戒律を自分に課してたから。そいつが女性といきなり現れたということは、結婚したってことしかないよね」
「その通りだよ。去年の4月に結婚したの。同じ病棟で働いている医師と。ぼくと母親の肺癌の担当医。もとは阪神大震災のときに医療班で一緒にボランティアをしてた。その頃から、彼女がぼくに憧れてたんだって」
「高校時代からモテたからね」
へー、ちょっと話が違うんですけど。
「卒業式に側溝へ放り込まれたもんね、女の子たちに」
あー、あれか。
「あれはテニス部の恒例行事だから。掛け声をかけたのは教頭とデラだよ。信じられないよ、教頭がそんなことをして許されるのか」
「いつ帰国したの?」
「正式には2007年。それより彼女がウィンドウのブリーチデニムが気に入って」
「ああ、あれ。奇跡の一枚なんだよ。手に入れた時は本当に驚いた。売ろうか、自分で履こうか迷った挙句、売れ残ったら自分のものにしようと思って。インチは・・・・・・」
わたしと同じ。
わたしを待っていてくれたの。
「いくら?」
「高いよ。でも、知らない間じゃないしね。仕入れでいいよ。78000円」
「それで後悔しない?」
「いいよ。あんただからそれでいい。一回言ったら何度も言わせるなよ」
わたしが財布を出すのにもたついている間に、彼はさっさとお金を出した。
「いつもニコニコ現金払いだから」
社長さんはウィンドウからデニムを外し、器用にたたんで袋に入れてくれた。
「なんだ、ここデビットも使えるの?」
「使えるよ」
「だったらそれを先に言えよ」
「表のステッカーを見てから店に入れよ」
「じゃあ今度からデビットにする。ここはメンズは?」
「レディースだけ。残念でした」
「もう家庭を持ってるんだろうね」
「長い春の男性はいるよ」
「冬にならないように気をつけてね」
店を出た。
車を回して
「えっ」
方向を変えて
「あーいいけどどうして」
ここから先は危険なの
変なおじさんの病院のそばでしょ
「ああ、ほんとだ。病棟が見える。でも、GEOもTSTAYAもあるから」
別にあそこじゃなくてもいくつも店舗はあるでしょ
「わかりました」
大通りをイオンへと流しているとウィンドウに市長が写った。
ジョギングしている。
彼は車を停めた。
「おーい。高額医療扶助制度、早速使わせてもらうぞ」
市長がサイドウィンドウをのぞいた。
「ああ。早速出たか」
立ち止まって話していても、足はジョギングをしたままだ。
「きのう、救急搬送があって、肺癌だ。点数は軽いオペで済んだからそんなに高くないけど、末期だったから、これから転移なんかを調べる必要があるからそれなりの入院が必要となる。詳しいことはソーシャルワーカーさんにまかせたから。世話になるな」
市長は軽く笑った。
「使ってもらうためのものだ。誰も使わなければ意味がない」
「無利子でいいのか?」
「元の形は無利子だったはずだろう。それがいつの間にか利子がついてしまった」
「支払い回数は最高何回まで」
「回数は後だ。例えば毎月5000円なら支払えるという人がいれば、総額を5000円で割って回数を出す。1000円でもかまわない。家計は千差万別だろう。柔軟に対応するようにしてあるんだ」
「考えたな」
「おい、日曜にな、すごいものを買ったんだ」
「車とか3D対応BSデジタルにCS100℃つき60VのTVとか」
「そんなものよりすごいんだよ。電気ケトルだ。電源コードのついた台にポットに水を入れて乗せてスイッチを入れると水がお湯に変わるんだよ。1980円定価が1480円。ホームセンターでさ」
「中国製だろ。ホームセンターの最安値のやつ。ウチでも使ってる。ウチはT-FALの万単位のやつだ」
「何でもいいんだよ。おかげで、昼食はカップめんが食べられるようになった。スーパーふじで、大盛りカップ焼きそばが、1個だと99円だけど偶数個買うと2個で195円なんだよ。それにスーパーカップ1・5倍が128円だし。いいものを見つけたよ。市役所の食堂も値上げで、購買もタイミングを外せば菓子パンは売り切れるし。でもあれがあれば、そんなのは気にならない」
パトカーが見えた。
彼は慌ててボディ後部のサイドに隠されたパトランプを回転させパトカー仕様に切り替えた。
「パトランプは事件と緊急の時のみ使用しましょう」
白黒パトカーのスピーカーから声が聞こえる。
「・・・・・・本部長・・・・・・」
彼はステアリングにうなだれた。
「じゃあ、光学医療扶助の方、お願いな、それじゃ」
市長と別れてイオンを目指した。
イオンで毎度おなじみの中巻きバイキングを買って、ラーメン屋へ。
オペの後って不思議とラーメンが食べたくなる。
私の場合はいつでも、だけどね。
病棟に戻ったら、デニムのお金返すね
「いらないよ。とんでもないオペに前立ちさせたんだから、せめてものつぐない」
でも
「デモはギリシャもヨーロッパももう終わった。内戦に発展してしまった国があるのは残念だけど」
ねえ、デビッドって
「ああ、例えば、偶然、きょうみたいに買いたいものと出会った場合、手持ちがないとする。そうするとATMを探して、高い手数料をかけて引き出さなければならない。そんな時にATMを使わなくてもデビッドカードっていうものを提示すれば、口座から代金が自動的に引き落とされる。第二のキャッシュカードみたいなものだよ。銀行のATMは時間外手数料を取るし、コンビニATMは手数料が高い。ATMに走る手間も省けるから便利だよ。月会費105円のところもあるし、無料のところもある。今は都市銀行とネットバンクが中心だけど、かなり多くの銀行が取り入れてる。クレジットカードじゃないんだ。1回で全額引き落としされるから。ただATMを探したり、手数料を取られるのが嫌いだから、いくつかの銀行のを持ってる。ぼくはたくさん銀行の口座を持ってるでしょ。遊興費に使う口座はデビッドを作ってるんだ。クレジットと違って審査もないからね」
ほんとに、デニムの
「男に何回も同じことを言わせない。見事だったよ、人工粘膜の貼り合わせ。あれくらいの御褒美があって当然だ。失敗してれば患者さんは亡くなってた」
市長に、軽いオペだって
「あー。アネさんがね、ぼくの作成した電子カルテを書き換えてしまったんだ。オペで行ったことを半分に削った。おまえな、安さの殿堂ドンキホーテだって、ただでさえ安いのにバーゲンをやるんだよ。家電量販店は競合店を偵察して、売値を競合店より下げてるだろ。レンタルDVDだって新作を5本まとめてレンタルすると千円っていうのを毎月やってるだろ。今はバーゲンの時代だ。バーゲンのない店には客は来ないんだ。病院だって商売だからたまにバーゲンをやってもいいだろう。オペ室の中で行われたことはオペのクルーしか知らないんだ。特におまえの場合、ファミリーだろ。麻酔科長がなぜ必ずおまえのオペにつくのかって訊いたら、言ったね。ぼくは彼のファミリーだから、って。おまえのオペで、何が行われたかを他人にしゃべる奴はいないから大丈夫だ。私が責任は持つから。いいか、たまにバーゲンをやらないと、この病院も世間から忘れられてシャッターを下ろすようになるんだぞ。これからの医療はバーゲンが命なんだ。耳鼻科は3月3日に無料検診があるし歯科は6月4日に無料検診がある。ここは長期療養型有床病院だ。耳鼻科や歯科のクリニックに負けられるか、ってEnterを押して、電子カルテは事務局へ送られた。病棟のを見てみるといいよ。思い切りよく削ったから。どこまでも厚生労働省と対決する気なんだ。あの人にはかなわない」
じゃあ、レセプトも安くなるんだ
「ああ、半額」
光学医療扶助制度も家計を苦しめるような金額にならないならいいじゃない
そうでもしないと潜在的癌患者さんは減らないからね
病棟に戻ると、真っ先にスタッフステーションに顔を出した。
アネさんはマリオカートに夢中になっていた。
これ、お土産です
「何、なんだよ」
ストップボタンを押して、袋の中に顔を入れる。
「おお、ホタテのひもに、ホタテの子。それにイカのあぶりか。わかってんじゃないの志村さん。もらっていいのか」
準夜の看護師長に残ってもらって、深夜の副師長が出てきたら始めてください
夜食の後は一杯
「わかってるねー。ありがたくゴチになります。楽しみだなー。一緒にどうだ、ジュースでもこれらはうまいぞ」
夜食が済んだら、早めに休ませてもらいます
「はやく寝るの。なるほど。彼のベッドではやく寝るのね。若いっていいな、志村さん」
おかしな想像は止めてください
きのうから一睡もしてないからってだけです
わたしはパソコンに向かって、きのうのオペの患者さんの電子カルテを引き出した。
えーっ、本当に半分に削られてる。
準夜勤の安積看護師が覗きにきた。
「医長、機転が利きますね。すごい。半分に削ってる」
わたしは彼女を廊下へ連れ出した。
オペ室で何があったかは忘れてね
彼の首が飛んじゃうから
「はい。私もずっとハンチョウのチームでいたいから。あれから寮でぐっすりと眠ったら、きのうの出来事なんか覚えてないですよ。あっ、そうだ、患者さんの奥さん、なんか困ってたみたいで。ハンチョウに報告しないと」
安積看護師の話を聴いた彼は病室に向かった。
もしかしたらわたしの縫合がまずいのかも。
心配で、病室の外にいた。
「どうかされましたか」
「いやー、とにかく食欲がすごくて、病院食をきれいに食べた後はすぐおやつに果物や豆餅を1本。今もこの通り、ケーキを。大丈夫でしょうか」
「大丈夫ですよ。長いオペに耐えた患者さんはみんなこうなります。元気になった証拠ですよ。チャーシューメンの大盛りが食べたいといって奥さんを困らせた患者さんもいましたし。今は二週間に一度検査のために通院してきていますが、必ず、このすぐそばにおいしいラーメン屋さんがあって、チャーシューメンの大盛りを食べて帰るみたいです」
「食事制限とかは」
「なんでも、好きなものを食べてかまいません。ただ、おなかを壊すほどっていうのはまずいですけどね。あのう、手遅れだったのに生き返ってくれたんですから、多少のわがままは聴いてあげてください。いつまでも、ってことじゃなくて、オペが終わって2週間程度は。高額医療扶助のことは、ソーシャルワーカーから話がありましたか」
「はい。毎月の支払いがとても安くて助かりました。無利子だそうで」
「じゃあ、心配しないでゆっくりと身体を休めてください。これから一週間は個室療養になるので24時間付き添ってもらってかまいません。付き添いの寝具も用意させますので。何かあったらナースコールを押してください。ぼくが来ますから」
彼は病室から出てきた。
「あれ、どうしたの」
重大なことかと思って
「いつもの悩み」
それから彼は安積看護師に、付き添い用の寝具を用意させた。
チャーシューメン大盛りね。
いたいた。
彼のAZ-1の生みの親。
国会で民主党の議員に、死亡事故率No.1に挙げられボコボコにされて、マツダに生産停止命令が出て、4752台で生産は中止された。開発スタッフは引責で、各営業所に飛ばされて、この街の営業所長になったのが設計責任者。
この街で肺癌が見つかり、彼が担当医となった。
オペ後に麻酔が覚めての一言が、うまいチャーシューメンの大盛りが食べたい。
彼は、ある程度切開のあとがくっついたら食べに外出してもいいと言い、彼の知る限りのグルメ知識を動員して、おいしいラーメン店のMAPを作って渡した。
今でも食べ歩きをしているという。
あれだけ食べられれば、もう安心ね
「いやそうでもないよ。食べ過ぎておなかが下る可能性がある」
それは私たちにも言えることだ。
チャーシューメンを大盛りで食べて、これから中巻き寿司を食べようというのだから。
わたしの仕度が整うまでに、彼は事務長に話があるといって事務局へ。
恐らく、高額医療扶助制度のことで、ソーシャルワーカーさんと3人で話をしていたんでしょうね。
オペの後直ちに、電子カルテを記入して事務局へ送ってあったので、時間は短かったですよ。
市長が持ってきてくれて、まもなくですから、きのうのことを予測していたのかな、とちょっと不思議な気分です。
さあ、出発。
特にここにいくと決めずに、街中を飛ばし、気になったお店の前で車を停めるやり方で、三十数年間この街にいても全然知らない、古くから営業しているお店がたくさんありました。
一軒の古着屋さんが目に留まって、車を停めてもらったんです。
ウィンドウに、これは絶対にゲットしたいと思った、ブリーチのデニムがあって、思い切って手に入れようと思って。
今、手に入れないと永遠に会えないような気がして。
わたしの後に彼が続いてお店に入ると、いきなり、
「あーっ!、おまえ」
店員さんと同時に叫んでました。
なんと、彼の高校時代の同級生だったんです。
「なんでここにいるんだよ」
「ここは私の店だからだよ」
「私の店?」
「そう。社長だよ、ざまあみろ。いろんなショップでバイトして貯めたお金で自分の店を持ったの。驚いたのは私だよ。アメリカに移住したって聴いてたから」
「うん、確かに。でも、母親が肺癌で亡くなって、ぼくも大腸癌と胃癌と肺癌をやって、治療費が払えなくて日本で就職した。今は花咲の医療センターの末期癌病棟で医師をやってる」
「どこでライセンスを取ったの?」
「自動車学校で」
「ばかか、相変わらずおまえは。医師って意味」
「そっちか。ハーバード大学っていうボロなガタピシ大学。その前にコロンビア大学って、圧倒的に弁護士を出す学校に間違って入学して、臨床心理士のライセンスをとって、ハーバードで医師免許を取った。コロンビアには医学部がなかったんだ」
「ハーバードって、あの?」
「どの?」
「だから日本でよく言う、全米一の難関」
「っていうか、みんな頭がよすぎてイッテる奴が多かった」
「まあ、全教科満点だったしねテストは。全校共通問題学力テストでもいつもしのりんと常に全校一を争ってたし。吹奏楽とテニスの掛け持ちでほとんど勉強してないくせに、不思議な奴だった。しのりん、子供が4人だよ、今」
「高校卒業と同時に結婚したから、それくらいにはなってるだろうね。ぼくは子供が嫌いだから」
「結婚しないっていってたけど、したよね」
「イオンのショップの店長から聴いた?」
「見たらわかるって。あんたは女の子と恋人関係を続けることはしない。プロテスタントに憧れて、同じ戒律を自分に課してたから。そいつが女性といきなり現れたということは、結婚したってことしかないよね」
「その通りだよ。去年の4月に結婚したの。同じ病棟で働いている医師と。ぼくと母親の肺癌の担当医。もとは阪神大震災のときに医療班で一緒にボランティアをしてた。その頃から、彼女がぼくに憧れてたんだって」
「高校時代からモテたからね」
へー、ちょっと話が違うんですけど。
「卒業式に側溝へ放り込まれたもんね、女の子たちに」
あー、あれか。
「あれはテニス部の恒例行事だから。掛け声をかけたのは教頭とデラだよ。信じられないよ、教頭がそんなことをして許されるのか」
「いつ帰国したの?」
「正式には2007年。それより彼女がウィンドウのブリーチデニムが気に入って」
「ああ、あれ。奇跡の一枚なんだよ。手に入れた時は本当に驚いた。売ろうか、自分で履こうか迷った挙句、売れ残ったら自分のものにしようと思って。インチは・・・・・・」
わたしと同じ。
わたしを待っていてくれたの。
「いくら?」
「高いよ。でも、知らない間じゃないしね。仕入れでいいよ。78000円」
「それで後悔しない?」
「いいよ。あんただからそれでいい。一回言ったら何度も言わせるなよ」
わたしが財布を出すのにもたついている間に、彼はさっさとお金を出した。
「いつもニコニコ現金払いだから」
社長さんはウィンドウからデニムを外し、器用にたたんで袋に入れてくれた。
「なんだ、ここデビットも使えるの?」
「使えるよ」
「だったらそれを先に言えよ」
「表のステッカーを見てから店に入れよ」
「じゃあ今度からデビットにする。ここはメンズは?」
「レディースだけ。残念でした」
「もう家庭を持ってるんだろうね」
「長い春の男性はいるよ」
「冬にならないように気をつけてね」
店を出た。
車を回して
「えっ」
方向を変えて
「あーいいけどどうして」
ここから先は危険なの
変なおじさんの病院のそばでしょ
「ああ、ほんとだ。病棟が見える。でも、GEOもTSTAYAもあるから」
別にあそこじゃなくてもいくつも店舗はあるでしょ
「わかりました」
大通りをイオンへと流しているとウィンドウに市長が写った。
ジョギングしている。
彼は車を停めた。
「おーい。高額医療扶助制度、早速使わせてもらうぞ」
市長がサイドウィンドウをのぞいた。
「ああ。早速出たか」
立ち止まって話していても、足はジョギングをしたままだ。
「きのう、救急搬送があって、肺癌だ。点数は軽いオペで済んだからそんなに高くないけど、末期だったから、これから転移なんかを調べる必要があるからそれなりの入院が必要となる。詳しいことはソーシャルワーカーさんにまかせたから。世話になるな」
市長は軽く笑った。
「使ってもらうためのものだ。誰も使わなければ意味がない」
「無利子でいいのか?」
「元の形は無利子だったはずだろう。それがいつの間にか利子がついてしまった」
「支払い回数は最高何回まで」
「回数は後だ。例えば毎月5000円なら支払えるという人がいれば、総額を5000円で割って回数を出す。1000円でもかまわない。家計は千差万別だろう。柔軟に対応するようにしてあるんだ」
「考えたな」
「おい、日曜にな、すごいものを買ったんだ」
「車とか3D対応BSデジタルにCS100℃つき60VのTVとか」
「そんなものよりすごいんだよ。電気ケトルだ。電源コードのついた台にポットに水を入れて乗せてスイッチを入れると水がお湯に変わるんだよ。1980円定価が1480円。ホームセンターでさ」
「中国製だろ。ホームセンターの最安値のやつ。ウチでも使ってる。ウチはT-FALの万単位のやつだ」
「何でもいいんだよ。おかげで、昼食はカップめんが食べられるようになった。スーパーふじで、大盛りカップ焼きそばが、1個だと99円だけど偶数個買うと2個で195円なんだよ。それにスーパーカップ1・5倍が128円だし。いいものを見つけたよ。市役所の食堂も値上げで、購買もタイミングを外せば菓子パンは売り切れるし。でもあれがあれば、そんなのは気にならない」
パトカーが見えた。
彼は慌ててボディ後部のサイドに隠されたパトランプを回転させパトカー仕様に切り替えた。
「パトランプは事件と緊急の時のみ使用しましょう」
白黒パトカーのスピーカーから声が聞こえる。
「・・・・・・本部長・・・・・・」
彼はステアリングにうなだれた。
「じゃあ、光学医療扶助の方、お願いな、それじゃ」
市長と別れてイオンを目指した。
イオンで毎度おなじみの中巻きバイキングを買って、ラーメン屋へ。
オペの後って不思議とラーメンが食べたくなる。
私の場合はいつでも、だけどね。
病棟に戻ったら、デニムのお金返すね
「いらないよ。とんでもないオペに前立ちさせたんだから、せめてものつぐない」
でも
「デモはギリシャもヨーロッパももう終わった。内戦に発展してしまった国があるのは残念だけど」
ねえ、デビッドって
「ああ、例えば、偶然、きょうみたいに買いたいものと出会った場合、手持ちがないとする。そうするとATMを探して、高い手数料をかけて引き出さなければならない。そんな時にATMを使わなくてもデビッドカードっていうものを提示すれば、口座から代金が自動的に引き落とされる。第二のキャッシュカードみたいなものだよ。銀行のATMは時間外手数料を取るし、コンビニATMは手数料が高い。ATMに走る手間も省けるから便利だよ。月会費105円のところもあるし、無料のところもある。今は都市銀行とネットバンクが中心だけど、かなり多くの銀行が取り入れてる。クレジットカードじゃないんだ。1回で全額引き落としされるから。ただATMを探したり、手数料を取られるのが嫌いだから、いくつかの銀行のを持ってる。ぼくはたくさん銀行の口座を持ってるでしょ。遊興費に使う口座はデビッドを作ってるんだ。クレジットと違って審査もないからね」
ほんとに、デニムの
「男に何回も同じことを言わせない。見事だったよ、人工粘膜の貼り合わせ。あれくらいの御褒美があって当然だ。失敗してれば患者さんは亡くなってた」
市長に、軽いオペだって
「あー。アネさんがね、ぼくの作成した電子カルテを書き換えてしまったんだ。オペで行ったことを半分に削った。おまえな、安さの殿堂ドンキホーテだって、ただでさえ安いのにバーゲンをやるんだよ。家電量販店は競合店を偵察して、売値を競合店より下げてるだろ。レンタルDVDだって新作を5本まとめてレンタルすると千円っていうのを毎月やってるだろ。今はバーゲンの時代だ。バーゲンのない店には客は来ないんだ。病院だって商売だからたまにバーゲンをやってもいいだろう。オペ室の中で行われたことはオペのクルーしか知らないんだ。特におまえの場合、ファミリーだろ。麻酔科長がなぜ必ずおまえのオペにつくのかって訊いたら、言ったね。ぼくは彼のファミリーだから、って。おまえのオペで、何が行われたかを他人にしゃべる奴はいないから大丈夫だ。私が責任は持つから。いいか、たまにバーゲンをやらないと、この病院も世間から忘れられてシャッターを下ろすようになるんだぞ。これからの医療はバーゲンが命なんだ。耳鼻科は3月3日に無料検診があるし歯科は6月4日に無料検診がある。ここは長期療養型有床病院だ。耳鼻科や歯科のクリニックに負けられるか、ってEnterを押して、電子カルテは事務局へ送られた。病棟のを見てみるといいよ。思い切りよく削ったから。どこまでも厚生労働省と対決する気なんだ。あの人にはかなわない」
じゃあ、レセプトも安くなるんだ
「ああ、半額」
光学医療扶助制度も家計を苦しめるような金額にならないならいいじゃない
そうでもしないと潜在的癌患者さんは減らないからね
病棟に戻ると、真っ先にスタッフステーションに顔を出した。
アネさんはマリオカートに夢中になっていた。
これ、お土産です
「何、なんだよ」
ストップボタンを押して、袋の中に顔を入れる。
「おお、ホタテのひもに、ホタテの子。それにイカのあぶりか。わかってんじゃないの志村さん。もらっていいのか」
準夜の看護師長に残ってもらって、深夜の副師長が出てきたら始めてください
夜食の後は一杯
「わかってるねー。ありがたくゴチになります。楽しみだなー。一緒にどうだ、ジュースでもこれらはうまいぞ」
夜食が済んだら、早めに休ませてもらいます
「はやく寝るの。なるほど。彼のベッドではやく寝るのね。若いっていいな、志村さん」
おかしな想像は止めてください
きのうから一睡もしてないからってだけです
わたしはパソコンに向かって、きのうのオペの患者さんの電子カルテを引き出した。
えーっ、本当に半分に削られてる。
準夜勤の安積看護師が覗きにきた。
「医長、機転が利きますね。すごい。半分に削ってる」
わたしは彼女を廊下へ連れ出した。
オペ室で何があったかは忘れてね
彼の首が飛んじゃうから
「はい。私もずっとハンチョウのチームでいたいから。あれから寮でぐっすりと眠ったら、きのうの出来事なんか覚えてないですよ。あっ、そうだ、患者さんの奥さん、なんか困ってたみたいで。ハンチョウに報告しないと」
安積看護師の話を聴いた彼は病室に向かった。
もしかしたらわたしの縫合がまずいのかも。
心配で、病室の外にいた。
「どうかされましたか」
「いやー、とにかく食欲がすごくて、病院食をきれいに食べた後はすぐおやつに果物や豆餅を1本。今もこの通り、ケーキを。大丈夫でしょうか」
「大丈夫ですよ。長いオペに耐えた患者さんはみんなこうなります。元気になった証拠ですよ。チャーシューメンの大盛りが食べたいといって奥さんを困らせた患者さんもいましたし。今は二週間に一度検査のために通院してきていますが、必ず、このすぐそばにおいしいラーメン屋さんがあって、チャーシューメンの大盛りを食べて帰るみたいです」
「食事制限とかは」
「なんでも、好きなものを食べてかまいません。ただ、おなかを壊すほどっていうのはまずいですけどね。あのう、手遅れだったのに生き返ってくれたんですから、多少のわがままは聴いてあげてください。いつまでも、ってことじゃなくて、オペが終わって2週間程度は。高額医療扶助のことは、ソーシャルワーカーから話がありましたか」
「はい。毎月の支払いがとても安くて助かりました。無利子だそうで」
「じゃあ、心配しないでゆっくりと身体を休めてください。これから一週間は個室療養になるので24時間付き添ってもらってかまいません。付き添いの寝具も用意させますので。何かあったらナースコールを押してください。ぼくが来ますから」
彼は病室から出てきた。
「あれ、どうしたの」
重大なことかと思って
「いつもの悩み」
それから彼は安積看護師に、付き添い用の寝具を用意させた。
チャーシューメン大盛りね。
いたいた。
彼のAZ-1の生みの親。
国会で民主党の議員に、死亡事故率No.1に挙げられボコボコにされて、マツダに生産停止命令が出て、4752台で生産は中止された。開発スタッフは引責で、各営業所に飛ばされて、この街の営業所長になったのが設計責任者。
この街で肺癌が見つかり、彼が担当医となった。
オペ後に麻酔が覚めての一言が、うまいチャーシューメンの大盛りが食べたい。
彼は、ある程度切開のあとがくっついたら食べに外出してもいいと言い、彼の知る限りのグルメ知識を動員して、おいしいラーメン店のMAPを作って渡した。
今でも食べ歩きをしているという。
あれだけ食べられれば、もう安心ね
「いやそうでもないよ。食べ過ぎておなかが下る可能性がある」
それは私たちにも言えることだ。
チャーシューメンを大盛りで食べて、これから中巻き寿司を食べようというのだから。