礼拝の後、わたしたちは家族との会食を断り。車をイオン・モール西店へと向けた。
わたしにクレジットカードの入会案内をくれた店長に、どうしても彼が会うという。
原因はきのうの午後、わたしに届いた一通の封書。
金融会社からのものだ。
それを今朝になって開封した。
カードローンの案内。要するにお金を貸りてください、というような内容。
3つのコースがあり、10万円までと、50万円までと、100万円まで。
それぞれのコースの審査通過率まで書かれてあった。
これ以上は、被害者が増えるから書くなと彼が言うから書かないけど、とにかく信用金庫を名乗った封書だった。
信用金庫にはそういうプランがあることは、彼が口座を持っているので、よくいくとポスターが店内に貼られている。
わたしは信用金庫からのものだと思った。でも彼は違うという。
でも(3)って書いてあるよ。知事の認可が3回通っているんでしょ、まともだと思うけど
「確かに(3)って書いてある。でも数字の前には必ず「知事」という言葉が入るはずだ。それがないということは、いい加減に(3)と書いただけのものだよ。それに信用金庫にどうして知事の許可が必要になるの?銀行だよ」
じゃあ、おかしなところだというわけ
「イオンカード様からのご紹介、と文章を始めている。銀行がどうしてクレジットカード会社からの紹介を受けるの。イオンは自社で銀行を持っているんだよ。それをどうして競合する他行に紹介する必要があるんだろう。自行の顧客を取り逃がすことになるんだよ」
そうか。
それは言える。
ラーメン屋さんに行っても、店の主人が、あっちの店の方がおいしいとは決して言わない。
「信用金庫を語っただけの、手っ取り早く言えば闇金融だね、これは。いちばんおかしいのは住所が東京だろう。本物の信用金庫ならば、絶対北海道の人間に手は出さない。地元ごとに顧客をきれいに分けてるんだ。だから、本当の信用金庫なら、この街の、ぼくが口座を持っているところからしかこないんだよ。他の地区の顧客には手を出してはいけないという決まりがあるんだ」
そうか小さな街にも必ず、ゆうちょ銀行と信用金庫はある。
なわばりがあるんだ。
「問題は、”イオンカード様からのご紹介”ってところだ。顧客名簿が漏れてる。おそらく社員が小遣い稼ぎに他社に顧客名簿を売ってるんだと思う。会社組織がやることはないと思いたい」
彼は携帯を取るなりいきなり話し出した。たぶん連絡先に名前と電話番号を登録してあるのだろう。
「おはようございます。日曜の朝から申し訳ございません。イオンではイオンカードの申込者に、信用金庫のローンを紹介しているんですか?。自社で銀行を持っていても、競合店にわざわざ情報を渡してるとか。それともイオン銀行自体が信用金庫の出先機関なんでしょうか・・・・・・ああ、、きのうの午後、ウチの妻に”イオンカード様からのご案内という封書がきたんですよ。ローンの申し込み案内です。住所は東京で(3)。信用金庫を名乗ってます・・・・・・ですよね。闇金融の疑いが濃厚ですが、問題は”イオンカード様よりのご紹介”ですよ。イオンカードやイオン銀行の顧客名簿が流失しているんじゃないですか。疑いたくはありませんが、社員が小遣い稼ぎのために、こっそり顧客名簿を持ち出して売っているとか・・・・・・お願いします・・・・・・ええ、妻は、ぼくの友人が西店のテナントに入れてもらっているので、友人の紹介でイオンカードに申し込んでる最中です・・・・・・・わかりました、時間はあります・・・・・・そうしてみます。他店でも同じようなことがあるかもしれないので調べてみてください・・・・・・弟さん、観てますよ。とんでもない内閣の副総理で。いっそ政治から身を引いて、イオン・グループに入ればいいのに。お父さんの願いでしょう。あんなボロクソ内閣とともに消えるのはもったいないと思うんですけどね。それじゃ」
ねえ、今の電話ってイオングループのCEO?
民主党の岡田副総理のお兄さん?
「うん、3人兄弟の一番上。副総理は末っ子だから」
知り合いなの?
「うん、ぼくが筑紫哲也さんの後を受けて行ってる地雷撤廃運動や、サンダーバードにも理解を示してくれて協力してくれているんだ。特に地雷撤廃はほとんどイオンの資金で行っているんだよ。日立建設機械の社員が、ユンボを改造してすばらしい地雷除去のための重機を開発して、会社にプレゼンしたら、ボランティアに出す金はないと言われて、数名の仲間と独立した時にも、会社の設立資金をすべてイオンが出資した。各国の、地雷撤去のボランティアが、現場でその重機を見て、各国から注文が殺到した。千葉工業大学で進められている地雷除去ロボットの開発にも資金提供してるし、ぼくと数名の仲間が知恵を出し合って完成させた地雷探知器も開発費用はすべて出してくれた。見返りは全世界の地雷を一日も早く撤廃すること。自衛隊でもPKO活動で地雷撤去を行うんだけど、やり方が危険なんだ。92式と呼ばれる方法で、爆弾を抱えた隊員が地雷原を、爆弾をばら撒きながら走り抜ける。この方法だと、自ら地雷を踏んでしまう危険性がある。毎年1割の隊員が手足を吹き飛ばされたり、殉職することもある。
防衛庁に危険だから止めるように具申したら、どう言ったと思う?”その程度の死傷者は計算済みだから、大丈夫だ。” まあ、憲法で存在を否定された幽霊がやることだからいいけど。ぼくらが開発した探知器は安全だ。半径5km以内の地雷を、地雷にはいろいろな形があって、その国によって違うんだけど、それが何メートル下に埋まってるのか、地雷の型は何か、対人地雷か、対戦車地雷かまでを識別してモニターに視覚化する。後はそれを当てながら掘り出して、爆破すればいいだけだ。それも各国から莫大な発注があった。NECのエンジニアと作り上げたんだけどね。今は探知する範囲を広げる、つまりレーダー部分の性能をアップさせている最中だ。日本が世界に誇るのはハイテクだ。けっして幽霊であっても、命を捨てるようなことはダメだ。悠久の大儀に生きることはうれしい。でもあれは単なる無駄な兵力の喪失だ。特攻精神がまだ抜けない」
イオンが地雷撤廃を援助していることは、店舗のポスターでわかる。
もし、彼の言うことが本当で、社員が顧客名簿を勝手に持ち出して闇金融に売っているのなら、とても残念なことだ。
「とにかく西店を訪ねて、申し込みをしたテナントに、その文章を見せてくれ、って。イオン銀行に回して対処してくれるはずだから、って」
こうして、わたしたちはテナントを訪ね、店長に文章を見せた。
「まただよ。きのうの夕方から、同じ文章を持ってくる顧客が多いんだ。ちょっと待って。イオンクレジットの支店長を呼ぶから」
支店長はエスカレーターを駆け上がってやってきた。
「また増えたって?」
「これ。彼女はわたしの顧客の中でも最高に大切にしてるんだ。そんな人にまでこんなことをするなんて許せない」
「大変申し訳ございません。ただいま調査中で、当行の社員の誰かが、クレジットの申し込みをした方の名簿を端末から、多分USBメモリか何かにコピーして売ったものだというところまではわかったんですが、本社のシステムが明日でないと動かないものですから、誰かを特定することができないんです。各人パスワードを持っていますので、明日、本社が開けば、システム情報からパスワードを特定して割り出せるはずです。大変申し訳ございませんでした。あのう、この会社と当社はまったく関係はございませんので、ご融資を申し込まれるのだけはご遠慮ください。当社で調査いたしましたところ、まともな業者ではないことが判明したものですから。通報をいただき、真にありがとうございました。些少ではございますが、お納めください」
支店長は深々と頭を下げ、封筒を差し出した。
いえ、わたしはそんなつもりじゃなくて、つまりイオンさんが何かの被害に会われたら、お買い物をする場所がなくなるので、お知らせしただけですから
「受け取ってあげて。イオンという会社はこういうところまできちんと対処せよ、と会長から命令が出てるんだって。受け取らないと支社長が処分されるんだよ」
では、受け取らせていただきます
わたしは封筒を受け取った。
「仔細が判明いたしましたら、必ずご報告いたします。ご連絡時間ですが、ご都合のよい時間はございますでしょうか?」
「病棟勤務医だからね、花咲の医療センターの」
「一応、午後6時で通常勤務は終了ですので、それ以降であれば」
彼は言った。
「じゃあ、午後8時ということでいかがでしょう」
けっこうですよ
「では申し訳ございません、お名前と、携帯で結構ですから電話番号を頂戴できますか」
支社長の差し出した紙に、わたしは名前と連絡先を記入した。
「ありがとうございます。当社クレジットカードの申し込みをいただいたそうですが、仮会員証は受け取られておりますでしょうか」
ピンクの、ですね?
「そうです」
こちらの店長さんから受け取りました
「そうですか」
わたしの渡したメモに目を通していた。
「ああ、志村さんですか。真に申し訳ございません、カードの方は今月末のお届けとなりますので、もう少々お時間をいただきたく存じます。遅くなりまして申し訳ございません。それでは失礼いたします」
支店長は何度も深々と頭を下げながら、エスカレーターを走って降りていった。
「あーあー、エスカレーターを走って降りるななんて案内放送をしてるのに、社員自ら破ってちゃしょうがないな」
「きょうはこれだけのために来たんじゃないよ」
彼は言った。
「毎月20日はイオンデーだから来たんだ。ついては、彼女のボトムは先日買ったばかりだから、上をね。ぼくが選んでもいいんだけど、それだと押し付けがましくなるから、第三者の目でなんとかしてほしくて。店長ならお願いできるかな、なんてね」
「いつもどうも。だけど、どうする?パーカーなんかもアリ」
彼は頷いた。
「ケミカルウォッシュのシャツに、グリーンのパーカーなんかどう?」
店長さんはシャツを出し、持ってきたパーカーを上に置いてみる。
「それいいね。このカレッジパーカーってどこのブランド?」
彼は訊いた。
「ノーブランドだけど、何か」
「ミシガン州立大学のプリントしかないの?」
「いや、あるけど、どこ? ボストンとかシカゴとか」
「コロンビアとハーバード」
「あんたの出身校のね。わかりやすいね、相変わらず。たぶんあると思う。探してみたら?」
彼はさっそくパーカーを探しはじめた。
「1890円って安いね」
「きょうはそこから5%引き}
「で、いくら?」
「自分で計算してくれる?ハーバードを卒業したんでしょう」
「1890円の5%・・・・・・1767円か。半端だね、思い切り」
「イオンに言って」
「はい。おー両方ともあるじゃん。でも、どっちもシンプルなグレーか。うーん、プルオーバーなら、主張の強いブルゾンを合わせるしかないな。店長」
「悪いけどあんたはセルフサービスでやって」
「あー、そうなの。そうですか。そうします」
彼はブルゾンのところへ行き、懸命に探し出した。
「あまりにも地味なグレイ・・・・・・あった、このくらい主張の強いものじゃないとパーカーに潰される」
彼が選んだのはブルーに上部が鮮やかなレッドの切り替えになっているブルゾン。
主張が強すぎて、出身校の名前のパーカーが潰れてる。
それ、ブルゾンじゃなくてパーカーじゃないの?
「うん、マウンテンパーカー。XLARGEのね。プルオーバーにフルジップを重ねるんだ。薄手だから、そんなに肩はこらないと思う。最近肩こりが酷くてね」
「あんた、そんなことを言ったらデラが夜中に訪ねてきて、朝まで生説教だよ。亡くなってから50年はこの世にいるんでしょ。そういえばテニス部で、あんたがでかい声で”あー、肩こった”って叫んだ途端にデラがコートに入ってきて、何の関係もない私まで説教を食らったことがあったよね」
「忘れた」
「都合の悪いことは忘れるんだ。ラケットをきちんと振ってないからだ。正しいフォームで振ればテニスプレイヤーで肩がこる奴はいない。おまえはきちんとパートナーを躾けろ。お前の躾がなってないから、こんなふざけたことを言うんだ、このバカは」
「あー、そういえば一度そんな」
「一度じゃない何十回も。その後は必ず徹底的にしごかれる。まだ借りををかえしてもらってないね、それより、ごめんの一言もないんですけどね!」
「借りは、えー、お買い物でお返しします。謝罪は、ここで土下座をしたらボトムが汚れますので、立ったままで申し訳ございません。本当に高校の2年間は、至らない相棒で多大なご迷惑をおかけいたしました。心よりお詫び申し上げます」
身体を90度に折って、彼は詫びた。
「わかればいいんだよ、わかれば。さあ顔を上げな」
彼は顔を上げた。
でも、それが店長さんの怒りに火をつけた。
あげた顔が、歌舞伎の睨み。
西の藤十郎、東の団十郎じゃないけど、成田屋さんの十八番の睨み。
成田屋というのは市川団十郎一門の屋号。
最近もいろいろと話題をふりまいてくれたでしょ。アナウンサーと結婚して、酔って一般人と殴ったの殴られたの。あの彼の十八番の睨みをしてしまった。
彼は半端じゃなく歌舞伎が好きで、役者さんとも親交がある。
もちろん話題の彼とも仲がいい。海老の人だよ。
あとは成駒屋の中村福助さん。この人は三田寛子さんの義理のお兄さん。
猛虎会っていう阪神タイガースのファンクラブにともに籍を置いて、電話で試合の敗因とかきょうの藤川の球は走っていたとか、反省してる。
それから高麗屋さん。市川染五郎さん。松たか子さんのお兄さん。お父さんは松本幸四郎さんで、ミュージカルからドラマ、映画まで幅広く活躍してる。劇場版『HERO』で容疑者側弁護士の役で、SMAPの木村くんの久利生検事と検察事務官で久利生検事担当の松たか子さんと親子共演で敵味方を演じた。
そして、時のいたずらか偶然か、友人の妹の主演映画『告白』の音楽を担当することになってしまった。
一番、彼と結びつきが強いのは澤瀉屋(おもだかや)さん。市川猿之助一門。宙乗りなどを駆使して、従来の歌舞伎にないスペクタクルを生み出したのが市川猿之助さん。彼は毎度、指名され、スーパー歌舞伎の音楽を担当してきた。でも、ご病気でもうスーパー歌舞伎はなくなると思っていたところに、偶然、彼の悪友である、猿之助さんの息子さんで俳優の香川照之さんが一門を継ぐことになった。
東大卒とハーバード卒で引き合うものがあるんじゃない。
彼によると、あいつは受験勉強をまったくしないで現役で東大に入った、頭がおかしいんだって。受験の前の日も遊びまわって、深夜に帰宅してからTVゲームを朝までやって不眠のまま受験して合格した、とか。
ウチの彼だって人のことは言えないからね。入学試験はないけど面接と小論文はある。でも前日から当日の朝方までジャズ・バーのステージでセッションをして、楽器だけをアパートに放り込んで面接に臨んだ。彼の場合はTOFELという英語のテストで920点という満点のスコアを持っていたから、ハーバードの受験資格はあったものの、他人の頭がおかしいなんて言う資格はない。同じことをやってるんだから。
スーパー歌舞伎を息子さんが復活させたら、2人であーだこーだ揉めながら、結局は歌舞伎の枠を越えた歌舞伎を作るんだろうね。
とにかく、おつきあいのある役者さんの公演初日には必ず、その土地の決まったお寿司屋さんに連絡を入れて、おいなりさんを差し入れる。それが歌舞伎の役者さんと親交のある者の礼儀。
そこからきて、今では普通のお芝居の劇場公演やミュージカルでもそういう風習になっている。
とにかくあそこで睨みはまずいよ。
人をバカにする態度だよ、あれは。
歌舞伎座でなら「いょっ、成田屋!」って声をかけるのが礼儀だけどね。
ジョークですまない。
お詫びに、彼はパーカーから、シャツ、ボトム、シューズまで山ほど買ったけどね。
わたしのまで一緒に払ってもらって。
それから、夜中に小腹がすいた時のために中巻きヴァイキングを買って、イオンからラーメン店に向かった。
正直言って、イチゴはもう飽きた。
きょうも、朝食と昼食はイチゴのみだったから。
だけど、ラーメンだけはいくら食べても飽きないんだよね。
一応、きのうとはちがうお店だったけど、何日続いても飽きない。
ラーメンって、日本人の脳の中に刷り込まれてるんだろうね。
1日3食でもいいと思う。
それでも飽きないよ、ラーメンだけは。
逆に何日か食べないと、身体がおかしくなるくらい。
支店長がわたしに渡してくれたのは2万円分の、イオンの商品券。
逆に悪いことをしてしまったみたい。
わたしが開封した文章を読むだけ読んで、捨ててしまえば迷惑をかけることもなかったのに。
イオンって行き届いてるよ、客に対しては本当に丁寧だから。コープは5千円を毎年納めている会員に対しては丁寧だけど、非会員に対しては冷たいからね。ドンキも売り場面積に見合っただけの店員を置いてないし、何か訊いてもわからないで済まされる。第一レジがどこかも知らない店員さんがいるんだからね。
彼がキャスターの筑紫哲也さんに共感して、菅野美穂さんや坂本龍一さん、韓国の人間国宝であるサルムノリのメンバーを始めとする、世界のトップミュージシャンとの地雷全廃「ZERO LAND OF MINE」運動を支えてくれてる企業だし、顧客に対する真摯な姿勢が素晴らしいから、わたしはイオンに通い続ける。
鮮魚売り場の店員さんに、スポーツドリンクの売り場を訊いても、ちゃんとそこまで案内してくれるからね、とにかく売り場面積が広いから何度行っても憶えられない。それをきちんと憶えていてわざわざ自分の仕事をやりかけにしてまで案内してくれるなんてすごいよ。社員教育が相当厳しいんだろうと思う。
そのときによって店舗は違うかもしれないけど、わたしはずっとイオンに通い続ける。
わたしにクレジットカードの入会案内をくれた店長に、どうしても彼が会うという。
原因はきのうの午後、わたしに届いた一通の封書。
金融会社からのものだ。
それを今朝になって開封した。
カードローンの案内。要するにお金を貸りてください、というような内容。
3つのコースがあり、10万円までと、50万円までと、100万円まで。
それぞれのコースの審査通過率まで書かれてあった。
これ以上は、被害者が増えるから書くなと彼が言うから書かないけど、とにかく信用金庫を名乗った封書だった。
信用金庫にはそういうプランがあることは、彼が口座を持っているので、よくいくとポスターが店内に貼られている。
わたしは信用金庫からのものだと思った。でも彼は違うという。
でも(3)って書いてあるよ。知事の認可が3回通っているんでしょ、まともだと思うけど
「確かに(3)って書いてある。でも数字の前には必ず「知事」という言葉が入るはずだ。それがないということは、いい加減に(3)と書いただけのものだよ。それに信用金庫にどうして知事の許可が必要になるの?銀行だよ」
じゃあ、おかしなところだというわけ
「イオンカード様からのご紹介、と文章を始めている。銀行がどうしてクレジットカード会社からの紹介を受けるの。イオンは自社で銀行を持っているんだよ。それをどうして競合する他行に紹介する必要があるんだろう。自行の顧客を取り逃がすことになるんだよ」
そうか。
それは言える。
ラーメン屋さんに行っても、店の主人が、あっちの店の方がおいしいとは決して言わない。
「信用金庫を語っただけの、手っ取り早く言えば闇金融だね、これは。いちばんおかしいのは住所が東京だろう。本物の信用金庫ならば、絶対北海道の人間に手は出さない。地元ごとに顧客をきれいに分けてるんだ。だから、本当の信用金庫なら、この街の、ぼくが口座を持っているところからしかこないんだよ。他の地区の顧客には手を出してはいけないという決まりがあるんだ」
そうか小さな街にも必ず、ゆうちょ銀行と信用金庫はある。
なわばりがあるんだ。
「問題は、”イオンカード様からのご紹介”ってところだ。顧客名簿が漏れてる。おそらく社員が小遣い稼ぎに他社に顧客名簿を売ってるんだと思う。会社組織がやることはないと思いたい」
彼は携帯を取るなりいきなり話し出した。たぶん連絡先に名前と電話番号を登録してあるのだろう。
「おはようございます。日曜の朝から申し訳ございません。イオンではイオンカードの申込者に、信用金庫のローンを紹介しているんですか?。自社で銀行を持っていても、競合店にわざわざ情報を渡してるとか。それともイオン銀行自体が信用金庫の出先機関なんでしょうか・・・・・・ああ、、きのうの午後、ウチの妻に”イオンカード様からのご案内という封書がきたんですよ。ローンの申し込み案内です。住所は東京で(3)。信用金庫を名乗ってます・・・・・・ですよね。闇金融の疑いが濃厚ですが、問題は”イオンカード様よりのご紹介”ですよ。イオンカードやイオン銀行の顧客名簿が流失しているんじゃないですか。疑いたくはありませんが、社員が小遣い稼ぎのために、こっそり顧客名簿を持ち出して売っているとか・・・・・・お願いします・・・・・・ええ、妻は、ぼくの友人が西店のテナントに入れてもらっているので、友人の紹介でイオンカードに申し込んでる最中です・・・・・・・わかりました、時間はあります・・・・・・そうしてみます。他店でも同じようなことがあるかもしれないので調べてみてください・・・・・・弟さん、観てますよ。とんでもない内閣の副総理で。いっそ政治から身を引いて、イオン・グループに入ればいいのに。お父さんの願いでしょう。あんなボロクソ内閣とともに消えるのはもったいないと思うんですけどね。それじゃ」
ねえ、今の電話ってイオングループのCEO?
民主党の岡田副総理のお兄さん?
「うん、3人兄弟の一番上。副総理は末っ子だから」
知り合いなの?
「うん、ぼくが筑紫哲也さんの後を受けて行ってる地雷撤廃運動や、サンダーバードにも理解を示してくれて協力してくれているんだ。特に地雷撤廃はほとんどイオンの資金で行っているんだよ。日立建設機械の社員が、ユンボを改造してすばらしい地雷除去のための重機を開発して、会社にプレゼンしたら、ボランティアに出す金はないと言われて、数名の仲間と独立した時にも、会社の設立資金をすべてイオンが出資した。各国の、地雷撤去のボランティアが、現場でその重機を見て、各国から注文が殺到した。千葉工業大学で進められている地雷除去ロボットの開発にも資金提供してるし、ぼくと数名の仲間が知恵を出し合って完成させた地雷探知器も開発費用はすべて出してくれた。見返りは全世界の地雷を一日も早く撤廃すること。自衛隊でもPKO活動で地雷撤去を行うんだけど、やり方が危険なんだ。92式と呼ばれる方法で、爆弾を抱えた隊員が地雷原を、爆弾をばら撒きながら走り抜ける。この方法だと、自ら地雷を踏んでしまう危険性がある。毎年1割の隊員が手足を吹き飛ばされたり、殉職することもある。
防衛庁に危険だから止めるように具申したら、どう言ったと思う?”その程度の死傷者は計算済みだから、大丈夫だ。” まあ、憲法で存在を否定された幽霊がやることだからいいけど。ぼくらが開発した探知器は安全だ。半径5km以内の地雷を、地雷にはいろいろな形があって、その国によって違うんだけど、それが何メートル下に埋まってるのか、地雷の型は何か、対人地雷か、対戦車地雷かまでを識別してモニターに視覚化する。後はそれを当てながら掘り出して、爆破すればいいだけだ。それも各国から莫大な発注があった。NECのエンジニアと作り上げたんだけどね。今は探知する範囲を広げる、つまりレーダー部分の性能をアップさせている最中だ。日本が世界に誇るのはハイテクだ。けっして幽霊であっても、命を捨てるようなことはダメだ。悠久の大儀に生きることはうれしい。でもあれは単なる無駄な兵力の喪失だ。特攻精神がまだ抜けない」
イオンが地雷撤廃を援助していることは、店舗のポスターでわかる。
もし、彼の言うことが本当で、社員が顧客名簿を勝手に持ち出して闇金融に売っているのなら、とても残念なことだ。
「とにかく西店を訪ねて、申し込みをしたテナントに、その文章を見せてくれ、って。イオン銀行に回して対処してくれるはずだから、って」
こうして、わたしたちはテナントを訪ね、店長に文章を見せた。
「まただよ。きのうの夕方から、同じ文章を持ってくる顧客が多いんだ。ちょっと待って。イオンクレジットの支店長を呼ぶから」
支店長はエスカレーターを駆け上がってやってきた。
「また増えたって?」
「これ。彼女はわたしの顧客の中でも最高に大切にしてるんだ。そんな人にまでこんなことをするなんて許せない」
「大変申し訳ございません。ただいま調査中で、当行の社員の誰かが、クレジットの申し込みをした方の名簿を端末から、多分USBメモリか何かにコピーして売ったものだというところまではわかったんですが、本社のシステムが明日でないと動かないものですから、誰かを特定することができないんです。各人パスワードを持っていますので、明日、本社が開けば、システム情報からパスワードを特定して割り出せるはずです。大変申し訳ございませんでした。あのう、この会社と当社はまったく関係はございませんので、ご融資を申し込まれるのだけはご遠慮ください。当社で調査いたしましたところ、まともな業者ではないことが判明したものですから。通報をいただき、真にありがとうございました。些少ではございますが、お納めください」
支店長は深々と頭を下げ、封筒を差し出した。
いえ、わたしはそんなつもりじゃなくて、つまりイオンさんが何かの被害に会われたら、お買い物をする場所がなくなるので、お知らせしただけですから
「受け取ってあげて。イオンという会社はこういうところまできちんと対処せよ、と会長から命令が出てるんだって。受け取らないと支社長が処分されるんだよ」
では、受け取らせていただきます
わたしは封筒を受け取った。
「仔細が判明いたしましたら、必ずご報告いたします。ご連絡時間ですが、ご都合のよい時間はございますでしょうか?」
「病棟勤務医だからね、花咲の医療センターの」
「一応、午後6時で通常勤務は終了ですので、それ以降であれば」
彼は言った。
「じゃあ、午後8時ということでいかがでしょう」
けっこうですよ
「では申し訳ございません、お名前と、携帯で結構ですから電話番号を頂戴できますか」
支社長の差し出した紙に、わたしは名前と連絡先を記入した。
「ありがとうございます。当社クレジットカードの申し込みをいただいたそうですが、仮会員証は受け取られておりますでしょうか」
ピンクの、ですね?
「そうです」
こちらの店長さんから受け取りました
「そうですか」
わたしの渡したメモに目を通していた。
「ああ、志村さんですか。真に申し訳ございません、カードの方は今月末のお届けとなりますので、もう少々お時間をいただきたく存じます。遅くなりまして申し訳ございません。それでは失礼いたします」
支店長は何度も深々と頭を下げながら、エスカレーターを走って降りていった。
「あーあー、エスカレーターを走って降りるななんて案内放送をしてるのに、社員自ら破ってちゃしょうがないな」
「きょうはこれだけのために来たんじゃないよ」
彼は言った。
「毎月20日はイオンデーだから来たんだ。ついては、彼女のボトムは先日買ったばかりだから、上をね。ぼくが選んでもいいんだけど、それだと押し付けがましくなるから、第三者の目でなんとかしてほしくて。店長ならお願いできるかな、なんてね」
「いつもどうも。だけど、どうする?パーカーなんかもアリ」
彼は頷いた。
「ケミカルウォッシュのシャツに、グリーンのパーカーなんかどう?」
店長さんはシャツを出し、持ってきたパーカーを上に置いてみる。
「それいいね。このカレッジパーカーってどこのブランド?」
彼は訊いた。
「ノーブランドだけど、何か」
「ミシガン州立大学のプリントしかないの?」
「いや、あるけど、どこ? ボストンとかシカゴとか」
「コロンビアとハーバード」
「あんたの出身校のね。わかりやすいね、相変わらず。たぶんあると思う。探してみたら?」
彼はさっそくパーカーを探しはじめた。
「1890円って安いね」
「きょうはそこから5%引き}
「で、いくら?」
「自分で計算してくれる?ハーバードを卒業したんでしょう」
「1890円の5%・・・・・・1767円か。半端だね、思い切り」
「イオンに言って」
「はい。おー両方ともあるじゃん。でも、どっちもシンプルなグレーか。うーん、プルオーバーなら、主張の強いブルゾンを合わせるしかないな。店長」
「悪いけどあんたはセルフサービスでやって」
「あー、そうなの。そうですか。そうします」
彼はブルゾンのところへ行き、懸命に探し出した。
「あまりにも地味なグレイ・・・・・・あった、このくらい主張の強いものじゃないとパーカーに潰される」
彼が選んだのはブルーに上部が鮮やかなレッドの切り替えになっているブルゾン。
主張が強すぎて、出身校の名前のパーカーが潰れてる。
それ、ブルゾンじゃなくてパーカーじゃないの?
「うん、マウンテンパーカー。XLARGEのね。プルオーバーにフルジップを重ねるんだ。薄手だから、そんなに肩はこらないと思う。最近肩こりが酷くてね」
「あんた、そんなことを言ったらデラが夜中に訪ねてきて、朝まで生説教だよ。亡くなってから50年はこの世にいるんでしょ。そういえばテニス部で、あんたがでかい声で”あー、肩こった”って叫んだ途端にデラがコートに入ってきて、何の関係もない私まで説教を食らったことがあったよね」
「忘れた」
「都合の悪いことは忘れるんだ。ラケットをきちんと振ってないからだ。正しいフォームで振ればテニスプレイヤーで肩がこる奴はいない。おまえはきちんとパートナーを躾けろ。お前の躾がなってないから、こんなふざけたことを言うんだ、このバカは」
「あー、そういえば一度そんな」
「一度じゃない何十回も。その後は必ず徹底的にしごかれる。まだ借りををかえしてもらってないね、それより、ごめんの一言もないんですけどね!」
「借りは、えー、お買い物でお返しします。謝罪は、ここで土下座をしたらボトムが汚れますので、立ったままで申し訳ございません。本当に高校の2年間は、至らない相棒で多大なご迷惑をおかけいたしました。心よりお詫び申し上げます」
身体を90度に折って、彼は詫びた。
「わかればいいんだよ、わかれば。さあ顔を上げな」
彼は顔を上げた。
でも、それが店長さんの怒りに火をつけた。
あげた顔が、歌舞伎の睨み。
西の藤十郎、東の団十郎じゃないけど、成田屋さんの十八番の睨み。
成田屋というのは市川団十郎一門の屋号。
最近もいろいろと話題をふりまいてくれたでしょ。アナウンサーと結婚して、酔って一般人と殴ったの殴られたの。あの彼の十八番の睨みをしてしまった。
彼は半端じゃなく歌舞伎が好きで、役者さんとも親交がある。
もちろん話題の彼とも仲がいい。海老の人だよ。
あとは成駒屋の中村福助さん。この人は三田寛子さんの義理のお兄さん。
猛虎会っていう阪神タイガースのファンクラブにともに籍を置いて、電話で試合の敗因とかきょうの藤川の球は走っていたとか、反省してる。
それから高麗屋さん。市川染五郎さん。松たか子さんのお兄さん。お父さんは松本幸四郎さんで、ミュージカルからドラマ、映画まで幅広く活躍してる。劇場版『HERO』で容疑者側弁護士の役で、SMAPの木村くんの久利生検事と検察事務官で久利生検事担当の松たか子さんと親子共演で敵味方を演じた。
そして、時のいたずらか偶然か、友人の妹の主演映画『告白』の音楽を担当することになってしまった。
一番、彼と結びつきが強いのは澤瀉屋(おもだかや)さん。市川猿之助一門。宙乗りなどを駆使して、従来の歌舞伎にないスペクタクルを生み出したのが市川猿之助さん。彼は毎度、指名され、スーパー歌舞伎の音楽を担当してきた。でも、ご病気でもうスーパー歌舞伎はなくなると思っていたところに、偶然、彼の悪友である、猿之助さんの息子さんで俳優の香川照之さんが一門を継ぐことになった。
東大卒とハーバード卒で引き合うものがあるんじゃない。
彼によると、あいつは受験勉強をまったくしないで現役で東大に入った、頭がおかしいんだって。受験の前の日も遊びまわって、深夜に帰宅してからTVゲームを朝までやって不眠のまま受験して合格した、とか。
ウチの彼だって人のことは言えないからね。入学試験はないけど面接と小論文はある。でも前日から当日の朝方までジャズ・バーのステージでセッションをして、楽器だけをアパートに放り込んで面接に臨んだ。彼の場合はTOFELという英語のテストで920点という満点のスコアを持っていたから、ハーバードの受験資格はあったものの、他人の頭がおかしいなんて言う資格はない。同じことをやってるんだから。
スーパー歌舞伎を息子さんが復活させたら、2人であーだこーだ揉めながら、結局は歌舞伎の枠を越えた歌舞伎を作るんだろうね。
とにかく、おつきあいのある役者さんの公演初日には必ず、その土地の決まったお寿司屋さんに連絡を入れて、おいなりさんを差し入れる。それが歌舞伎の役者さんと親交のある者の礼儀。
そこからきて、今では普通のお芝居の劇場公演やミュージカルでもそういう風習になっている。
とにかくあそこで睨みはまずいよ。
人をバカにする態度だよ、あれは。
歌舞伎座でなら「いょっ、成田屋!」って声をかけるのが礼儀だけどね。
ジョークですまない。
お詫びに、彼はパーカーから、シャツ、ボトム、シューズまで山ほど買ったけどね。
わたしのまで一緒に払ってもらって。
それから、夜中に小腹がすいた時のために中巻きヴァイキングを買って、イオンからラーメン店に向かった。
正直言って、イチゴはもう飽きた。
きょうも、朝食と昼食はイチゴのみだったから。
だけど、ラーメンだけはいくら食べても飽きないんだよね。
一応、きのうとはちがうお店だったけど、何日続いても飽きない。
ラーメンって、日本人の脳の中に刷り込まれてるんだろうね。
1日3食でもいいと思う。
それでも飽きないよ、ラーメンだけは。
逆に何日か食べないと、身体がおかしくなるくらい。
支店長がわたしに渡してくれたのは2万円分の、イオンの商品券。
逆に悪いことをしてしまったみたい。
わたしが開封した文章を読むだけ読んで、捨ててしまえば迷惑をかけることもなかったのに。
イオンって行き届いてるよ、客に対しては本当に丁寧だから。コープは5千円を毎年納めている会員に対しては丁寧だけど、非会員に対しては冷たいからね。ドンキも売り場面積に見合っただけの店員を置いてないし、何か訊いてもわからないで済まされる。第一レジがどこかも知らない店員さんがいるんだからね。
彼がキャスターの筑紫哲也さんに共感して、菅野美穂さんや坂本龍一さん、韓国の人間国宝であるサルムノリのメンバーを始めとする、世界のトップミュージシャンとの地雷全廃「ZERO LAND OF MINE」運動を支えてくれてる企業だし、顧客に対する真摯な姿勢が素晴らしいから、わたしはイオンに通い続ける。
鮮魚売り場の店員さんに、スポーツドリンクの売り場を訊いても、ちゃんとそこまで案内してくれるからね、とにかく売り場面積が広いから何度行っても憶えられない。それをきちんと憶えていてわざわざ自分の仕事をやりかけにしてまで案内してくれるなんてすごいよ。社員教育が相当厳しいんだろうと思う。
そのときによって店舗は違うかもしれないけど、わたしはずっとイオンに通い続ける。