オペ明け休日1日目。
 道路から雪が消えてくれない。
 気温が異常に低いからか。
 こんな日は徒歩で動ける範囲で楽しみを探せばいい。
 午前中に診察をして、きのうのオペの患者さんに外泊許可を与えた。
 オペの前は息も絶え絶えという感じだったのに、今朝は普通の呼吸に戻ってる。
 念のため、彼が作り出したインフルエンザのワクチンを投与してから送り出した。

 さあ、これからどうする?
 「AZ-1で出かけるのが怖い?」
 怖い
 「ストレートだね。じゃあDVDでも観る?今の時間はちゃんねーまわしてもAKBは出ないし」

 そうすることにした。
 彼が持ち込んでいるDVDで、まだ観ていないものがあって、BOXなんだけど、ロボットみたいなものが半面内部図解で描かれていて、『マジンガーメモリアルBOX』と表記されている。
 ねえ、これ観てもいい?
 何なの、これ?
 「マジンガーZって巨大ロボットアニメの元祖。マジンガーがなければガンダムもエヴァンゲリヲンもなかっただろうね。このBOXは、東映まんがまつりといって春夏冬の休み期間に、東映が製作した長編名作アニメ、シャルル・ペローの「長靴をはいた猫」とか「にんぎょ姫」とかに、東映製作のTV用アニメのスペシャルヴァージョンを数本同時上映したんだ。特撮の仮面ライダーとか戦隊ヒーローなんかも入ってたけどね。その東映まんがまつりで上映された「マジンガーシリーズ」だけを集めたBOXだよ。観てみる?」
 
 最初が『マジンガーZ対デビルマン』。
 TAKECHIANNMANのブラック・デビルと関係があるとか?
 あれは別物、さんまさんのブラック・デビルは昭和30年代のヒーロードラマ『少年ジェット』からきてる。デビルマンは少年週刊誌に連載されていた漫画が原作で、デーモン族を裏切って人間の味方としてデーモン族を倒していくヒーローなんだ」
 マジンガーZっていうのが、このパッケージのロボットなんだよね
 対ってことはデビルマンと戦うわけ?
 「いや、それは観ればわかるよ。ぼくは高校生の時までマジンガーもデビルマンも知らなかった。ガンダムも観たことがなかったからね。それで作詞の依頼があったんだ。森口博子という新人をデビューさせるから詞を書いて欲しい。これは『機動戦士Z(ゼータ)ガンダム』の主題歌になるからって。でもこっちはまるきりわからない世界だ。やがて番組の企画書が届いて、読んだら、スペースコロニーとかエゥーゴとか書いてある。エゥーゴなんて説明されていてもわからないし、スペースコロニーならSF小説で読んでるから理解できた。地球の人口が増えすぎて住めなくなった人々は、スペースコロニーという巨大な人口天体に移住する。だから、コロニー生活者の目線で地球を描いた「水の星へ愛をこめて」っていう詞にした。売れたんだ、これが。 高校2年生にして初めての所得税だよ。でも、森口博子が売れたんじゃなかった。ガンダムが社会現象的にヒットしていたんだ。ガンダムのプラモデルを買うために出かけた少年たちがいろいろな事故にあって、毎日のように新聞に載ってたよ。エスカレーターで将棋倒しなんていうニュースが。森口はその後、歌手からバラエティーに転向して売れていた。そんな時、また劇場用作品でガンダムを作るから詞と曲両方書いて欲しいと頼まれた。きみが歌ってくれ、って。それで自分で歌うのに抵抗があって、高校がアルバイトとか芸能活動に対してものすごく厳しかったから、作るのはペンネームだからバレない。でも超人気作品のガンダムならTVの歌番組の出演依頼があるかもしれないし、ぼくのプロダクションのソニーミュージックアーティストもTV出演を売り込むだろうなと思ったから、誰か歌手と立てて欲しいとレコード会社に頼んだけど、無視されて、それじゃあぼくの自由にしてください、って、アメリカと日本でやりあった。
 高校3年生の時に請けた仕事がアメリカに行ってから映画が完成したんだ。製作期間がとても長くて、途中でシナリオが何十回も書き換わって、そのたびに詞と曲が白紙に戻って書き直し。ガンダムの世界観を広げる作品だから慎重に作ったって、監督の富野さんという人に言われたけど、酷い作業だったな、あれは。
 やっと作品が完成して、音楽を入れる作業を音楽監督の三枝成章さんが行いだして、主題歌も本格的な製作体制に入った。
  ぼくは森口博子を指名した。レコード会社は大反対。売れないやつを使って穴を開けるのか。
 じゃあ、ぼくも降板しますって。売れなかったらぼくが責任を持って穴を埋めるって言い切った。数十億円の負債だよ。若かったんだなー。それで森口を引っ張り出した。彼女の声はものすごく伸びるんだ。歌が大きい。だから、宇宙空間みたいな広大な背景を舞台にしたガンダムには彼女の歌が必要だった。『機動戦士ガンダムF91』。前半は宇宙空間のあの無音の神秘さみたいなものを暗示させて、サビでわーっと広がる。森口の中でも最高のヒットで、最終的には100万枚を越えて、レコード会社と彼女のプロダクションには感謝されたけど、所得税までは支払ってくれなくて、日本に戻って白色申告したら、印税はほとんど持っていかれた。ごめん、観よう」

 『マジンガーZ対デビルマン』といっても戦うわけじゃないのか。
 機械獣帝国というマジンガーの敵とデビルマンの敵であるデーモン一族が手を結んでマジンガーとデビルマンを倒そうとする。それでマジンガーとデビルマンが手を結んでそいつらを迎撃するんだけど、マジンガーは空を飛べないしデビルマンは「デビルウイング!」と叫ぶと背中に翼が現れて自由自在に飛んでいく。
 その頃、マジンガーの基地である光子力研究所では、マジンガーが空を飛ぶための新兵器ジェットスクランダーが開発されていて、マジンガーが必要に迫られた時に、それまではうまくいかなかったのに、なぜか完成されていて基地から発射、マジンガーと合体してマジンガーは形勢逆転。
 それってアリですか、って言いたくなるけど、当時はアニメって子供の観るものだから、何でもありなんだろうね。
 今みたいにヲタク文化になったら、絶対にあれは突込みが入るよ、きっと。
 それからはマジンガーとゲッターロボという三機の戦闘機が可変合体してロボットになるものとかがあって、『マジンガーZ対暗黒大将軍』というのがあった。
 彼によると、マジンガーZの最終回をTVではなく劇場で観せたんだって。
 今までの敵よりはるかに強い敵にかなわないマジンガー。もうだめだ、というときにマジンガーにそっくりなロボットが現れて、一気に敵を蹴散らす。背中から翼が生えて空を飛ぶ。デビルマンみたいに生身だったらわかるけど、メカの背中からなんで翼が生えるの?グレートマジンガーだって。
 突込みどころ満載でおもしろいよ。
 特典ディスクがついていた。
 普通のDVDならメイキングとか予告編とかスタッフ・キャストインタビューみたいなものでしょ。でも、劇場用映画が2本入ってた。時間的にはどちらも30分程度だから短編だけど、公開された時代が色濃く出てる。
 UFOのドキュメンタリー。昭和50年代の初めってUFOブームがすごくて、TVは必ずUFO特集をやっていたらしいから。
 それとアニメ『宇宙円盤大戦争』。
 故郷の星を壊滅させられた主人公が地球に逃げ延びて、牧場で地球人として働いているところに、自分の星を壊滅させた宇宙人が地球に攻めてきて、ガッタイガーという、円盤がロボットに変形する武器で戦い、敵を殲滅する。
 それはいいけど、地球で戦って勝てるなら、なんで自分の故郷で撃滅できなかったんだろう。
 それと、これは真面目な話。
 特典ディスクの前に『ゲッターロボG グレートマジンガー UFOロボグレンダイザー 決戦大海獣』のグレンダイザーに乗ってるパイロットと『宇宙円盤大戦争』の主人公が同じ名前。
 これって?
 「『宇宙円盤大戦争』は『UFOロボグレンダイザー』のパイロットフィルムなんだ。パイロットフィルムというのは、制作会社がTV局やスポンサーに、番組を説明するために製作する、一般には公開されることがほとんどないフィルムなんだけど、UFOブームで客が入るだろうということで、ドキュメンタリーと『宇宙円盤大戦争』を同じまんがまつりの回に公開したものだから、主人公のバックボーンも敵も同じでしょ」
 たしかに
 「当時のガキはこんなものを真剣に観て喜んでたんだ。無邪気でいいよ。キリスト教を持ち込まれた日には、電車の中で女子高生が解釈をめぐって論争してた」
 エヴァはね。
 プロテスタントだったら謎の8割は簡単に解ける。
 ほとんど聖書と符合するから。

 午後から、病院から徒歩で行けるTSUTAYAまで歩いた。
 「ここだよ。ぼくが死んだ病院」
 うん、知ってる
 呼吸器では有名な病院だから
 「その後で躁鬱病が見つかってここの精神科の拘禁病棟へ入れられた。窓から葬儀屋が見えて、絶景だったよ」
 そうなんだよね。病院とくっつくように葬儀社のビルが建っていて、一部の病室の窓から見えるんだよね、霊柩車とか。確か呼吸器外科の末期がん病棟の窓はすべて葬儀社に面してるはず。2回入ったことがあるけど、そういう記憶が残ってる。
 今の葬儀社って、病院の隣に、地主が頷くまで札束を積み上げて土地を買ってビルを建てるんだよね。わざと患者さんから見えるようにね。夏だと葬議場の窓を開け放ってお経を患者さんに聞かせるし、病棟にスタッフ・ステーションのカウンターの下をくぐるように身体を折って、営業マンが入り込むし、商売はわかるけど、余命宣告でただでさえびくついてるときに葬儀はどのようにされますかだの、松竹梅とあって松なら何百万円で、とか平気でやるからね。立場が逆だったらどうするのって訊きたいよ。
 
 TSUTAYAに着いた。新作準新作5本まとめて千円。
 この場合、1泊の新作が2泊になるからお得。
 といったってほとんどレンタル中でないんですけど。
 わたしは『コバート・アフェア』という女性スパイアクションの1~5巻をレンタルした。
 彼が持ってきたのは『ハンチョウ4-神南署安積班ー』
 どこにあったの。
 わかってたらわたしが借りたのに。
 準新作か。
 だけど、準新作と新作が同じ200円ってちょっと違うような気もするよね。
 まあ、双子に再会できるからいいか。
 「『沙粧妙子 最後の事件』ってドラマを借りようかなと思ったけど、よくよく考えたら自宅にあるんだよね、BOXが。日本で最初にプロファイリングを扱ったドラマだけど、クオリティーは高いよ。『LADY-最後のプロファイリング=』と同レベルだから。なぜなら両方ともプロファイリング監修はぼくだから」
 それは、わたしも観たことがない
 『LADY』はこの前レンタルしたけど、沙粧妙子 最後の事件なんて知らない
 「今度ゆっくりお観せしよう。浅野温子さんがヒロインでいいんだよ、抑えた演技が」
 わたし、これ、レンタルしない
 好きでレンタルを決めたわけじゃないし、CSで観ればいいし、あんまりおもしろいと思わないから
 だから500円ずつ出し合ってサコちゃんの手にしてる奴をレンタルしよう
 「いいよ。でも500円はいらない。ぼくがレンタルしたくて借りるんだから、ぼくが千円払う」
 彼はさっさとレジにカードを差し出してしまった。
  TSTAYAのカードにはクレジット機能のついたものがあって、それを会員カードにしてレジに出す人が何人かいる。スーツ姿であったり、私服の女性であったり。
 でも彼は当たり前のようにポイント機能だけのカードを恥ずかしげもなく差し出す。
 「クレジットが通る条件として、現時点では、まず運転免許。そして勤めている会社が有名な会社であること。会社便覧という、全国の有名な会社のアドレスや年商を載せた本があって、そこから審査部が引っ張り出してくる。それに載ってないのは零細企業だから審査は落とす。一番いいのは公務員。民事再生法の適用にならないから」
 サコちゃんもわたしも国立病院で、身分は特別公務員だから問題ないと思うけどね
 「確かにみなし公務員という、警察官、自衛隊と同じ身分だ。でもぼくは審査に通らない。なぜなら個人信用情報機関に事故情報が残ってるから。母親の残した借金を返し終わったら、事故情報が残っているのが10年を越えてるのは、法の定める7年間に違反するから消去届けを証明郵便で送って抹消してもらう。クレジットの話はその後だよ」
 みんなクレジット機能のついたカードだけど恥ずかしくない?
 「別に。だってレンタル会員証だろ。レンタルできればそれでいいじゃない」
 わたしも気にするのはやめた。
 イオンのクレジット1枚以外絶対に作らない。
 クレジットならガソリンも現金より安くなる。そういう人もいる。
 でも、ほんのわずか何円でしょ。
 タダになるのなら話は別だけど。

 『ハンチョウ4』はTVでリアルタイムで観てた。でももう一度観たい。彼の双子を。
 今、放送中の『ハンチョウ5-警視庁安積班』はまだちょっとなじめない。
 小沢征悦さん以下2人の部下たちの性格がまだ浮き彫りになってこない。
 刑事部長が水戸黄門様だからね。
 毎回午後8時42分に出て行って、ハンチョウに印籠を出させればいいんだよ。
 それで事件は解決。めでたい。
 舞台が特殊捜査一課となっているけど、本当は彼の所属する特殊捜査二課だよ。
 特殊捜査一課は刑事部長直属では動けない。
 捜査一課長がいて、その上に管理官(『踊る』の眉間にしわを寄せた人)がいて、刑事課長がいて、刑事部長がいる。トップダウンで捜査の許可が下りてくる。だから事件に即対応できない。
 特殊捜査二課は、警視庁だと刑事部長、警察庁だと方面本部長から直接命令が降りて事件に介入できる。彼の班の部屋、といっても間仕切りで完全な壁じゃないけど、とあのドラマの班の部屋がそっくり。巨大なプロジェクターの前にノートブックが乗った円形のデスクがあって。
 初回放映の時に彼が言った。
 「何で特殊捜査二課のデカ部屋まで知ってるの」
 音楽監督が教えた、とか?
 「冗談でしょ。ぼくらは特殊捜査二課の存在をカムフラージュするために少年課や生活安全課、遺失物係っていう、別の身分があるんだ。そんなことをぼくがしゃべらない」
 偶然でしょ
 デカ部屋なんてどこも大体同じじゃないの
 「言われてみれば・・・・・・だけど驚かせるなって。きょうレンタルしたDVDだって、ドリマックスが送ってくれることになってるんだけど、いまだに届かないから借りたんだ」
 ドリマックス?
 「TBS系ドラマ専門の制作会社。いわゆる天下り先。3までは送ってくれたんだ。事と次第によっちゃ5の音楽監督を降板するよ」
 忙しいんだって
 待てば海路の日和あり、って
 「日和はない。なんで5月半ばに雪が降るんだ。室井さん教えてくれ」
 わたしも訊きたい
 「本部長は言うんだ。すみれ君死ぬかもしれないよ。そして署員の女の子に出したラブメールがウィルスのために署内のパソコン全てに送られて、監察官に捕まる」
 でもサコちゃんの本部長は天然じゃなくて、天然を気取ってるやり手でしょ
 「うん、なかなかだよ」
 ところで今晩の食事、どうする?
 「もし、あそこのラーメン屋まで行ってラーメンを食べるとして、病室に戻るまでに冷えるかな」
 冷えてもいい
 ドンキの握りはもういや
 ラーメンにしよう
 「そうする?」
 
 きょうの彼のスタイル。
 U.S.ボーダーのナイロンパーカー。ライトグレイに肩部分がネイビーの切り替え1万3千円。ハーレーのパーカー・ライトグレイ。1万4千円。ユーズド(エルカジョン)の白とネイビーのボーダー4千円。ヴィゴーのサルエルパンツ6千円。ドウルークのユーズドのシューズ1万8千円。
 わたしは、ブリーチのかかったヴァンキッシュのデニム1万6千円。ヴァロッシュのボードネックカットソー、4200円、レジェンダのハイカットスニーカー、5600円、スピンズのカーディガン2000円。
 すべて、彼のコーディネートでした。

 彼はパーカーを2枚重ねて、肩がこるのにコーディネートを優先させたんだと思ってたら、ラーメン屋さんの帰り道にさりげなくナイロンパーカーをわたしにかけてくれた。
 「冷えるからね」
 って。
 初めからそうするつもりで2枚重ねてたのか。
 「アメリカではそれが当たり前のデートスタイル。それをしないとたちまち振られるよ。そういうかっこ悪いことはしたくないからね」
 チャラとガンバにはそこまでの、さりげない優しさがない、って2人の奥さんが言ってた。
 わたしは宝くじの1等をひいたんだ。 
 前後賞の前はハズレたけどね。
 指輪を自分に向けてたから。

 このとき、わたしは彼の作るきょうの夜食が海鮮巻きと太巻き、鉄火などのお寿司になるとは知らなかった。