きょうは通常勤務です。
 というか暦通りに勤務してます。
 患者さんは病棟には1人もいません。
 要するに救急搬送待ち。
 ひまで椅子をぐるぐるしながら世間話。
 「塩谷瞬が二股だって。やばくない?」
 なんてことは言ってられません。
 だいたい塩谷瞬って誰かわからないしね。
 
 GWと元旦は持て余すほどの救急搬送があるんですよ。
 一応、きょうは4F病棟が当番ってことなんですけどね。
 
 まー入ったわ。
 家族で遊びに出かけた先で転んで膝をすりむいた。
 救急車の後ろに自家用車のワンボックスがついてきて、母親だけが救急車に同情して、家族は後ろの車でどかどか乗り込んでくる、というパターン。
 子供が怪我をしたって、母親は半狂乱状態で、おまえが精神病院に救急搬送してもらえ、って。
 膝をすりむいただけで救急車まで呼んでどーするの。
 救急隊員が苦笑いしてるよ。
 膝をすりむいて、バイ菌が入ったら心配だと思うなら、ドラッグストアに行って、コットンと消毒剤と傷薬を買って、100円ショップで売ってる滅菌パッドとサージカルテープ(紙絆創膏)を買って母親が処置したほうが安上がりだからね。わたしたちは当番で働いてるけど、病院は5月5日まで休日体制だから。
 深夜の急患や日曜の急患と同じ料金を取られる。レセプトが倍近いんだよ。ドラッグストアの方が安いと思うけどね。やることは個人と同じだから。

 ウチの病院は第四選択。
 第四選択というのは救急車が他に三つの病院に断られてしまったら、ウチに落ち着く。
 第四選択には拒否権がない。全てを受け入れるのが決まり。
 第一は市立病院。
 第二は赤十字病院。
 第三はウチの変なおじさんの厚生病院。
 そしてウチがラスト。
 
 膝をすりむいたくらいじゃ、どこも笑って拒否するよ。
 だからウチは軽傷の吹き溜まりになる。
 バーベキューでやけどした。
 よーく目を近づけないとわからないくらいのほんの表皮がかすかに焼けただけ。
 ドラッグストアには傷とやけどに優れた効果のある薬が売ってるから。病院でも同じものを使ってるんだけどね。違いは、チューブかブリキの大きな缶か。

 それでどんどん入ってくるから、ERだけで足りなくて、外来の処置室に回せとか、内視鏡室に入れろとか。
 ちょっと最近の母親って、過保護がすぎるね。
 わたしなんか転んで膝から血を流してるのに、患部に思い切り冷水シャワーをかけられて、タオルと救急箱を目の前に置かれて終わりだった。自分で薬を塗って処置をしろってこと。
 母親は元・薬剤師だから、全然動じない。
 あの頃ってどこの親もそうだったと思うよ。
 救急車を呼ぶのって、近所に恥ずかしいことだっていう考え方だったのかもしれないけど、救急車が呼ばれるときって死ぬか生きるかの状態だから。

 とにかく医師も看護師も言葉が出ないほどフラフラで、自分が救急搬送される寸前。
 食事もろくに噛まずにかき込んで処置だから、未消化で、トイレで全部戻す。
 彼なんかなんど戻したか。
 心配になって、手を抜くように言ったら、あれはペリットだからはかなきゃならないんだよ、って笑うのね。
 ペリットというのは鳥が食べた物の不必要な部分を吐き出したもの。消化できないものとか、消化した残り。例えば甲虫を食べると、角とか甲羅を履き戻す。

 映画『ガメラー大怪獣空中決戦ー』では、鳥類学者の長峰真弓はペリットをたどってギャオスの巣を突き止めた。

 やっとなんとか収束して、アネさんは買い物があると出かけた。
 みんなに、夕食の準備はするな、って言い残して。
 おごってくれるのならポテトチップでもいいよ。
 
 でも、過保護であっても、自分の子供を殺す親もいるしね。
 子供って親のおもちゃなんだよ。
 可愛がるときはめちゃくちゃ可愛がって、飽きたら殺す。

 わたしは、子供の産めない体になって、それだけはできないことを誇りに思う。