彼、落ち込みから完全に回復したね。
 躁鬱のことを看護師たちから聴いて、もし躁鬱の症状だったらどうしようと思ってたんだけど、躁鬱にスイッチが入らなかったみたいで。
 万が一のときは、臨床心理士の美咲さんが、催眠誘導に入れて症状を軽減しくれることにはなってたけどね。
 映画『ツレが鬱になりまして』から得た情報しかないし、本当に夕べはほとんど眠れなかった。

 でも、きょうの巡回診察を見てたら、いつもの彼だった。
 病室に入っていくときにわざとドアのレールのくぼみに足を引っ掛けて転んでた。
 これはわざとじゃないとできない技だからね。
 iPadに電子カルテをダウンロードして持ち歩いているから、本当に自然に転んだら、液晶画面が砕けるよね。でもちゃんと体をねじって背中から倒れてる。ラッコみたいにiPadをおなかに乗せてるから。
 病室ごとにエスカレートして派手に転ぶんだけど、iPadはしっかり保護してる。
 ナベちゃん以下彼のチームの看護師たちは、笑いたいのを必死にこらえてたんだけど、限界を超えて笑ってしまった。
 それだけじゃないよ。巡回中のアネさんがいた病室に彼が入ろうとしてコケて、アネさんは笑いを必死にこらえて病室を出たけど、そこで終わり。一子さんって、緩和ケア専門の看護師がアネさんについて回るんだけど、廊下の手すりにすがるようにしゃがんで思いっきり笑ってた。
 「見なかったことにしょうと思ったけど、ダメだ」
 って言いながら、ゲラゲラ大笑い。
 わたし、一子さんが笑うのを初めて見たよ。
 クールビューテイーで、いつもにこりともしない人だから。

 よかった。
 いつもの彼に戻ってくれて本当に良かった。

 今は、怒ってます。
 オペ室を空けてくれない、って。
 しかたないでしょ、整形外科病棟や外来の新刊が完成すれば、オペ室は別になるから空くよ
 そうなったらいつでもオペができるから
 「ぼく、大林組の副社長と知り合いだから工事を急がせる」
 無茶なことを言わないの
 そういえば完成が遅いから、わたしが鉄骨を運んで組み立てるってアネさんが怒ってたっけ。
 二人で鉄骨運んで組み立てたら?。
 「オペ室が・・・・・」
  どうしたの?
  「オペがしたい・・・・・・・オペをさせてください、オペを。このままじゃヘビの生殺しだよ・・・・・・オペー」

 だめだ、こりゃ

 Macのキーボードにも完璧に慣れたら、Macの良さがわかるようになった。
 彼がなぜMacにこだわるのかもわかったよ。
 第一、わたしが毎晩練習しているEWIもWinマシンにつなぐと機能のうちの1つしか使えないけど、Macだと全機能が使えるんだから。
 いかに優れたマシンかってことだよね。
 決めた、わたし、貯金を下ろしてMacを買います。
 今の彼の状態なら相談して、機種を選んでくれるよ。