あのー、その、えっと。

 何をどう説明すればいいのかわからないんですが、ウチの病院に粒子線治療器が突然、入ったんですよ。

 午前中にエアメールが来て、アネさんが開封したけど、英語じゃない言葉だからって、巡回中のサコちゃんを呼び出して、代わりにガンバを送って巡回を続けさせて、

サコちゃんには手紙を同時通訳してほしいって。

 先日、研修でお世話になったフィンランドの病院からの手紙で、元気でやってますかっていうような、挨拶から始まって、今度はこちらの研修生を受け入れてくれるから、お互いの病院の友情の印にささやかなプレゼントを贈らせてもらった、っていう内容なんです。

 ささやか、だから、お菓子とかそういうものを想像しますよね。

 イチゴかな、とも思ったんだけど、5月にならないと収穫できないって、サコちゃんが言ってたし。

 続けて読んでいたんですが、ぴたっと止まったんです。

 「あー、えっと、うーん、やっぱりそうか」

 とまどってから読み出したら、粒子線治療器って単語が飛び出して、アネさんはイスごと横にひっくり返るし看護師たちは固まるし、後からスタッフ・ステーションに戻ってきたチャラは、

 「どうしたの、ノリが悪いぜ、みんな!」

 それでもみんな固まったまま。

 「ジョークだろ。な、本当にあんな何億もするものを友情の証に送るか。悪いジョークだ。きっと、あれだ、4月1日に届くのが早くなっただけだ」

 その場はそれですませたんだけどね。


 午後。

 事務長が半泣きで電話をアネさんに入れてきた。

 「どこの誰ですか。事務を通さずに粒子線治療器なんか導入したのは。この病院にそんな予算なんかありませんよ。どうするんですか、院長」

 「そういうのは院長に訊け。わたしは忙しいから」

 「あなたが院長でしょ」

 「あっ、そうだった。ごめんな」

 「三菱の作業員が放射線室に梱包された部品を持ち込んでるんですよ、どうするんですか」

 手紙は本当だったんですよ。

 慌ててアネさんは階段を駆け下りていきました。

 わたしたちは顔を見合わせながらも、午後の巡回。

 終わって戻ってから、覗きにいってみようってことになって、スタッフ・ステーションの全員、看護師たちまで、ステーションを空にして放射線室へ。

 至るところに、木材で厳重に梱包された荷物が置かれていて、片っ端から三菱マークの作業着を着た人たちが3人で梱包を解いては組み立てているんです。


 完成したとみえて、電源コードを手にした人が、放射線技師に、アースのついたこんせんとはどこか、って訊いて、放射線技師が案内すると、機械からかすかにブーンと言う音がして、サコちゃんが以前、TVで放映されたものをビデオに録画して、それをパソコンでDVDに焼いたっていう、アメリカのSFドラマ『タイムトンネル』そっくりな、トンネルに青白い灯りがついて、作業員の人がこれで使えますよって。

 アネさんは放射線技師たちに、

 「おまえら使えるか?」

 「マニュアルがあるからできますよ。1週間もかからないな」

 「おまえらの1週間は3年だな」

 「マニュアルで不明な点があれば営業所に連絡をください」

 作業員の人たちは梱包剤を集めながら言った。

 「もう営業がきてもいいころだけどな」

 3人は顔を見合わせて言ってました。

 それからまもなくイオンの9,800円スーツ(サコちゃんのスーツは全部イオンで7,800円と9,800円だから、同じデザインでわかった)の若い人と貫禄のある偉そうな人がきた。

 「いやー手前の信号が長いですねー」

 偉そうな人は言った。

 長いよ。平日なら15分、休日は40分変わらないから。だから、その信号を通る路線バスはダイヤがめちゃくちゃ。

 若い人は、偉そうな人を部長と呼んでいたから、営業部長なんだろうね。

 事務長が即話を切り出した。

 「これはどういうことなんですか。この病院ではこんな機材を揃えるだけの予算がないんですが」

 完全にうろたえてる。

 「代金は払われてますよ。海外の営業所でとったんです。たしかフィンランドだったかな」

 手紙はエイプリルフールじゃないの・・・・・・。

 友情の証が粒子線治療器。

 ってことはあれ、これで腫瘍を思いっきり収縮させて、オペで取り出す。

 正面玄関でおめでとうございます。

 うわー。

 サコちゃんもオペが楽になるな。

 でも1日3人とかは止めようね。スタッフが疲れるから。

 すごいねー。

 4F医師たちの夢だった機械が目の前にあるんだよ。


 贈り物をもらったらお返し、というのが日本古来の文化だから、お返しをしなければならない。

 それで悩んだんですよ。

 医療機器はすべて向こうが進んでるんだもん。

 サコちゃんがいきなり、鎧兜はどうだろうか、って。

 鎧兜は端午の節句に飾るように、健やかな成長と幸運、そして勝利の象徴なんだって。

 若い医師たちの成長と治療での幸運、そして癌に勝利する。

 フィンランドでは、まだ、ジャパニメーションとか、アイドルとかコスプレ、秋葉原文化は入ってないから、日本の文化って、侍なのね。黒澤明監督の映画は公開されてるみたいで。だから、鎧兜だと、サムライって喜んではもらえるだろうけど、そういうのってどこで買うことができるの?ドンキホーテでは売ってないけど。

 サコちゃんの高校のテニス部の後輩が、雛人形や五月人形、趣味の鎧兜を製作してる会社に勤めてるから、奴にねじ込んで思い切り値切る、ってその場で電話をした。

 最初のうちは穏やかに話してた。伊達政宗公がいいって。

 これはあとで聴いた話だけど、伊達政宗公の鎧兜を飾ってある家から、いいことがあったとか、宝くじで1等前後賞が当たったとか言う話がどんどん入るから等身大の伊達公がいいんじゃないかって、後輩がアドヴァイスしてくれたんだって。

 電話中にぴたっと話が止まって、サコちゃんの顔色が変わった。

 「わかった。その代わりこっちは忙しいから、まず、クラブの屋外コートの雪が消えて水気が完全になくなってからだぞ」

 サコちゃんの負けないテニスの秘密を教えろ、って言われたんんだって。そうしたらこっちも設けなしで製作して売る、って。

 価格+送料をメモしたものを事務長に渡したら二つ返事でOK。

 

 さて、オーストラリアンテニスの秘密を明かすか。

 「大丈夫。適当に嘘を教えるから」

 きたない・・・・・・。

 非人間。


 鎧兜をよろこんでくれればいいね。


 さあ、癌腫瘍と本格的な戦争だ。

 こっちにはPAC3、いやイージス、核兵器か、の実戦使用まで間がないからね。

 使うなと言われても使うよ。

 それだけは北朝鮮と同じだから。

 

 そうだ、サコちゃん、北の工作員に狙われてるんだ。

 脱北支援を韓国で、政府の諜報部韓国KGBとともに、北へ密入国しては脱北する人たちを北と韓国を分断するイムジン江を渡して、韓国へ入れることをNPOでしてたから。

 現在、内閣調査室と公安調査庁がマークしている、日本国内に潜伏している北の工作員は232人。何気ない顔で日本人として生活してるんだって。

 サコちゃんって本当に犯罪すれすれのことをするのが好きだから。

 ベルリンの壁が崩れるきっかけになったラジオの海賊放送をやって、中国で、ジャッキー・チェンさんと亡くなられたテレサ・テンさんと3人で民主化デモで軍隊と正面衝突する学生を支援して、中国では指名手配だからね。入国すると逮捕されて、即、公開銃殺だから。とにかく理想の国家を作ろうとする人々を放っては置けない性質だから。

 いつ・どこで殺されるかわからない。

 でもわたしはついていくよ。

 殺される前に、癌を殺そうね。

 この秘密兵器で。

 病棟の癌腫瘍はこんな兵器が実戦に投入されるとは思ってないから。