きょうは寒いを通り越してます。手袋をはかないと風に吹かれただけでてのあちこちが切れて血を噴き出すし、耳も耳掛けをしないと耳たぶがボロッと落ちそう。
きょうは彼の皮膚科の診療日でした。
「また、きょうのは疲れの度が過ぎてますよ。なにをやってたんですか、こんなになるまで」
恐らくマイコプラズマ肺炎の大騒動だと思うけどね。
忠臣蔵より凄い騒動だったからね。
たっぷり説教されて帰ってきました。
で、夕食が終わって一息ついた午後8時、急にテレビが映らなくなった、プリペイドカードの回数だけ減ってる、なんとかしてくれ、って患者さんたちがスタッフ・ステーションに押しかけてきて、アネさんが慌ててスタッフ・ステーションのテレビを入れたら、砂嵐って言うのかな、横縞ノイズでザーッと音がするだけ。
地上波がデジタルになっても、地上波の抜け殻はこんな音はしないはず。
よく、わたしが、いまだに地上デジタルのチャンネルを覚えられなくて、地上波のときのチャンネルに合わせるんだけど、こんなことにはならない。
ひょっとして、これかな?
患者さんに背を向けてパソコンで電子カルテの記入漏れ(今、この病院では医師と看護師にiPadを持たせて、紙カルテを持って歩いて記入するんじゃなくて音声コントロール機能で記入させて、1日の仕事終わりに、iPadからパソコンの電子カルテにUSBで転送する方式だから)を調べていた不思議ちゃんはおもむろに顔を上げ、テレビの画面を見つめていたな、と思ったら急に走り出していった。
しばらくしてAZ-1のエンジン音が(ボディーが強化プラスティックだからいい音がするのよ、やかましい)して、カーテンを少し開くと、もう職員駐車場にAZ-1はなかった。
どこへいったんだろう?。
不思議ちゃんのすることだから、理解できるほうが珍しいよ。不思議ちゃんを理解できるのは不思議ちゃんだけだから。
しばらくして、職員駐車場にAZ-1が停められて、ガルウィングが跳ね上がったと思ったら、肩に何かものすごく太いものをかけた不思議ちゃんが降りて、病院の中に入ったみたい。
それからいくらもしないで、スタッフ・ステーションに顔を出したら、肩のは何かのケーブルを巻いたものだとわかった。白いケーブル・・・・・・って何?。
「あのう、用具室のはしごを借りたいんですけど」
アネさんに言って、また飛び出していった。
今度は1Fの用具室からはしごを抱え、肩にケーブル、手には工具箱というスタイルで病棟を通り越して階段を駆け上がっていった。
「そうだ、カードをスロットに入れてる人は、プリペイドカードの差込口の下にものすごく小さな穴があるから、先のとがったもので押し込んだら、カードは強制的に排出されるから、みんなでやって。シャープペンの芯はだめだよ。完全に押し込まないうちに折れるから」
影なき声。
おまえは誰だっ!
ハハハハ月よりの使者 月光仮面です
って返ってくるよ、絶対に。
赤胴鈴之介だっ!
って、何?
後で本人に聴くわ。
なんか気になって後をついていったら、屋上の集中暖房室の上のテレビアンテナのところでなにかやってるんだよね。
頭にヘッドライトひとつつけて。
で、ケーブルの片方を暖房室の天井にあるアンテナケーブルの引き込み口に入れて、はしごを降りてきた。
「寒いから中にいたほうがいいよ。DSの「大人の常識力」でもやってたほうがいいって」
それだけはいうな・・・・・・わたしの脳年齢が86歳だ・・・・・・ふざけるな、アネさんが71歳で、不思議ちゃんが45歳。冗談じゃないよ。マイナス思考で引き算しかできない男が脳年齢と実年齢に1つの差だ・・・・・・あれは正確じゃない。なんの根拠もないんだよ、絶対。
そういい残して暖房室の床のケーブルコネクターに、ケーブルの片方に起用に器具を取り付け、差し込んだ。
「よっしゃ、終了」
暖房室から出てきて、病院の中へ入っていく。
原因はわかったの
「ああ。簡単なこと。寒さでアンテナケーブルが折れたんだよ。取り外したケーブルで面白いことをするから観にきたら」
スタッフ・ステーションで、取り外したケーブルの一部1mほどの両端を手で握って、「きてます、きてます、きてますよー」
残念だね、アート・オブ・ノイズの「Legs」がここにはないんだよ、病室にはあるけど。BGMがないと超魔術は盛り上がらないね。
「アン・ドゥ・トロワ」
フランス語かいっ。
掛け声とともにぽっきりと折れた。
白いケーブルの余りはきれいな輪ができるのに、黒い、取り外したケーブルはぽっきりと折れた。
佐橋看護師は笑いながらポキポキ折って面白がってる。
「どういうことだ、これ?」
アネさんも不思議そうな顔をしている。
わたしも訳がわからない。
医大の入試に出なかったし、医大でもこんな授業はなかった。
「この黒いケーブルは、本州で使うものなんですよ。アンテナケーブルには二種類あって、東北や北海道で使う「寒冷地用」と本州で使う「温暖地用」。今までは「温暖地用」の3Cという細いケーブルが引き込みに使われてたんです。室内なら、テレビの写りが鮮明でない、テレビ自体の本当の色が出ないだけですが、屋外のアンテナから室内への引き込みは「寒冷地用」を使わないと、マイナス10℃~20℃が毎日続くと「温暖地用」は外気温10℃以上が基準ですから、こうやって冷凍状態になるとポキポキ折れるんです。
今もアンテナの整合器の根元が冷凍状態だったのが、この吹雪の風で折れて切れてしまったんです。それで、自宅のアンテナ工事をしたときに余った、「寒冷地用」の5Cという、衛星放送なんかにも使われる太いケーブルに取り替えたんです。
今夜はとりあえず引き込みだけ。明日にでも室内のも変えて回りますよ」
「ハンチョウはあれか、自宅のアンテナ工事も自分でやったのか」
「はい。シャープの営業所長にテレビの画面を観ていてもらって、写り方のベスト・ポイントを言ってもらって。BSと110℃CSアンテナがけっこう微妙な向きで時間がかかりましたけどね」
「すごい特技だな」
「父は電気工事技術者でアンテナ工事を得意としていて、メーカーからも神業だと言われていましたから、遺伝です。それで、あの人は人生を破滅させた、自分だけじゃなく、母とぼくのまで」
「犯した行為については恨みたいなら恨め。でも受け継いだ技術は恨んじゃダメだ」
「はい」
なるほど、メカに強いのは父親の血なんだ。
病院で、5年リーズでオフィス用パソコンを借りてるんだけど、5年経ったら業者が引き取るのが今までのやり方だったのが、家電リサイクル法で、パソコンの廃棄にモニターを合わせたら1万円以上かかる。送料だけで、本体が¥3,200でモニターも¥3,200、それぞれ別便にしなければならないでしょう。本体とモニターは同根してはいけない決まりがあって、できないからね。
それで、業者が引き取るのならリサイクル料金を支払ってもらうってことで、去年の晩秋にサーバからこの病院内のパソコンをすべてNECにしたの。それまでは富士通だったんだけど、彼が口をきいたらNECでものすごく安い見積もりを出してきて、落札したの。責任者が、「はやぶさ」プロジェクト・マネージャーの川口さんで、御本人が取り付け工事を監督して取り付けていったんだけど、サーバが、スーパーコンピュータ用かと思うくらい精巧なもので驚いたけど、ものすごく使っていて快適。
で、富士通は引き上げるならリサイクル料金と送料を別途支払ってもらうって言うし、事務長も必要な出費だからって支払おうとしたのを彼が止めたの。
ぼくに売ってください、ノートもデスクトップもすべて、って。
事務長はお金は要らないけど、ガラクタをどうするの?。
みんながそう思っていた。
看護師なんかもネットがやりたいけど、それぞれの部屋にLANが来てるんだけど、やっぱりデスクトップだって、まともなものを買えば、プリンターと一緒に買って、どこかのプロバイダに加入して毎月料金を払って、となるとなかなかね。ましてやノートってデスクトップよりはるかに高いし。それで、彼が暇な時間を使って、修理したりメモリやHDDを増やして、内臓ドライブを取り替えたり、テレビチューナーをつけたりアップグレードして、看護師でほしい人がいれば、機材は無料であげるから、プロバイダ料金だけは毎月払ってほしい、一番安くて、サーバ的にも問題のないプロバイダを紹介するから、って、看護師みんなに配った。
事務部備品庫から、各コンピュータのマニュアルやセットアップディスクを出してもらって、まず、自分でクリーンセットアップをして。1台に取り掛かってからが早いんだよね。それにどこにどの部品をセットしてどのケーブルをつないでとか、HDDを新しいものと同じ状態にバッドセクタを補修するソフトを自分で作って、わたしは正直、まともに使えないだろうと思ってたけど、看護師たちはめちゃくちゃ快適だっていうわけ、それで寮へ行って、デスクトップを見せてもらったり、ノートをスタッフ・ステーションに持ってきてみんなで実際に触ってみたり。
完璧。内臓ドライヴは全部DVDマルチで、メモリも2G。
それに、家電製品を修理に出したことがないって言うの。
パーツ屋にいって、どうしてもメーカー純正部品でなくちゃダメな場合はメーカー取り寄せにして、全部自分で修理。テレビでも炊飯器でも冷蔵庫でも洗濯機でも。
やっぱり、お父さんが人間としてどうこうじゃなくて、家電品の技術者として髪の腕を持っていたから、遺伝したんだろうね。
水野手術室長が笑っていたけど、今のテレビはトランジスタ方式って、トランジスタっていう三つ足の鉱石でアンテナからの電波を映像に再構成してるんだけど、昔はまだ発明されていなくて、真空管といってLED電球みたいなソーセージ型のガラス管で真空の中身にフィラメントやいくつかの部品が詰まっていて、それが電波を映像に変えていたんだって。それは、各テレビメーカー特有のもので、壊れたら純正品を使って修理することしかできなかったから、テレビメーカーとテレビの型番の数だけ違う真空管があった。
今はテレビメーカーって、パナソニックと、シャープと、東芝と、ソニーと、東芝の子会社のDXアンテナしか国内はないけど、昔はそれにNECとか今の富士通なんかもあって、ものすごい種類の真空管があった。
それを3歳の彼がすべて憶えていて、このテレビにはこれ、とか、NECのMA24H型はTR20Aの真空管だとか、ぜんぶわかったらしいの。
決定的なのは、どこのどのテレビがきれいな映像が映るか、とかどこのメーカーの掃除機が音は静かで吸引力が凄いとかまで、客にアドヴァイスするんだって。それで各メーカーの営業マンは驚いて、彼に売り込みをかけようとおもちゃ攻撃に出た。
おもちゃを手土産に営業に来て、彼に売り込みをかけて、その結果、「はやぶさ」の川口さんたちは、大晦日の午後8時50分過ぎまで雪が積もって、その下は凍っていて気を抜いたら滑る屋根の上でカラーTVのアンテナをとりつけて、屋内では新しいカラーテレビを上司がセットして、テレビが売れすぎて在庫がないから、善導の営業所から在庫はすべてかき集めて、って結果になった。
大晦日の朝になって、紅白歌合戦をカラーで観たいから、今すぐ取り付けてくれ、って店に電話が殺到して、NECの旭川営業所総出でカラーTVとアンテナの取り付けに走る。
紅白って、昔はそれだけ国民的な番組だったんだよね。
紅白を観るために何十万ものテレビを現金で買うんだから。
それで、客が思い通り紅白をカラーテレビで観ることができる時間に仕事を終えたら、汗をかいたまま寒い中を屋根の上にいたりしたから、40℃の熱を出した川口さんは、彼の祖母の機転で、町立病院でこれから患者の診察をして欲しいって頼んで、川口さんを救急車で病院に搬送したら肺炎で死に掛けてた。まだ、夜間救急救命なんかなかった時代のことだから。
だから、川口さんは今でも、彼の家族がいなかったら、ぼくは「はやぶさ」どころじゃなくて、墓の中ですよ、って言うんだよね。
それで家電店はテレビの売り上げ日本一になって、一番NECのテレビを売ったのは3歳の彼だってことで、東京で社長表彰ってことになって、彼の祖父がついて東京で表彰されたの。その頃のNECのカラーTVのイメージキャラクターが、当時、日活映画会社にいた高橋英樹さん。あのフジテレビの高橋真麻アナウンサーのお父さんで、『桃太郎侍』だよね、「ひとーつ、人の世 生き血をすすり、ふたーつ 不埒な悪行三昧 みーっつ この世の醜い鬼どもを 退治てくれよう桃太郎。よーっつ、お正月には越後製菓の切り餅と鏡餅」の俳優さん。
そこで、彼の祖父が、高橋さんに、酔った勢いで言ったの。
「きみは今、日活で極道ものばかりやっているが、顔も体格も時代劇向きだ。これからは時代劇をやりなさい。時代劇となると殺陣が決めてだ。日本で最高の殺陣を見せて欲しい。でも、市川歌右衛門さん(北大路欣也さんのお父さん)というすばらしい殺陣の名人がいる。あの、日本舞踊を踊っているかのような殺陣を超えてくれよ楽しみに待ってるから」
彼に言わせたら、恐ろしいことを言ったもんだよ。
だから酒は嫌いなんだ、人間を変えてしまうだろう。
それから毎年高橋さんから年賀状をもらってる。
今年も彼の名前の横に、彼の祖父の名前が書かれてるんだよね。
春だったか、特別編成のバラエティーに高橋さんが出ていて、そのときの話をして、3歳の彼を股倉に抱いた写真を見せて、恩人のお孫さんで、彼自身も今は芸能界で、ドラマや映画の音楽を書いたり、流行歌を作ったりしてる。でTVから彼に向かって、「仕事で出てきたら寄ってください。うまいものでも囲みましょう」
彼、ネクターを飲みながら観てたんだけど、写真でむせてね、言葉に対してはうなずくのがやっとで。あれだけ焦った彼って初めてだったな。
だんだん彼のことがわかってきた。
一度にわかったら面白くないでしょう。
アネさんがね、いつか、
「あいつは人間的にものすごく深いものを持ってるな。オペを観てたらそう思う。これから薄皮を一枚ずつ剥がしていくか。一度に剥いだらおもしろくないからな」
その深み、わたしがはがしていくよ。
ところで赤胴鈴之助とは?
鈴木一之助さんなら知ってる。
『釣りバカ日誌』の鈴木建設営業三課浜崎伝助さん、いわゆるハマちゃんの会社の社長さんでしょう。
赤胴鈴之助・・・・・・困ったときのYou Tubeだね。よし。
なるほど、剣道少年か。千葉道場って千葉周作道場? すっごーい!。