やっと、終りました。


 長い1日だったなー。


 ものすごい緊張感です。


 ピーンと張りつめた、っていうやつですね。


 1日に二人のオペの前立ちはわたしにとって初体験。


 執刀医はニューヨークの病院で、同時刻に5人のオペをこなしている人間ですから、涼しい顔ですよ。


 この寒い日に、涼しい顔は止めろ!。


 同時刻に5人の、それぞれに症状の違う患者さんですからね。


 執刀医がオペ室を廻ってオペを行うの。


 その姿を追ったDVDも、ニューヨークでいただいたDVDに記録されてるんだけど、階段を飛び上がるは飛び降りるは、ものすごい状態で。


 手術台につくときに、横目でちらっと患者さんのレントゲン、CT、MRI、骨シンチグラフィーの写真を見て、オペに取り掛かる。


 一段落ついたら、他のオペ室で同じ事を繰り返して、また別のオペ室へ。


 それで間違わずに、患者さんの体力も温存したまま、5つのオペを終らせる。


 神業にしか見えないんだけどね。


 すべてのオペを終えた後、ヴィデオカメラに向かってガッツポーズをして終わり。


 適宜なボケもきちんと間でこなして。


 


 ところが、きょうは適宜なボケがないの。


 超真面目。


 なんかやると期待はしてたんだけどね。


 自分が担当医を努める患者さんじゃなくて、ガンバとチャラの患者さんだからかもしれない。


 ノートブックをペタペタ押してる本人に訊こう。


 ねー、サコちゃん、きょうはどうしてボケなかったの?


 「あー、患者さんの年齢が高かったでしょ、二人とも。ボケてる間にも体力が削られていきそうな気がして、ボケられなかった。それに、今、あんまりボケると、クリスマス会のネタがね」


 うん。


 なるほど、やっぱりボケはネタだったんだ。


 それを自然に見せるっていうのも、すごいことだけどね。





 オペが終って、患者さんを病室に戻した。


 麻酔が醒めるまで、麻酔部長と彼は患者さんにつきっきり。


 予定の時間がきても、麻酔が醒めない。周囲の看護師はあせったよ。


 担当が二人とも佐橋看護師でね。


 彼女があんなにとりみだすとは思わなかった。


 これが、やられたんだ、患者さんに。


 本当は麻酔が醒めてるけど、寝たふりしてた。


 家族をビビらせたかったみたい。


 麻酔部長が呼びかけた。


 「本当は麻酔が醒めてるでしょう?身内のみなさんにあんまり心配をかけると、誰も面会にきてくれなくなりますよ」


 まぶたがピクリと動いたのを見たのだという。


 麻酔で眠っているのなら、絶対に起こらない反応だ。


 患者さんは仕方なく目を開けた。


 「身体は大丈夫ですか?」


 彼が訊くと、患者さんは答えた。


 「うん。そろそろ食事か?」


 患者さんの身内たちは患者さんを取り囲み、叩いたり文句を言ったり。


 時々、いるんだよね、こういうお茶目な人。





 二人目も同じ。


 もう引っかからないよ。


 佐橋看護師はスタッフ・ステーションから毛ばたきを持ち出し、布団のすそをめくると、足の裏をくすぐった。


 これで一発。


 耐え切れなくて患者さんは笑い出した。


 「500gのプリンが食べたい」


 「もう院内コンビニは閉店してます」


 彼は言った。


 自分の冷蔵庫の中のを譲るかと思ったが、そこまではしない。


 「明日、開店してから買ってください」


 「いやー今食べたい」


 「あんまり我侭を」


 彼が言い終わらないうちに、娘だという人が思い切り叩いた。


 それを合図に身内はみんなで総攻撃。


 


 できる限り患者さんの体力を温存する。


 今回の彼のテーマは見事にクリアだね。


 体力を失ったら、こんなお茶目はできないしね。


 


 でも、彼、極度の緊張か、二人もこなすプレッシャーからか、ちょっと廊下でふらついてた。


 精神科医の言っていた極度の貧血?。





 「あー、ブログの記事を書いてるんでしょう。付け足しておいてよ。一ヶ所ボケてる」


 どこ、どこでボケてるの?


 「オペ室から患者さんを搬送したときに、足元を押してたよね、家族待機室まで。あれはTVドラマの『ベン・ケーシー』の逆パターンだから。『ベン・ケーシー』はオペ室に押し入れるんだけどね。彼はすごいよ。神経外科医だけど、スーパードクターだ。ぼくも見習いたい」





 『ベン・ケーシー』?


 『チーム・バチスタ』と『ジェネラル・ルージュ』と『ER』と『医龍』しか知らない。


 『きらきら研修医』は思い出したくない。


 You Tubeでみつけたから埋め込みます。





 


 


 明日はオペ明け休日か。


 ゆっくりと疲れをとって、イオンでも遊びにいこう。





 スタッフ・ステーションで、アネさんがつぶやいていた。


 「渡さないぞ。絶対に渡さないぞ。わたしのすべてをかけても渡さないぞ。あいつはわたしのかわいい部下だ・・・・・・安田講堂は絶対に繰り返さない。今度こそ勝つんだ」


 元・全共闘の身になにがあったというの?。