きょうは土曜日です。

 病棟は抜け殻のように、患者さんは外泊でひとりも残っていません。

 

 でも、忙しく動き回る不思議ちゃんの姿がありました。


 午前中は、各病棟から依頼のあった、PCの不具合。

 いわゆる処理速度が急激に下がったり、フリーズしたりする原因を突き止めて対処すること。

 彼は、この病院では総合診療医であって臨床心理士であって、そしてサーバー管理者でもあるのでした。

 彼が紹介して、病院が導入を決めたシステムですから、紹介をした以上、運営責任は彼にあるってことです。


 サーバー・ルームへ入り込んで、片っ端から、測定器のような器具でサーバを調べていきます。

 「すべての病棟と事務のPCに同時に同じことが起こるっていうのは納得がいかないんだよね。事務専用のサーバーに病棟ごとのサーバーになっているから、余裕があって、windows7でも楽に動作するんだ。測定器も正常な数値を出してるしね」

 彼は脚立を昇って、一番上段のサーバーを調べました。

 「あれっ、なんでこんな? ここって確か光ファイバーだよね?」

 彼は上から言いました。

 NTTのフレッツ光の業務用回線だけど、なにか?

 「うん。訊いてみただけ」

 おまえは古畑任三郎かっ!。

 「悪いけど、そこの、ぼくのバック取ってくれる?」

 わたしがバックを彼に渡すと、ジッパーを開き、一番上のサーバーの上に置くと、ノートブックのモニターを開きました。

 院内PHSを取り、各病棟に連絡。

 「今から2~3分PCのネット機能がストップしますので、ご了承ください。・・・・・・おかしいねー。何で事務は出ないんだろう?」

 土曜で全員休みだから

 「ってことは、PCの電源も切れてるってことか。よし」

 彼はマスターサーバーにつながれていたケーブルをはずし、自分のノートブックにつないで、キーを叩いていた。

 「わかったー。とても簡単なことでした、はいっ」

 古畑任三郎かっ、って。

 「えー、事件は解決しました。これはぼくにもどうすることもできません」

 何だったの?

 「NTTの引込み線だよ。規定された速度であがってこないし、途中でプツプツ途切れたりしている。NTTの携帯電話がそうでしょ。話の途中で急に相手の声が小さくなったり、切れてしまったりする。あれと同じ症状が起きているんだ。多分、下請け会社が下手なんだと思う。サーバーから各病棟へは問題はない。NTTにクレームをつけて、きちんと対処させるしか回復の道はない。さすがはNTTだね。ぼくの住んでいたマンションもNTTの光フレッツマンションタイプだったけど、同じ症状が慢性的に起こってた。それをNTTに連絡しても、たらいまわしにされるだけで、答えも出さなければ自らの非を認めようとしない。孫さんでも引き込みの光ケーブルに参入しないかな。1度国に一蹴されて引っ込むような人じゃないんだけどね。・・・・・・あっ、お待たせしました。原因は外からの引き込みでした。サーバーまでうまくあがらないんですよ。これはNTTしかどうこうできないので月曜までは最低改善できないです」

 NTTって民間でしょ?

 「表向きはね」

 裏で国土交通省と癒着してるってこと

 「鋭いねー。その通り。だから、引き込みの新規参入を申し入れても、民間会社は一蹴され、永遠にNTTの独占状態が続く。JT以外がタバコを売ってはいけないのと同じ仕組みなの。官僚を取り込めば何でもできるのがこの国です。孫さんは賢い人だから裏金を握らせたりはしない。あくまでも正面突破だからね。同じ母子家庭で育ったからよくわかるよ。孫さんと話しているとね、二人とも母子家庭だったから、差別自慢になる。あーその程度ですか。ぼくはねー、なんてね。日本には何人かの風雲児と言われた億万長者がいるよね。ホリエモン、楽天の三木谷さん、村上ファンドの村上さん、和民チェーンの渡辺さん、そしてソフトバンクの孫さん。ほとんどの人とお話させてもらったことがあるけど、まともなのは渡辺さんと孫さんだけ。二人ともものすごい苦労をして、食べるものも食べずに、がんばって、巨大産業を立ち上げた。孫さんはね、母子家庭で、世間から差別を受けて酷い暮らしをして、東京大学にも猛勉強をして、返納しなくてもいい、優秀な生徒だけが受けられる奨学金で通ったんだ。着る洋服が買えないから、高校時代に着ていた詰襟の学生服を着てね。そういう時代をバネにして、今は動いてる。

 プロ野球球団を買ったのも、ホリエモンや三木谷さんと全く違うんだよ。ホリエモンも三木谷さんも、野球のルールさえろくに知らないんだ。野球はスマートじゃないから嫌いなんだって。でも、金儲けのプロモーションのために必要だった。選手は金儲けの話題集めのためのコマに過ぎない。

 孫さんは、野球小僧がそのまま大人になったんだ。小さい頃からジャイアンツ・バカで、自分でも、遊びといえば野球オンリー。でも、裕福な家庭じゃないから、お母さんがハギレ布に布団綿を入れてグローブを作ってくれて、それで毎日野球漬け。

 野球ファンの子供って、ぼくもそうだったけど、自分の球団を持ちたいんだよ。オールスターをあちこちの球団から集めて夢の球団を作って、オーナーになって、自分の作った球団が優勝するところが観たいんだ。

 孫さんがそうなんだよ。金が儲かろうが赤字になろうが、自分の球団で野球を楽しみたいだけなんだ。

 だから、選手を見る目が肥えていて、ドラフトでも、これはって選手を指名して、入団させる。だから球団自体が厚みをまして強くなる。そして毎年日本一だよ。特に今年のホークスはすごかった。日本ハムも中日も全く歯が立たない。タイガースがリーグ優勝しなくて良かったよ。もしタイガースとホークスの日本シリーズなら、4日でホークスの日本一が決まってた。強すぎるよ、ホークスは。でも、携帯とプロバイダはソフトバンクが好きだし、孫さんは人間的にとても大好きだよ。ぼくも、母子家庭での苦労や差別をされていた時代がある。孫さんに見習って、その時代をバネにして生きてるんだ。この病院には感謝しているよ。母子家庭だと正社員の就職はないよ。面接で母子家庭であることがバレると、絶対に雇用してくれないからね。それがアルバイトにまで広がっていて、コンビニのレジでも、母子家庭だから採用できない社内規定がありますので、今回は、だから」

 母子家庭だから就職を断られる、か。

 でも母子家庭のどこが悪いんだろう。

 離婚率が年を追うごとにあがっている今、母子家庭は当たり前のように存在してる。

 父親がいる家庭でも、今は広域異動で、単身赴任生活をしていて1年に1度会えるかどうか、って家庭もたくさんある。

 そんな家庭は母子家庭とどこが違うの?

 あくまで書類上の問題でしょ。

 アネさんが笑っていたけど、母子家庭の子供を採用すると、会社の金を横領したりする危険性があるから不採用にするんだ、馬鹿げてるよな。世の中の母子家庭はみんな犯罪予備軍か。なんで人間の内面を見ないで書類で判断するんだろうな。そんなことをやってると、金の卵に逃げられるんだよ、だって。

 的を得ているね。


 余談だけど、3月の中旬。

 夜中にスタッフ・ステーションで、アネさんと看護師長が、背の高い缶ビールをそれぞれ手にして乾杯をしてた。

 「探しているときには見つからないのに、こうやって自分から飛び込んできてくれる場合もあるんだよ。世の中ってわからないものだよ。この病院にもとうとう探してた最上級の卵を採用できるね。臨床心理士資格のおまけがついてるよ」

 「こういうのを本当の”鴨がねぎをしょって現れる”っていうの」

 「来年度は楽しくなるぞー。看護師を探すのにもはずみがつくよ。やる気が出てくる。その前に、きょうは酔うぞー」

 考えてみると、”鴨がねぎをしょって現れた”。自分から飛び込んできた、のは彼なんだ。


 サーバーの件は月曜に、アネさんが院長だから、NTTに何とかさせるってことで幕が降りました。


 今度は、不思議ちゃんに派遣要請。

 ウチの変なおじさんから、呼吸器科で、症状的には診断ができるけど、通常の症例と違う症状があって確定診断できないから、来て診察して欲しい。

 彼は白衣とドクターズ・キットをバッグに詰めて、4Fの窓から飛び降りた。

 着地は成功。

 ただ、そのまま滑って自分の車のドアの前で止まるという、不思議なことをやってのけた。

 「ブラックバーンだよ!すごいよ、これは月曜に事務に話して砂をまいてもらったほうがいい」

 下からサコちゃんは叫んだ。



 結局、変なおじさんの病院の呼吸器科医の診断は正しかったようで、ただ、彼も初めての症例で、治療をどうするかで悩んだ、とか。

 マイコ・プラズマ肺炎。

 病原菌性のつまり飛沫感染などがある最悪の肺炎。

 間質性肺炎と並ぶ、二大治療法がない肺炎。

 


 


アジスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質、ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗生物質がよく用いられる。ケトライド系(ガレノキサシンなど)、リンコマイシン

系、ニューキノロン系薬剤も有効である。細胞壁を持たないため、β-ラクタム系(ペニシリン系、セフェム系)の薬剤は効果がない。しかし、現在ではマイコプラズマの全体の約15%は耐性菌と言われており、前述の薬では効果がない可能性がある。

 

 患者さんがそうだったみたいで。取り得るすべての治療を試みても、まったく効果がない。

 「急に流行してきたね。皇室も愛子様と天皇陛下が感染された耐性菌だからすべての薬が効かない。でも、なんとかきょうの患者さんに関しては治療法を完成させたよ。もう1週間は目が離せないけど、それが過ぎれば回復期に入る。余談だけど、アメリカでは、ぼくの診察した症例の大半がHIV感染者だった。日本では一般の人々の間で流行してるのが不思議で。でも、あの患者さんは助かる。容態が悪化した場合の処方も書いてきたし、それで手に負えなければ、またぼくが行く」

 どんな治療法を選択したの?

 「ごめんね。話したいんだけど、個人情報保護の原則が病院にもあるでしょ。ブログに書かないのなら、参考にして欲しいから話すけど」

 と、いうわけで、彼が完成させた治療法を教えてもらったけれど、約束だからブログに書くことはできません。

 ただ、えっ、こんなことができるの、っていうような画期的な方法で、呼吸器を専門にするわたしにとっては大胆すぎる方法でした。


 あとは、夜食のときにでも、4Fのスタッフに話しておく。スタッフ以外に公表しないという条件つきで。


 難題を乗り越えているうちに、サコちゃんはきっと報われるよ。


 採用が決まった本人は肺癌で生きるか死ぬかのときに、決めた方は探していた最上級の医師が見つかって酒盛り開いてるんだから。

 元・母子家庭だって、元・生活保護受給者だって、この病棟のスタッフは差別したり冷たく当たったりしないから。

 ヲタク仲間がいなくなったのはさびしいかもしれないけど、もうすぐじゃない。

 篠田麻里子さんがセンターの曲のリリース。

 「上からマリコ」。

 AKBはどうでもいいけど、篠田さんがセンターだから久々に買うんでしょ。

 来週は大好きなオペもあるし、今までの苦労や差別は報われる、って。