サコちゃんの執刀したオペは無事終りました。
2時間というリミットと、腫瘍の全摘出という2つの敵と闘って、見事に勝利を収めました。
手術室長によると、この病院のオペ時間の記録を更新したそうです。
前院長が行った整形外科の血管種切除手術が最短記録で1時間51分。
サコちゃんのきょうのオペは1時間48分。
一気に3分縮めて、新記録。
血管種除去で2時間かからないのもすごい、っていうか、血管種って常識では除去はできないはずなんだけどね。
それを行ったとなると、あの前院長はとぼけてみせるけど、実はスーパー・ドクターだったってことになる。
サコちゃんだって、肺粘表皮腫瘍の全摘出で1時間台だから、スーパー・ドクターだってことになるけど、オペの前にちょっと、あったから、きょうは認めたくない。
粘表皮にできた腫瘍を摘出するっていうのは、例えると、パンパンにふくらんだ風船の表面にべったりと張りついたシールやペンキみたいなものを、きれいにメスで剥がしとるようなことなんだけど、1ナノも欠片を残してはいけないし、肺に穴を開けるなんてもっての他で、それをやると医療ミスの中で最も重たい殺人罪が適用される。
それを、メスを微妙な角度に寝かせてどんどん剥がしていく。
腫瘍は原型を留めたまま。
わたしも、そのメスの角度を盗んで、風船を使ってシュミレーションしてみたけど、何度やっても、風船を破裂させてしまう。
アネさんは、料理の包丁裁きと関係があるんじゃないのか、っていうんだけど、確かに、小魚の三枚おろしでもきれいに骨だけ剥がすんだよね。
それもスピードがすごい。
一流の料理人として生きていけると思うよ。
でも、きょうはやりすぎ。
やっぱり、恐れていたことをやったよ。
オペ室の前でね。
わたしは前立ちだから、先にオペ室に入って、内視カメラの準備をしてたんだけど、カメラの調子が悪くて、内視鏡室まで台車にカメラを載せて(カメラって言っても、装置だからね、デジカメみたいなものじゃないんだ)交換してきたの。そうしたらオペ室の扉の前に、腰に手を当てて仁王立ちしている術着の人がいるの。
誰だろうと思ったけど、邪魔だからどけてもらうように言ったら、振り向いたのね。
これが月光仮面。
瞬間的にキレたよ。
オペ室の中では、スタッフがオペを成功させるために、微細な部分にまで気を配って準備してるのに、歌ってるんだよ。
こんな歌なんだけど、月光仮面が登場してくるときに、まずどこからか歌声が聴こえるのね。
そうするとどくろ仮面とか、サタンの爪とか、幽霊党なんていう悪者は、必ず決まって、周囲を見回しながら、「なんだ、この歌声は」って言うの。
そうすると月光仮面が垣根の隙間から現れたり、悪者のすぐそばに立ってたりするの。
悪者は、これもお約束で、「誰だ!おまえは」。
「私は月よりの使者 月光仮面だ!」
ちなみにこの歌は「月光仮面の歌」というのが正式なタイトル。
♪どーこのだーれかはしーらないけれど だーれもがみーんな知っている♪
っていうタイトルバックに流れるのは「月光仮面は誰でしょう」なの。
間違えたら、原作者で、作詞もした川内康範先生に訴えられるよ、森進一さんの「おふくろさん」事件みたいに。
わたしはサングラスを剥奪した。
ふざけるにもほどがあるよ。
「前室ではずすから、お願いだから今は月光仮面をやらせて」
って泣きを入れられたから、わたしもそれならいいよ、ってサングラスをかけてあげた。
サコちゃんも実はオペの執刀が恐ろしいんだと思う。
ましてやきょうみたいにメスの角度がわずかにぶれただけで、刑務所行きになるような微妙なオペだから。
恐ろしくない医師はいないと思うよ。
そういう自分を鼓舞するために、アントニオ猪木さんを始めとするプロレスラーの入場テーマを聴いたり、こうやってコスプレをして、恐怖を祓う。
『アンフェア』の刑事雪平夏見が、死体遺棄現場で、死体と同じ格好で横たわるでしょう。
サコちゃんにとっての一連の行動と雪平夏見の横たわりは、意味は違うけど、一種の儀式なんだと思う。
それがきょう、わかった。
今度からは、前室までは何をやっても許す。
他人の生命が、自分の握ったメス1本にかかってるんだらかね。
それは恐ろしいよ。
麻酔科長がまた麻酔を担当してくれたんだけど、オペが終って、サコちゃんと一緒に前室で手を洗っていたとき、こう言った。
「2時間もいらないのなら最初からそういってくれればいいのに。早すぎるよ。おかげで、オペ手当てはもらえても残業手当はつかないじゃないか」
「でも、リミットは2時間って言ったじゃないですか」
「それはさ、言い方だな。3時間30分がリミットだったんだ、きょうのケースは」
「えーっ、1時間30分もさば読んだんですか。こっちは、2時間だと思って緊張状態ですよ。頭の中はパニックだし」
「そりゃ悪かったね。でも、我々麻酔科とエンジニアはそうする人種なんだよ。さあてっと、早く家に帰って憂さ晴らしにビールでもぐーっとやるか」
そういえば、サコちゃんの大好きなドラマ『スタートレック』で、宇宙船エンタープライズ号の機関士スコッティーが、本当は一週間もかからないで終る修理が、寝る暇を惜しんでも二週間で完了させて見せます、なんて言っていた。
麻酔科長のしたことも、それと同じことなんだ。
でも、ちょっと人が悪いよね。
こっちは凶悪犯の人質にされたような気分だったのに。
凶悪犯の人質になったことはないけど。
とりあえず、今夜は病室でゆっくり、DVDを観よう。
きのうレンタルしたのを片っ端から観ないとね。
今夜は『ハナミズキ』がいいね。
サコちゃん、ぼろぼろ涙をこぼして泣くよ、きっと。
とにかく弱いからね。
だから、特撮SFや、サスペンス、ホラーにいくんだろうけど、洗礼を受けたらホラーは観てはいけない、という律法があって、大切に持っていたホラー映画のDVD480本をリサイクルショップに売った。
480本で30円。
ガリガリ君ソーダ・アイスキャンデーも買えない、と考えるか、うまか棒を三本も買える、と考えるかで気分も変わるものだよ。
安く買い取って、高く売る。
だから、リサイクル・ショップって倒産しないんだよ。
サコちゃんがPS3を売ったのね。
初代の、PS2のゲームが遊べる奴。
HDDは60GBで小さいけど、ゲームには問題ないから。
地上デジタル放送を録画するにはHDDが足りないから、売って、わたしにプレゼントしてくれたときに、320GBのブルーを買った。
ちなみにわたしは同じ容量のピンク。
初代の買い取り価格が10円。
後日、そのお店を訪ねると、37800円で売られてた。
定価は6万円近いってサコちゃんは話してたけど、世の中そういうものでございますよ。
さあ、サコちゃん、ティッシュ・ボックスを抱えてよ。
きのうの(今朝か)記事で予告しました「桜樹ーSAKURAー」。
製作完了いたしました。
そのために、サコちゃんは二日間まるまる完徹(完全徹夜)してしまいました。
自分で撮りためた桜景色の写真に、フリー素材をミックスして、動画ではなくスライドショーに音楽をつけたものです。
音楽を聴いてもらうためのもので、動画だろうが静止画だろうが、どうでもいいんです。
ただ、6分20秒という長さの曲のために、ミキシングをやり直して音質を上げ、画像の編集を行うのに二日の完全徹夜までして、そのままオペに執刀するという前代未聞のことをやってのけたサコちゃんに感謝。
星三つです!。
サコちゃんって本物の月光仮面だよ。