ほんとに、思いもしないことをやってくれるよねー、ウチのツレは。

 生活保護受給者時代に毎月受給していた分と医療費全額を福祉事務所に一括返納しました。それも利子つきで。

 法的には返済義務はないんですよ。

 わたしの頭では理解不能な行動です。

 ツレはこう言ってました。

 「学校の奨学金は卒業したら直ちに、分割でも利子つきで返納しなければいけないよね」

 今は学校が出資して、優秀な生徒にのみ出す返納不要の奨学金はなくなったからね

 「病院には厚生労働省の、高額医療費扶助給付制度があるけど、以前は無利子だったのに現在は利子がつくし、申請もほとんど通らない。結局、なぜかといえば、支払うべきものを支払わずに逃げている大バカ野郎がいるから資金が回らなくなる」

 支払わない人が多いのはわかるよ

 常識はずれの大バカ野郎だとは思うよ

 払えない理由があるなら申し立てをすればいいのに、払えないんじゃなくてはらわないんだよ、ああいう人種って

 結局、給食費問題と同じ理論だろうね

 「取立てがないからそうなるんだよ。官僚のおかしなプライドだ。闇金みたいにしつこく脅迫してでも取り立てないと、もう破綻してるでしょ。これから申請しなければ、病気を治すことができない患者さんはどうなると思う。金持ちは医師にかかって病気を治すことができるけど、高額医療費扶助給付金に頼らなければ治療ができない人は、そのまま死んで行け。アメリカと同じだよ。いやアメリカは高額医療費扶助給付制度なども日本に見習って導入しだした。アメリカ以下だよ、日本は」

 ニューヨークの病院でも、日本の制度に見習って、今度、こんな制度が導入されるんだ、って医師たちが喜んでいたよね

 「一人でも多くの命を救いたい、それが医師だよ。どこの国でも同じ」

 それと生活保護費の返納とどういう関係があるわけ?

 「いい質問ですねー。要するに、あとの人のことを考えなさい、ってことさ。生活保護受給者は現在205万人を越えた。まあ、9割は詐欺だけどね」

 詐欺って?

 「うん。働けるのに働かず、生活保護を受給してギャンブルにのめりこんでる連中のこと。病気で働けないのなら、医療費を全額負担してくれるから病気を治すことに専念すればいい。でも、働けるのに働かないヤツラはハローワークに定期的に、週に1回でも通って就職相談を受けなければいけない義務があるんだ。ハローワークには生活保護受給者の就職相談を専門に受け付ける窓口があって、そこにいくと本当に親身になって世話をしてくれるよ。お役所って感じがしない。昼食までおごってくれたりもするんだ。

 ところが、だ。

 ケースワーカーには”就職相談に行って、紹介してもらって面接までいきました”と連絡を入れると、スーツを買う費用を一時扶助という名目で出してくれる。それは一時扶助目当てに言ったことで、面接なんて真っ赤な嘘なんだよ。ハローワークにも行ってない。それで、ケースワーカーには、”面接の結果、生活保護受給者なんかに働いてもらう場所はない、と言われた”と報告する」

 そう言われたかもしれないよ、ほんとに

 「労働基準法で決められているんだ。身体障害者や生活保護受給者が求人に対して応募して来た場合、身体障害や生活保護需給という理由で合否を決定してはならない。身体障害者は、各事業所に最低1名以上雇用することが望ましい、といって、身障者を雇用すると1名に対していくらという奨励金が毎月事業所に振り込まれる。

 生活保護だって、別に働ける能力はあるわけだから、生活保護受給者だからっていうことを理由に事業所が断ったのなら、その事業所には国からペナルティーがあるんだ。具体的には無期限事業停止なんて重い罪だよ。

 事業所はそれを知ってるんだから生活保護受給を理由に雇用を見送ることは絶対にない」

 そういえば、西武デパートって、各階に身障者が何名もいるよね

 「ああ。相当な奨励金をもらってる。それで、傾いてる経営をなんとかしてるのかも」

 この病院でも、食堂と事務にいる、ってことは奨励金をもらっているわけ?

 「もちろん。事務長に訊くとわかるよ。あの人は正直だから金額までしゃべるかも」

 で、本題は、

 「だから、あとの人のことを考えたんだ。本当に病気なんかで働けなくなって、明日のお米もどうすることもできなくなった人が申請をしても保護関係の部署の予算がなくて却下されることがあるから、そんなことが1件でも減るようにそうするの。ぼくが返納するところは北海道の福祉事務所の旭川支所と、旭川市役所の福祉課保護係。旭川に引っ越してくる前は管轄が北海道だったんだ。で、旭川に引っ越してからは旭川市役所福祉課保護係。道の管轄だった頃は、ケースワーカーたちは必死だったよ、受給者を減らすのに。パチンコ屋から競馬場まで見回りをかけて受給者を捕まえて、詐欺罪で刑務所送りにしたり、しまいには行き過ぎて法に触れていない受給者の罪をでっちあげまでした。ぼくもその一人。たまたま親身になってくれる弁護士さんが福祉事務所に噛み付いて、ケースワーカーを告訴して、人事異動になったけど。国には裁判所も甘いからね。

弁護士さんは、裁判所の判断にも噛み付いて、ケースワーカー個人を告訴した。

 結果、福祉事務所はそのケースワーカーを切り捨てて、ケースワーカーは人権侵害で結審。それでも弁護士さんはまだ噛み付こうとした。

 そこまで剥きになったのは、弁護士さん自身が母子家庭で、生活保護を受けて育った人だからなんだ。日曜のTVの法律事務所っていう番組に出てるよ。「笑わない、冷徹な弁護士」って。でも、あれはキャラクターで、実際はものすごく人道的で熱血漢。

 あっ、そうだ。ぼくもケースワーカーをいじめたことがあった。

 僕の場合は精神科から診断書が福祉事務所にいっていて、就職活動を絶対にしてはいけないっていうことが書かれていたみたいで、それを言ってくれればいいのに、精神科で医師の口から就職はだめです。それだけは守ってください。それを破ったら、もう、どこの精神科でも手をつけられなくなるから、それだけは忘れないでくださいね。って言われただけで、そこまで深刻なことだとは思わずに、医者って大げさなことを言う人がいるからさ。耳鼻科に来たついでになにげなくハローワークにいったら、いい求人があって、条件的にはぴったりなんだ。で、就職相談窓口でこの求人に面接を希望します、って出して、会社側の都合で、求人票の期限が切れてからの面接になるってことで、待機してた。

 それが、どこからかバレたんだよ、精神科に。ひょっとしたら臨床心理士対臨床心理士の対決で、ぼくが表情を読み取られたのかもしれないけど、”もう一度言いますよ。就職活動をすれば、躁鬱病はどこの精神科でも手をつけられなくなって廃人になります。それだけは忘れないでくださいね”毎回診察の度に同じことを言われてね。裏では福祉事務所のぼくを担当になった新しいケースワーカーを攻め立ててね、やっと、鬱病と社会性全般不安で精神科に入院していて、復帰第1号がぼくで、話も合うし、いい1年間が過ごせる、と思った矢先に精神科医がぼくのことで”わたしの診断書を無視するつもりですか!”って怒鳴ったもんだから、また病気をぶり返して病院送りになった。ケースワーカーって1年交代なんだけど、3ヶ月だった。せっかくゲームヲタクで話の合う人だったのに」

 誰が悪いの?

 「ぼくか、怒鳴った精神科医か。むずかしいところだよ」

 本題は?

 「それに比べて、旭川市のケースワーカーは甘いね。ギャンブル場の見回りをすればかなり無駄な保護費を削れるよ。詐欺罪は執行猶予がつかないからそのまま刑務所に送致できるのに。市長とも話したんだけど、やっぱり保護費が大変らしいね、市の財政の中では。そこだけは改革が進まないっていうから、ギャンブル場の見回りで、容赦なく詐欺罪を適用しろ、って言ったんだけど、すべての市民に敵を作りたくないときたもんだ。話にならないよ。だったら、ぼくが保護費として受給していた分を、受給じゃなくて貸付を受けていたと仮定して、全額、利子の分もつけて返納します。そうすればほんのわずかでも市の財政の足しになるでしょ。道に返納すれば、破綻寸前の北海道にほんのわずかでも役立ててくれるでしょ。もちろん、ただでは返納しないよ、ものすごい金額になるから。引越し費用も入ってるからね。旭川市の福祉課保護係には、詐欺受給者を徹底的に取り締まること。旭川刑務所はまだ定員に余裕があるから、1年以上3年以下の懲役刑を受けさせて、保護を廃止すること。それが交換条件なんだ」

 でも、返納制度って

 「ないよ。だから名目は寄付になるけど、返す本人が返納の意思を示しているんだから、制度上になくても、そう思ってもらえたらそれでいいじゃない」

 振込み先はわかるの?

 「用紙を請求してたのが届いた。ただし利子を計算したいから金額は入れないでほしい、いくら支払われてるかだけは、計算して教えてほしいといって、受給額の計算書を同封してもらった」

 つまり、生活保護は国や市からもらっていたんじゃなくて、借りていたって位置づけなわけね

 「受給しているときから、廃止できたら、分割でもいいから返していこうって思っていたから、一括で返すことのできる就職先が見つかるとは、ラッキーだよね。ぼくはイエスに見放されていなかったってことだ」



 そういって、彼は病院の向かいにある都市銀行に、昼休みに駆け込んで、すべての振込みを終了させた。

 そして、さっそく市長に電話。

 「今。振り込んだから。あとは交換条件のほうをよろしく。-なんだったら警察に依頼するか。個人情報でも警察の捜査の場合に限って開示に応じなければならない。個人情報保護法。包丁を振り回したりする危険な連中もいるって、ケースワーカーから聴いてるから、保護係の職員のように無防備だと危ないだろうー考えてみて、警察に任せようと思ったら、ぼくに電話をくれれば、担当課に動いてもらうように話すよ。市長や職員が直で警察を呼ぶのは勇気がいるし、あまり勧められないよな。旭川市はそれほど危険なのかってことだから。ーうん、まあ話し合って返事をくれよ。ある程度の時間は待つから。悪いね、せっかくの昼休みに。午後はあれか、エア・ドゥを飛ばすのか、羽田まで。落ちるなよ、考え事をしていて。じゃ、また」


 しかしねー、市長になる前からの友達だからっていうのはわかるけど、市長に軽口たたいてもいいの?。

 あまりにも飄々としていて、おもしろすぎるよ。

 

 「さて、アネさんと次に殺(や)る頭のことを話さないと」

 とうとう標的を決めたのか。

 ツレにとっての敵は腫瘍だけじゃない。

 腫瘍はむしろザコ。

 ボスキャラは厚生労働省。


 まあ、わたしはついていくよ。

 だから今度、外出の順番が廻ってきたら、映画にいこう。

 『ステキな金縛り』

 サコちゃんは三谷幸喜さんが嫌いでしょ。

 キャラかぶるから。

 飄々と、人をおちょくっているようなボケをかますなんて、双子みたいだよ。

 でも、わたしは西田敏行さんが何よりも好きだから。


 『月光仮面』劇場版はDVDだから、いつでも見れるって。

 映画は期限付きだから。

 いこう。