この記事は、彼の元ホストファミリーのご自宅のパソコンから書いています。





 彼のホストファミリーの旦那さんはニューヨークで審美歯科をされており、何か相当な腕の持ち主で、有名女優さんたちのお抱えです。


 歯科医院を見学させてもらったところ、ちょうどハリウッドからものすごいセレブが治療にやってきていました。


 多分、みなさんご存知だと思いますが、シリアスもコメディーも器用にこなす、キャメロン・ディアズさん。


 彼の顔を見た瞬間にいきなり抱きついてしまって、キスの嵐。


 ちょっと、わたしとしては・・・・・・。


 でも、話を訊くと、彼はキャメロンの出演する映画の音楽監督を何本も務めていたようで、別に、恋愛関係とかではなく、ほっとしました。


 『メリーに首ったけ』『イン・ハー・シューズ』『チャーリーズ・エンジェル』『チャーリーズ・エンジェル・フルスロットル』など、日本でも大ヒットした作品で組んでいたとか。


 特に『チャーリーズ・エンジェル』の時はキャメロンが音楽に彼を指名して、主演の一人で、プロデューサーでもあった『E・T』のドリュー・バリモアに彼を使うように話をしたら、ドリューも、彼がそれまで担当したハリウッド映画の音楽を知っていて、あのTVシリーズ『チャーリーズ・エンジェル』の続編にしたいんだ。TVシリーズの後もチャーリーはエンジェルたちを使って悪を叩き潰してるんだよ。だとしたら彼を使わなければそれにならない。彼は他のTVシリーズの映画化でも、TVシリーズのテーマ曲を、TVシリーズのファンの心をつかめるように原曲は残しながら、巧みにアレンジして、TVシリーズを知らない世代の心も掴んでいた。『スタートレックⅥ』なんか最高!つまりTVシリーズのテーマ曲を現代風にアレンジしながら原曲を壊さないで使うから。TVシリーズのエンジェルたちを知っているファンも知らない世代も『チャーリーズ・エンジェル』を楽しんでくれるための音楽が書けるのは彼だけ。私も彼を使おうと思って製作総指揮者と現在、交渉が決裂してるけど、私は彼が音楽を担当できないのであれば、この作品自体製作中止にして、私(ドリュー)自身が映画制作会社を持っているから、ソニー・ピクチャーズから版権を買い取って製作する、って製作総指揮者に通告して黙らせて、最終的にドリューの言い分が通って、彼が音楽監督に就任したっていきさつがあるんだよ、ってキャメロン自身が話してくれました。


 でも、ハリウッド・セレブって、お高くて一般人なんかと話もしないんだと思ったけど、キャメロンって全然違った。喋りっぱなし。


 どこにでもいる陽気なお姉ちゃんって感じで、スニーカーにデニムで、ロスからニューヨークまで飛行機で治療に来てるの。


 映画の中のイメージのままで、わたしはファンになりました。


 ナタリー・ポートマンなんかもお抱えなんだとか。


 すごいよ。





 コロンビア大学も見せてもらいました。


 はっきりいって、過去の遺物、というか良く言うと時代性のある建築物って感じ。


 ここは1700年代に建築された建物を、補修しながらそのまま今でも校舎として使用しているんです。


 日本の大学ではありえないことでしょう。


 とにかく建て替えが激しくて、常に最先端の校舎ビルでしょう。


 まあ、そうしないと生徒が集まらないって理由みたいだけど、生徒を集めるのに校舎を建て替える、って違うと思う。


 やっぱり、名前と何をどう教えているかだと思います。


 まあ、1700年代っていうと、日本では江戸時代なのかな。


 校舎の中も補修はされているんだけど、至る所に”触るな”とか”天井が危険”っていう張り紙がされていて。


 大切にするということはこういうことで、先日亡くなられた「MOTTAINAI」のマータイさんの言いたいことって、こういうことなんじゃないかと思いましたね。


 日本ではオフィス・ビルでも何年かごとに建て替えるけど、あれは単に虚勢を張っている、というか、ウチは建て替えられるだけ、たくさん儲けてます、見たいな感じがして嫌い。





 社屋を意図も簡単に建て替えられるくらいの企業に特別税制はいらない。税率を元に戻してちゃんと税金を払え!





 授業も見学させてもらいました。


 心理学の授業で、わたしは、専門用語はよくわからなかったけど、授業自体は素晴らしかったですよ。


 何よりも生徒の態度が真剣そのもので、講師を目で追いながら一言も聞き漏らすかっていうくらい。それをしながらノートもきちんと取っていて。


 まさに白熱教室。


 講師が授業中に口にした、何気ない心理学の事柄について、講師の話が終わった途端に質問の集中攻撃を生徒が浴びせるの。


 最初は真面目に答えていた講師も、そのうちに汗だくでへろへろ。


 授業が終わって、講堂を出て行くときはふらふらしていて、ここでひょっとして倒れるかも、って思いました。


 日本の大学にはこんなことはないでしょう。


 わたし自身も大学時代は、講師を質問攻めにするようなことはなかったな。


 


 彼に臨床心理学を教えた教授にお会いできて、学生時代の彼についていろいろと訊いてみたら、彼はまさに白熱教室のリーダーみたいな感じの学生で、ものすごい鋭い質問を矢継ぎ早に飛ばすんだって。


 必ず講堂の一番前の席に陣取って、教授を徹底的に虐めるかのように質問して、時にはそれで飽き足らずに講堂から出て、教授の私室まで後を追いかけながら質問するような生徒だった。講堂に入っていくときにいつも、きょうは彼が休んでくれたらいいと、それだけを祈っていた。


 でも、それは決して悪いことではないんだよ。私たち講師は、彼ら生徒から学費をもらって生活してるんだ。対価を求められるのは当然さ。でも、彼のいる授業ほど疲れるものはなかったな。そのおかげで、FBIの心理捜査官という立派な職につくこともできたんだ。私としては鼻が高いよ。


 なるほどね。


 だからスーパー臨床心理士になれたんだ。


 瞬時に相手の心を読んだりするのは、彼の本来持っていた資質に徹底した努力がプラスされたことによってできるようになったんだ。


 わたしは、自分で言うのはなんだけど、努力はしてます。好奇心も旺盛だし、とにかく1日1歩でいいから成長しようと学生時代から心がけていました。


 でもね、わたしには、資質がないんだと思いました。


 だから、彼に追いつけない。


 でもこれだけはね、どうしようもないことだから。





 やっぱりわたしは今まで勘違いしてた。


 ここは『ある愛の詩』のロケ地じゃない。


 オリバーはコロンビア大生じゃない。


 彼が言うには、


 「オリバーの所属するハーバードのアイスホッケー部の試合の相手がコロンビア大だから、そこから間違ったんだと思うよ」


 そんなことを憶えているのも資質のうちですよ。





 その後、彼が結局半年間だけ勤務をしていた病院を見学させてもらいました。


 ここが先進医療の展示場って感じで。


 癌の第一選択治療に粒子線照射を取り入れてるんです。


 日本でも、いくつかの病院で第一選択にしているところはあるけれど、患者さんは、とてもじゃないけど受けられないんです。


 保険適用外治療指定だから、1コース1200万円ほどかかるんです。


 家が一軒建つんだよ。


 でも、患者さんには体力的にもっとも負担がかからない最良の治療法で、化学療法と放射線という、全く効果のない治療しか選択の余地のない最末期癌にも適用できて、死亡率を殆どゼロに持ち込める治療です。


 日帰りでできる治療というのも患者さんにはありがたいと思います。


 化学療法も日帰りでできることはできますが、患者さんの体力が極端に消耗しますから、タクシーで帰らなければならない。


 最近はタクシーも基本料金がどんどん値上がりして、その負担だけでもバカになりません。


 それが、粒子線治療だと、自転車でも徒歩でも、公共交通機関でも、免許があるなら自家用車を自分で運転して帰ることができます。


 なんとか、厚生労働省が思い切ってくれるとね、いいと思いますけど、無理かな。


 日帰り治療。それも2回か3回で完全に腫瘍を焼き殺すことができる。夢ですよ。癌医学に携わる者みんなの。


 日帰りで、普通の生活ができるんですから、患者さんにとっては最高だと思います。


 でも、あれか、みんな日帰りで副作用の心配もない治療が当たり前になったら、わたしたち病棟勤務医はリストラ?


 コンビニでレジ打ちのバイト生活ですか?


 わたしにはできない。いらっしゃいませ、ありがとうございましたも言えないし、間違わずにドリンクを補給したり、お弁当を並べたり、発注したりなんて絶対無理。


 


 ちなみに粒子線治療は、ニューヨークでは保険適用にしようという方向で議会が進んでいるし、現在でも1200万円なんてかからないとか。


 国務長官がとにかく総保険制の導入を第一に動いてるからできるんでしょうね。


 日本では保険適用外治療の費用まで、厚生労働省が決めるんです。


 とにかく変ってました、この病院。


 オペを終えてオペ室から踊りながら医師が出てくるの。


 彼に訊いたら、あれが院長だ、って。


 トゥワンプという、1950年代の終わりに流行したダンスなんだとか。


 彼は掛け声をかけてやると院長は反応します。


 「イッツ ア ツイスト?」


 「ノー」


 「イッツ ア スタンプ?」


 「ノー」


 「イッツ ア トゥワンプ?」


 「イエー!」


 そのまま踊りながら彼の元へきていきなり肩をつかもうとしたら、彼はさっとすり抜けます。


 「血のついた手で触ったら、洗濯してもとれないでしょう」


 院長は大げさに驚いて、


 「ちょっと待ってろ、今着替えてくる」


 と言い残し消えました。


 それから、呼吸器外科病棟を見てみるかという彼に甘えて、見せてもらいました。


 日本と同じように、病棟はやはり忙しいようでした。


 ある病室の前を通りかかったとき、突然、マイケル・ジャクソンのあのムーンウォークで出てきた白衣の人が・・・・・・・


 彼は気軽に声をかけました。


 「ハーイ、マイコー(マイケルのネイティブ発音)!」


 何なんの、この人


 「呼吸器外科の医師だよ」


 その人は彼を見ると、そのままムーンウォークでやってきて、硬くハグをしました。


 「実は、ぼく、結婚して、新婚旅行の最中なんだよ。彼女が、ぼくの足跡をたどりたいっていうから」


 「そうか、おめでとう。ところで五番街は気をつけろ。相当ヤバイことになってる」


 「ああ、日本でもニュースは聴いてる。ジャズ・ストリートはどうだ?、それと四十五番街」


 「ジャズ・ストリートは心配ない。ブロードウェイもたいしたことはないようだ。とにかく五番街に集中している」


 「無理もない。あそこは格差の最たる場所だ。気をつけて入るよ」


 「まあ、おまえみたいに米軍最強のレンジャーには子供だましだろうけど」


 「でもFBIが鎮圧に失敗したんだろう」


 「何の役にも立たなかった、おっと、悪いなFBI捜査官の前で」


 「いや。事実は事実だ」


 「結婚か・・・・・・」


 「まだしないのか、あの彼女と」


 「この忙しさが一段落ついたらするよ。プロポーズしてもう8年。ばっちり決めてやるさ。それじゃあ、他の担当患者さんを回ってくる」


 院長が白衣に着替え、わたしたちを探してやってきました。


 「彼女と4月に結婚しました。今は同じ病棟で働いています。彼女は呼吸器外科専門。ぼくは総合診療医&臨床心理士として」


 「それはおめでとう。同じ呼吸器外科医となら、ゆっくりと日本のことも聴きたいし話したいことが山ほどあるんだが、1時間後にまたオペだ。さっきのは、肺粘表皮に4cm、今度は肺上層の縦隔転移が進行してしまっている。そうだ、休日にもう一度訪ねてくれないか、日本の癌治療の最前線について聴きたい」


 「電話しますよ」


 「とりあえず、きみたちの病棟に、参考にならないかもしれないが、プレゼントをさせてほしい」


 院長はスタッフ・ステーションに入っていくと、ジッパーのついたハンドバックより少し大きめのものを持ってきました。


 「この病院の呼吸器外科の肺癌のオペの記録のDVDだ。ウチの病院のやり方を観てもらいたい。アメリカでも賛否両論ある。日本ではどう思って観てくれるか。じゃあ、休日に電話をくれよ。待ってるから」


 そういうと、院長はまたトゥワンプのステップで去っていきました。





 その後見せてくれたのが、救急救命室。


 実際に搬送されてきた患者さんがいて、彼が見学を申し出るとOKが出ました。


 胸にこの病院の勤務医のIDをつけてたからだと思いますけどね。


 ものすごい、もう、あのTVドラマの『ER』そのもの。


 ウチの病院のは救急救命室なんていえないね。


 患者さんをもてあまして、彼を呼び出すんだから。





 彼がちょっと喉が渇いたというので外来のロビーの自販機でゲータレードを買って、二人で飲んでいた時のこと、彼が”開けられません”と書かれた非常口のドアに寄りかかった瞬間にドアが開き、彼はそのまま後ろ向きに倒れていきました。


 慌てて看護師たちが集まってきて、彼を助け起こし、ストレッチャーに乗せようとしましたが、彼はなんともないと拒否。


 でも、一応、亀裂骨折なども考えられるから、という看護師たちの言葉に従い、自分でストレッチャーに座る彼。


 わたしも後からついていくと、「ハイヨー!シルバー!」と声を上げてました。


 ローンレンジャーか、おまえは。



 勢い良くストレッチャーから飛び降りたため、足の甲がおもいっきりストレッチャーのタイヤに轢かれてしまって、「アウチッ!」





 結局足の甲に内出血ができただけで、無事でした。


 外来のロビーに戻ってから、再びゲータレードを買った彼。


 今度はドアには近寄らず、公衆電話の傍へ。


 飲み終わったボトルを捨てようとした時、公衆電話のケーブルにつまづいて、今度は前のめりに倒れる彼。


 また看護師のお世話に。


 看護師さんに訊いたら、これがこの病院の医師の間では当たり前に行われていることです。わざと行うんです。コメディーを患者さんの前で披露することで、笑顔と笑いが生れる。そうすると不思議と人間の本来持っている自然治癒力が強大な力を持って、我々の治療とともに闘ってくれるんです。


 彼は、中でも身体を使ったコメディーが得意でした。


 ちょうど、ピーター・セラーズのクルーゾー警部のようにね。


 それは言える。


 彼に『ピンクパンサー』の、ピーター・セラーズがクルーゾー警部を演じている作品を全て観せてもらったけど、ボケるタイミングが一緒。


 でも、彼は云っていた。


 「ピーター・セラーズは芸人一家の生まれで、本来は喋りの芸で、身体を使ったボケはできなかったんだ。それで、『ピンクパンサー』シリーズの脚本と監督を務めたブレイク・エドワーズが身体を使ったボケを教え込んだんだ。『ピンクの豹』以前のピーター・セラーズとそれ以後のピーター・セラーズでは別人だよ」


 そういえば『ピンクの豹』以前のスタンリー・キューブリック作品『博士の異常な愛情』でも悪ノリ度は同じだけど、身体を使ったボケはかましてない。





 とにかく、彼が病棟でボケるのは、この病院の影響が大きいことがわかったし、きょうは収穫がありました。


 いただいたDVDは、帰ったら病棟に持ち込んで、参考資料として使ってもらいます。


 何が写っているかはわからないけど、病棟勤務医にとって、何よりのおみやげになるでしょう。


 


 これから、彼の元ホストファミリーがわたしたちのためにホームパーティーを開いてくれるということで、喜んで御招待に応じます。








 また、更新できる機会があれば、不定期ですが、できるだけ更新していきたいと思います。





 きょうは、この辺で。