きょう、スタッフ・ステーションには参院予算委員会が映し出されていた。
きょうは与党の日。
民主党対民主党。
あらかじめ、質問と答えがすり合わされているから、盛り上がらない。スムースに進むんだけど面白くない。
別に議事堂でなくとも党本部を会場にすれば済むだろうし、そもそも議会自体必要がないと思うんですけど。
「しーむらっ、そんなの視ててもおもしろくないだろう。おやつがあるぞ、診察室に」
おやつ・・・・・・そんな。だめだって、今、勤務中なんだから。
だめだよ、そんな。でも、ちょっとならいいかな。
吸いつけられるように診察室へ入ってしまった私がバカでした。
おやつはあったよ。
激安の殿堂ドン・キホーテ1Fにテナントで入っているパン屋さんの菓子パンやドーナッツ。それもオールドファッション。
わたしはドーナッツの中で最高オールドファッションが好き。
ミスド(ミスタードーナッツのことをこう云うらしい。彼から教わった。ミスドとマクドがあるって。モスバーガーはどう云うのと訊くとモス。そのままだけど。ボビー・オロゴンさんが格闘技のときに云うのは? モス。だよね。一緒なんだ。まあ押忍がモスに聴こえただけなんだろうね。ロッテリアは? ロッテ。ガムの会社が経営してるんだからまちがいじゃないけど。信じるよ)でもわたしはオールドファッションしか買わない。最近、病院の近くにあった店舗が一夜にして、カード?マジック・ザ・ギャザリングとかいうのとか、ウィンドウにはガンバライドとか書いてあるような店舗に替わってしまった。
ちょっと痛いよ。
でも、このオールドファッションもいけるよ。このもっちりさがなかなかいい。
「ねえ志村」
アネさんは言った。
「ヲタクがいなくなったら、この病棟は新しい副医長が必要なんだよ。ガンバとチャラはまだ技術的にも人間的にも未熟なんだ。志村もそんな時があったからわかるよね。経験を重ねて志村はここまで大きくなったんだよな。つい1月の終わりまでは、2人と同じだった。片想いしていた人が末期肺癌で入院した日は、おまえはピーピー泣いて手がつけられなかった。でも、彼も志村のことを片思いしていたことを知って、ころっと変ったんだ。とにかく助けなきゃってことしか頭になかったと思うよ。
彼が志村をここまで大きくしてくれたんだ。医学以外のいろんな経験もさせてくれた。おかげで技術的にも人間的にもバランスの取れた立派な医師になれた。わたしから見ていても、もうどこへ出してもおかしくないだけの器だ。
それで、志村。もう一回り大きくなってみないか?」
はい
大きくなります
「そうか。そう云ってくれると思ったよ、志村なら」
なにをすれば大きくなれるんですか?
「うん。副医長だよ、この病棟の」
ドーナッツが喉に・・・・・・ぐっ。
おー死ぬかと思った。
それは、つまり
はっきりと云っていいですか?
「いいよ。はっきり最高だ」
その件は昨夜彼からも話を聴きましたが、申し訳ありませんがお断りします
なぜかといえば、わたしは呼吸器外科のみしか医学の実践知識はありません
現代は原発不明の癌で、全身に一度に発症する複合的な癌やスキルスなど、呼吸器外科の知識ではどうすることもできない癌が莫大に増えてうなぎ登りです。でも、病棟の副医長ともなるとそういうものでも避けては通れないと思います。
だから、そんな最強の癌に立ち向かう副医長はそれに特化されていなければならないと思います
「原発不明とスキルスに特化された医師はこの病棟には1人しかいない。やっぱり志村も彼を押すのか。きのうハンチョウには話したんだけど、ぼくには経験がないってあっさり断られた」
副医長になるのなら、いっそタケちゃんマンになるとか
あとは深い海の底の岩に貼りついた、わたしは貝になりたいとも
「アイツはよく知ってるな。昭和30年代の前期に、月光仮面の頃だ、ドラマがあったんだ。戦争で、捕虜にすべき米兵を銃剣で突き刺して殺した罪でA級戦犯にさせられて、絞首刑になっていく理容店の主人の話。でも臆病で突き殺せなくて、右腕の軍服を切り裂いただけで、傷一つ負わせてない。でも判決は変らない。ドラマのクライマックスで、刑場への階段を登りながら、妻子に宛てた遺書をナレーションで読むんだ。その中で、生まれ変わるのなら、人間はいやだ。牛や馬も人間にひどい目に合わされる。それならいっそ、私は深い海の底の貝になりたい。貝になれば深い海の底の岩に貼り付いて、もう兵隊にならなくてもいい。戦争に行かなくてもいい。家族のことを心配することもない。どうしても生まれ変わらなければならないのなら、私は貝になりたい、って。家庭にTVが普及してない頃、ものすごい視聴率を取った。そして芸術選奨を獲得した、TVドラマの最高傑作だ。いまだにあのドラマを越えるドラマはない。次の年には映画化された。5年前にもリメイクされ、一昨々年に再映画化された。でも、オリジナルを越えるようなできばえではない。多分、シナリオ全集か演劇で主人公を演じたんだろう。さて、困ったな」
今夜、わたしが彼を説得します
「そうか。頼んだぞ。わたしは、9月末で彼が退職するんじゃないかと思っていたんだ。彼がこの病院にいる目的は、理事長の行動を監視することなんだ。理事長は創価学会というカルト宗教のこの街の本部のトップなんだよ。その理事長が退職すれば、この病院に彼がいる必要はなくなる。だから辞職されても仕方ないと思っていたら、うれしいことに医師として腰を落ち着けてよければこの病棟に腰を落ち着けたいって云ってくれたんだよ。だから後は、彼の気持ちが医師から副医長に変ってくれれば言うことはないんだ。志村、無理に押し付けたら引かれてしまうぞ。やわらかく優しく、一歩ずつだ。それが失敗すれば、志村、おまえの副医長は決定だからな」
引き受けたのはいいけど、彼はいやなものはとことんいやだから。
説得なんて無理だよー。
色仕掛けにも引っかからないんだよー。
さすが特殊捜査二課だよね。
でも、わたしも副医長は無理。
ベッドに座ってノートブックでブログを書いてるけど、このあとどう出るか。
肩が重い!
ねえ、ブログ中?
「まだ。アンケートが14通たまっていて、それに答えてる」
よし、少し時間が稼げる。
ブログ終ってから話があるの
「はいよー」
当たって砕けろ。
彼の口癖で、英語でつぶやくんだ。
Go For It
チャンチャカチッャチャンチャチヤンチャン おやつにひーかれてはいっていったっらぁー 副医長をやれー、といわれちゃいましたー。チクショー!