20日からずっと気になっていたことがあった。
23日はお彼岸の中日、いわゆる秋分の日。
25日は日曜。
あいだの24日って何の日なの?。
今朝になって気がついた。
普通の土曜日。
三連休というのは、1日だけが祭日で、あとは普通の日なんだって。
だから、誰もいない病棟でも、わたしたちは勤務なんだ。
まあ、夏休みとわずかな春休みを除いて、わたしたちに休みはないけどね。暮れ正月も休めないし。
自分の選んだ道だから、なんとも思ってないよ。
今、病棟では、彼のブログが話題。
華々しく文壇デビューを飾った処女小説をブログに連載してる。
もともとは「食べマルシェ」に出品するスイーツのレシピを他の出品者から隠すために始めたみたいだけど、「食べマルシェ」が終わってもまだ続いてる。
アネさんが自分のノートブックで見つけて、読み出して、面白い!っていうことで世間話にしたのがきっかけで病棟スタッフに広まった。
でも看護師は寮にADSLさえ引かれてないから、携帯でしか読めない。
パケット料金がものすごくなるから、読みたいけど読めない。
彼は、何かを考えていた。
そして、わたしに車を出して、っていうの。
ぼくのと2台必要だって。
そして、マンションへ戻った。
彼の隣の隣の部屋に住んでいる、奥さんを家庭で介護している旦那さんの部屋の前に男女ペアが立っている。
よく見ると、男性は病院に出入りしているケアマネージャー。
女性は訪問看護師といったところだろうか。
向うがわたしたちに気がついて、話しかけてきた。
「ここの家庭、きのうから施錠されていて開かないんです。奥さんは外を出歩ける状態ではないし、奥さんを放ったまま、旦那さんが1泊旅行をするとは考えられないし」
彼が、
「嫌な予感がするなー」
と小声でいった。
「鍵を開けましょうか」
彼は部屋の前に立った。
「あー、その前に」
彼は警官のIDを提示した。
そして、車からピンのようなものを取ってきて鍵穴に入れた。
開かないって。
まえに病棟の金庫で失敗してるでしょう。
出るよ、
「無理でした」
が。
「開きました」
嘘!。
ノブを上げると、ドアは開いた。
たまにはあるよ、まぐれってやつが。
ケアマネージャーは訪問看護師とともに部屋に入った。
次に聴こえたのはアッと言う声。
わたしも気になってその部屋を覗いた。旦那さんは自らの心臓を包丁で刺し、奥さんの首にはロープが何重にも硬く巻かれていた。
旦那さんの手元には書面らしきものがある。
「触らないで」
彼も書面のところにしゃがみこんだ。
「家主様へ
わたしは要介護4の妻を一人で、ケアセンターの手を時々借りながら介護してきました。それゆえ、たった一つの荷物の運搬手段である自転車を禁止されては、生活していくことができません。
このようなことをしてしまったことを、今はただただ申し訳なく思っております。
部屋の修繕に関しては、預金通帳2冊合わせて1千万以上の預金と銀行印が入ったバッグが、テレビの上に置いてありますので、それをお使いください。
家賃は22日に振込み済みです
今まで、お世話になりました」
彼が病室で、起こらなければいい事態だと云っていたことが起こってしまった。
彼は「中央署捜査一課に連絡してくれれば、彼らが調べを進めてくれます」
といって中央署捜査一課の直通番号を教えた。
そして、わたしに、
「悪いけどこっちを手伝ってくれる?」
わたしは肯いて彼の部屋へ入った。
まずはカメラ。
侵入者はない。それから大きなダンボールをふたつ出してきて、
「これのひとつをきみの車の助手席に乗せて欲しいんだ。中身はぼくの書いた小説三作品とエッセイ一冊が数十冊入っている。携帯でしか読めない看護師さんたちに配ろうと思ってさ。パケットも恐らく定額を越えると思うしね。ぼくが持っていてもしかたないし。出版社が送ってきたものだから新品だよ。きみの車への積み下ろしはぼくがするから。お願いします。白くまくんセヴンイレヴン・プレミアム3個で」
わかった。その代わり、わたしにもちょうだい。あなたのを借りて一冊読んだだけだから
こうして、わたしの車に一箱、彼の車に一箱積んで、部屋の鍵を閉めているときに、派手にパトランプをうならせて捜査一課が到着した。
刑事の一人が彼を見つけて、
「現場(げんじょう)を荒らしてないだろうな!」
と怒鳴った。
「警官の基本だろうが。いいか、近隣住民として教えておく。家主に追い詰められての自殺だ。家主は裁判所の差し押さえ許可状を手にしているから、合鍵で他の部屋に侵入しても罪は問えない。一課なら、云うまでもないかな」
「ふん。いいですねー、特捜二課はお閑で。デートですか。うらやましいですね」
「特殊捜査二課が忙しくなるのは、日本が爆発の臨界点に達した時だ。その頃は捜査一課も、直属の特殊捜査一課も吹っ飛んでこの世にはない。警官の基本だろう」
彼は毒づいた。
「いこう」
わたしに云うと、わたしの車の助手席のドアを閉めた。
自分も助手席のドアを閉め、ガルウイングを閉めながら、運転席に乗り込んだ。
『相棒』でも、亀山さんが右京さんとコンビだった頃、現場に先に乗り込んだ二人に一課の連中がいちゃもんをつけるシーンが必ずあったけど、実際にもあるんだ。
病院の職員用駐車場に車を入れると、彼は車から病院の職員通用口へ入り込み、台車を持ってきた。
そして、二つのダンボールを積んで、病棟に戻った。
ダンボールの前のは?
「トランペット。一つだけ忘れてたんだ」
危なっかしい
「ほんとにね」
幸い、彼の本は病棟スタッフ全員の手に届き、若い看護師たちからはサインを一冊ずつに頼まれていた。
あの心中事件が気になってしかたがなかった。
彼によると、裁判所の差し押さえ許可状がある以上、捜査一課も事件としては扱えず、最終的には、でっち上げで、介護に行き詰った心中として事故で処理するだろう、とのことだった。
あえて、人間は自殺しない生き物っていう臨床心理学の矛盾については問い質さなかった。
徹底的に追い込んで、正常な思考状態を奪う。
あれはまぎれもない殺人だ。
ただ、裁判所の許可という国のお墨付きがあるから、事故としてしか処理できない。
ひとつだけ、気になって彼に訊いた。
特殊捜査二課が忙しくなるのは、日本が爆発の臨界点に達した時だ
その頃は捜査一課も、直属の特殊捜査一課も吹っ飛んでこの世にはない
って、あの言葉はどういうこと?
「言葉のままだよ。特殊捜査一課は捜査一課の直属でしかない。捜査一課は指揮系統のトップが署長クラスで、ちっぽけな殺人事件にしか出動できない。
でも特殊捜査二課は各県警本部長直属。つまり本部長の命令によって動く。本部長が直に命令を下すのは、日本が未曾有の有事にあるときだ。テロによる破壊活動、あるいはハイジャック、『東京湾炎上』のような巨大タンカーのシージャック、そして原子力発電所を制圧して手中に収めて、日本国に対して要求を突きつけてくるテロリストを鎮圧するとき。あるいは9.11のような事態が起きた時、鎮圧に当たるのが特殊捜査二課だ。それらを未然に防ぐのが、ぼくの率いる潜入捜査班だし、起きてしまった時の鎮圧に動くのが特別急襲部隊SATなんだ。
潜入捜査でいちばん人数を割いているのが新興宗教。全国的にね。宗教に名を借りたテロがいちばん起こしやすい。実際に経験している。その他、日本に潜入している北朝鮮の工作員やアル=カイダ、まあいくつかの部族の連合体だけど、などの尾行・監視を専門に行っている班もある。公安や内閣調査室と連携しながら。
もとは極秘セクションだった。でも、函館空港の、オウム信者を名乗るハイジャックで、SATが実戦投入されて、警察側としてはマスコミのカメラがブラックアウトする時間を計算して投入したつもりでいた。マスコミが赤外線カメラを持っていることを知らずにね。それでセクションを公にした。警察ってほんとに上がどうしようもない世間知らずだから。『踊る』のスリーアミーゴスみたいなのがほんとにいるんだから。もう、いや」
なるほど。
でも、そういう事態が起こらなければ、彼が命をなくすことはない。
いや、そういう事態が起きても、彼は無傷で生き残る。
もっと過酷な戦場で生き残ったんだから。
でも、日本も落ちぶれたもんだね。
明らかな殺人が、裁判所の書状1枚で事故とされ、真実は永遠に隠される。
それに対してマスコミは何の疑問も抱かない。
いつからだろう?。
多分、国がマスコミに網をかけたときから・・・・・・。
報道協定を締結させ、偽の情報を国が流したとおりに書かせる。
追記。
本当はきのう行くべきだったんだけど、彼の大叔父さんの眠る靖国の分社へ、散歩がてら行って祈ってきました。
彼ったら、いきなり直立不動で軍艦行進曲を歌いだすもんだから、びっくり。
戦争がどうということはないよ。プロテスタントは平和主義者だから。
ただ、ものすごく感動した。
日本にもジョン・フィリップ・スーザに負けない素晴らしいマーチがあるんだってわかったから。
今はないだろうけど、こんな素晴らしい曲を、パチンコ屋でなんか使わせちゃいけない。