販売を行っていると、突然、周囲がにぎわしくなった。

 ラーメン店のイートインの辺り。

 かすかに「食い逃げ」という声が聴こえた。


 中年の男が走ってくる。

 それを見たヲタク副医長はテントから走り出した。

 最近、奇行に走るから、きょうは何をするんだか。

 食い逃げなら警察でしょ。

 彼の分野だよ。

 でも、お客さんの応対に追われて、それどころじゃない。

 ヲタクは信号を渡ったところで、両手を大きく広げた。

 あー、プロレスLOVEってやつだ。

 全日本プロレスの武藤啓司選手。

 ものまねで、神奈月さんが必ずやるやつ。

 で、どうする?。

 男が走ってきたぞ、さあ、どうする。

 あーシャイニング・ウィザード!。

 武藤さんの必殺技!。

 決まったか?。

 どうだ。

 男は立ち上がった。

 いまいち威力がないっ!。

 彼が接客から離れてテントを出た!。

 何があるか!。

 右の人差し指を高く掲げた。

 これはもしや、アレに行こうと言うのか。

 ものすごい勢いで走り出したぞ。

 男を視界にとらえている。

 さあ、出るか。

 彼が吠えた!。

 あー、いったぁー!!!。

 スタン・ハンセン選手の必殺技、ウエスタン・ラリアット。

 男が倒れた!。

 ラリアットって、正確な位置に入るとものすごく効く。

 相手の顎と首を捕えるために、受身を取らせない。

 受身って、頭を前に倒すことで、頭を守って立ちあがることができるけど、彼はまともに首と顎を、腕を直角に曲げることでホールドしているから、相手は受身を取れないまま、地面に叩きつけられる。

 ただ、彼はもう片方の腕をさっと相手の後頭部に入れて守っていたけどね。

 それをしなかったら舗道に頭を叩きつけられて死んでるからね。

 男はそれでも立ち上がった。

 ふらふらしているけど立った。

 そこで、ヲタクと彼は顔を見合わせて頷いた。

 さあ、何があるのか?

 あっ、二人で、販売を終了して、片付けていた調理師専門学校の机にのった。

 ひょっとしたらダブルでくるか。

 さあ、後ろ向きの体勢に入る。

 男がふらふらと歩いてきたぞ。

 いくか、いくか。

 あー、いったぁー!!

 ダブルムーンサルトプレスだーぁ!

 そのまま体固めに入る。

 

 やっと駅前交番の巡査が2人やってきた。

 二人は体固めをといた。

 彼は警察のIDカードを巡査に提示する。

 ヲタクを逮捕協力者として報告した。

 

 でも、すごいよね、警官って。

 IDを提示された瞬間に、彼が特殊捜査二課の警部であると読み取ることができるんだ。

 途端に敬礼をして、言葉遣いがかわった。

 その後、ラーメン店から一人を同行して、食い逃げの犯人は巡査が両側からしっかりと腕を組んで連行した。


 TVの刑事ドラマって、公衆の面前でも平気で手錠をはめるよね。

 ほんとうの警察はよほどのことがないかぎり、たとえば警官を振り切って逃亡する恐れがない限り、公衆の面前では手錠をかけないことになってるんだって。

 特に最近はそれをうるさく言われるって、彼は言ってる。

 捜査会議に出たこともない警部なんだけどね。

 潜入班だから、なるべく警察からは遠ざかっていないと、怪しまれるから。

 まあ、なんとでも言えるけどね。

 

 きょうも、なんとか午後5時までもたせることができました。

 

 やっと終わったね、3日間。


 後は午後7時までに閉会式会場に集まるだけ。

 ちょっと急に気温が下がってきたから、長袖か、半袖のままか微妙だけど、長いんだよね、時間が。

 花火大会があったりして、その後に審査結果の発表になるから。

 花火っていう気温じゃないと思うんですけど・・・・・・。


 わたしは一等賞を取れる自信があるよ昼休み交代で他のテントを回ってみたけど、ありきたりなんだ。

 地場産小麦の麺に地場産醤油(皇室に献上しているすごい醤油なんだけど)で味付けしたしょうゆ味焼きそばとかすでに学校給食として実用化されている米粉のパンだとか。

 ウチとはレベルが違いすぎる。


 きょうは朝一でマツダの営業所長さんが奥さんと二人で買いにきてくれて、話してたんだけど、なんかここだけレベルが違うって。

 他のところはまだ全部観たわけじゃないけど、ありがちなものばかりだ、って。

 ここはコンセプトが明確で、しかもそれに収まっている。

 さすが、設計部を率いていた人だね。

 コンセプトだって。

 で、コンセプトに走りすぎた結果、国会でボコボコにされたのがAZ-1なんだ、って。

 彼は複雑な顔をしていたけどね。

 米でヨーグルトっていうのが、まさしくAZ-1なんだと思う、って。

 うまい。座布団3枚。

 米でヨーグルトを作ろうという発想なんかする人はまず、いない。

 軽自動車でフェラーリを作ろうという人もいない。

 どちらも一見無理なことだから。

 それをやったのが営業所長が設計統括を努めたマツダアオートザムAZ-1。

 そして彼の米粉プレーン・ヨーグルト。

 発想することは誰にでもできる。

 でも、それを実現することはできない。

 彼と営業所長はあえてそれを実現した。

 お互いに似ている部分があることはわかってるんだろうね。

 だから、営業所長は危険なオペを彼に任せた。

 同じ臭いがあったからこそできたんだよ。


 これから全部を一回りして、彼が教えたラーメン店でラーメンを食べて帰宅する、って。

 結果はどうなってもいいから、明日、病院に戻って教えて欲しい、そうだから、どうせなら一等賞を報告しよう。