きょうもまた日曜礼拝。

 驚いたよ。

 アメリカ人で日曜に教会へ通うプロテスタントは、全人口の10%に満たない、と彼が言う。

 牧師さんに訊くと、どうやらそのようだ、との答え。

 アメリカ人ってみんな教会に熱心に通っているのかと思っていた。

 

 たとえばアメリカ映画では、タバコを平気で吸っているし、恋人同士か恋愛関係でもない男女のキスやベッド・シーンが頻繁に出てくる。

 なるほど、教会に通う敬虔なプロテスタントであれば、監督もこんなシーンを撮ることはないだろうし、キャストも拒否するよね。


 毎度のことながらウチの変なおじさんは、家族での昼食を求めてくる。

 紺野看護師も一緒に、と誘う。

 それは当たり前のことだと思うよ。

 でも、彼女はきょうはダメ。

 今夜から深夜勤務だから、礼拝を終わらせたらとにかく寮でひたすら眠らないと。

 翔子だって深夜だから同じ。

 「理想の家族を思い描くのは勝手だけど、こっちは1分でも早く寝たいんだ。他人を自分の理想に巻き込むな、こらっ」

 そう。

 そうだよ、翔子。

 きょうのあんたはエライ。

 表彰状だよ。



 病棟に戻り、スタッフ・ステーションに顔を出すと、アネさん医長は1人で、TVゲームに夢中になっていた。

 「パートナーはどうした?」

 今、病室で着替えてます

 これから洗車するんだとか

 「ほんとに、車を大切にするよな。確かにホワイトは汚れを見せやすいとは言っても、異常だ。志村、わたしのデスクに封筒がある。『まちかどマルシェ』正式名称「まちかど食べまるしぇ」の要綱だ。パティシェ、いや、シェフ、どちらかはわからないけど、渡しておいてくれ」

 はい

 それと、夏休みが「コホート内ケースコントロールスタディー」の期間内にかかるので、ずらしてもらってもいいですか?

 「あー、そうか・・・・・・。悪いな、志村。もうエアクーポンの予約は済んでるんだろう。それにニューヨークは9月がいいと言われるから」

 そうなんですか?

 「うん。ジャズの名曲にある。セプテンバー・イン・ニューヨーク。いや、違うか。あーごめん、忘れてくれ、「オータム・イン・ニューヨーク」だ。それと「エイプリル・イン・パリ」。わたしも若年性アルツが始まったかなー。ところで、彼は食べまるしぇについて何か思いついてみたいか?」

 この街でしか生産されていないお米に目をつけてるような

 でも、米粉にしたパンは、すでに学校給食に出ているから、誰も考えないことで思いつくことはある

 でも、実際に試作で失敗する確率が高いだろう

 それと、この街でしか生産されていないフルーツを探しているみたいです

 「米とフルーツか。わたしには理解ができない。あれだけのグルメだ。秘策があるんだろう。医師としても一発逆転が得意だから」


 一発逆転か。

 確かに、4cm大の腫瘍を原形を留めたまま全摘出して、余命宣告を、元担当医に撤回させるなんて、日本の医学界では前代未聞だ。

 患者さんにとってみれば、命の尽きる日をただ数え、睡眠前には、明日の朝日は見られないかも知れないという、ものずごい恐怖心に襲われて眠る。

 そんな日がある日突然、退院まであと何日かを数えなければいけないようになって、退院したら、まずすべきことは何か?なんてことに頭を悩ませなければならない状態になる。


 赤十字とか医大付属あたりは喉から手を出しているはずだよ。

 給与も倍。3千万くらいは用意してでも、彼を欲しがるだろう。

 実際にヘッドハンティングを受けているのも、わたしは知ってる。

 本人が笑い話にするんだもん。

 でも、この病棟から動く気はまったくない。

 彼にとって、お金は何の価値もない。

 ただ、やりがいと、気の合う仲間たちがいればそれでいい。

 

 ますます、そんな彼という医師を生み出したニューヨークに興味が湧いてきた。

 夏休みをずらしてもらえるのなら、じっくり見せてもらうよ。


 まずは、エアクーポン(航空券)やホテルのキャンセルをしないとね。

 洗車はそのあとで・・・・・・冷えるか。

 

 今夜はわたしを洗車して!

 なんてな。