行ってきました。
旭山動物園横売店。
彼の言う、メガ盛りソフトクリームを食べに。
ずっしりと重たい。
カップコーンの高さよりもクリームのほうが高い。
『STAR TREK』の耳の尖ったヴァルカン星と地球人のハーフな副長で化学主任のミスター・スポックならこう言うだろう。
魅惑的だ。
慣性の法則を無視している。
店員さんは、若い女の子で、片手でレバーを操作しながら、慣れた手つきで巻いていく。
でも、客に渡すまで、片手でクリームを保持している。渡された瞬間、彼が
「両手でしっかりとコーンを持って!」
わたしは慌ててそうした。片手だと自重に負けてクリームの部分を落としてしまいそうだから。
現に、わたしたちの周囲にそんな人はたくさんいた。
きちんと食べている人はすべて両手でコーンを握っている。
ソフトクリーム1つ食べるのに、こんなに緊張するとは思わなかったよ。
あれだけのボリュームで400円は、はっきりと言って安い。
普通の3回巻きで、300円前後するからね。
8回半巻きだもん。
そりゃ重くて当然。
食べている間も常に落ちるような恐怖感に襲われてるから、一気に涼しくなるって。
でも、地元の酪農家直送の100%生乳だから、濃くておいしい。
問題は、食べた後だね。
喉がすぐ乾きそうな感じなんだけど、乾かない。
すっきりとした甘さが口に残っていて、他の飲料なんかで流したくはない、って感じ。
本当に、彼のグルメ情報網って、どこまで張り巡らされているんだか。
ちょっと遅い昼食をどこかで摂らないと、彼は皮膚科の薬が飲めない。
不完全ベーチェットだから、進行を薬で食い止めなければ、失明してしまう。
失明したら、医師という職業は完全に失う。
彼は、市内すべてのラーメン店は完食している。
回らない寿司店も、一流のあらゆる店も完食。
案外、穴はある。
ねえ、わたし、昼食はカツ丼がいいな
不思議とソフトクリームの後はカツ丼が食べたくなるんだよね
「わかった。でもこの辺にはおいしいカツ丼の店はない。市内に戻ってからでいいかな?。いろいろと手を加えたおもしろカツ丼とノーマルなのと、どっちがいい?」
ノーマルがいい
手を加えたっていうのは、ほとんど悪食に近いんでしょ?
そういうのは嫌です
「じゃあ、鶏カツと豚カツでは」
もちろん豚
「OK。なかなかだね。ノーマルな豚カツ丼は、味のごまかしがきかない。じゃあ、あそこへ行こうか」
それから市内まで30分。
一軒の落ち着いた、日本家屋作りの店に着いた。
「お久しぶりです」
彼は暖簾をくぐりながら言った。
「おい、どうした。しばらく顔を見せないから心配してたんだぞ」
カウンターの中から、思いっきり短髪で白髪の職人さんは答えた。
「就職したもので。それが病棟勤務の医師なんで忙しくて」
「忙しくて結構なことじゃないか。いや、医者が忙しいのは困りもんだな」
「おかみさんは?」
奥から声がして、着物姿の美しい女性が現れた。
「とうとう医者になったの。おめでとう」
彼女はお冷を出してくれながら、言った。
「大将、ロースカツ丼2つ」
「はいよ」
息が合ってる。
常連だってことか。
彼のグルメ情報網の穴は何なの?。
スイーツも試したけど、すべての店を覚えてる。
まだ、ジュウジュウいっているカツとご飯が運ばれてきた。
二段重ね方式。カツの重とご飯の重が別。
ここも一流店ってことか。
熱っつ熱のカツだけど、肉厚で肉汁がたっぷり。
それをもうひとつの重のご飯に合わせて食べる。
たれにコクがあるんだけど、溶き卵があいまっているせいであっさりしている。
ひとことで感想は言えるよ。
まいうー
食べ終わった頃におみおつけが出される。
カツの脂を口の中に残さないように、あっさりとしたあさり汁。
ギャグじゃないよ。
今が旬だからあさりなんだ、って彼が言ってる。
おみおつけにまで旬を取り込むほどにこだわってるんだ。
彼を惹きつけそうな店だね。
また、ここにこようね
「カツ丼なら、この街で最高だよ。苦労してやっと見つけたんだ。観光マップに載ってない店。観光協会と関係してる店の多くは味は二の次のぼったくりだからね」
そうなんだよね。
背脂が溶けないで、スープに浮いていて、スープの味は単なる豚骨しょうゆで、
背脂は麺にからんでギトギト麺。店を出たところに自販機があって、口が悪くなってもたれるから、みんなその自販機で飲料を買って飲んでたり。
いつか、絶対に彼のグルメ情報網に穴を見つけてやる。
人間に完璧はない。
病室に戻って、またDVD鑑賞。
きょうは『STAR TREK』。
TVのTOSっていうのか、最初の、カーク船長のTVシリーズはシーズン1だけ観て、NASAのボイジャー探査機が、あり得ない姿で地球をめざしてきて、それを確認、迎撃するためにUSSエンタープライズが出航する映画から、ネクスト・ジェネレーションシリーズのキャラクターの劇場版まで10本は観てたんだけど、カーク船長の生まれたところからUSSエンタープライズ船長になるまでの話を描いた、2009年劇場公開の作品を観た。
彼みたいなトレッキー(STAR TREKおたく)は、新たに劇場で観なくても、小説で全く同じエピソードが語られてるからいいのかもしれないけど、わたしは「STAR WARS」は知ってるけど、「STAR TREK」は全然知らないから、観た。
正直、初めてTV版を観て、ハマった。
「STAR WARS」はスピード感はあるよ。
でも、ドラマが薄いの。
VFXを観せるための映画でしかない。
「STAR TREK」って、ドラマがものすごく重たくのしかかってくる。
TV版1時間を2本も観ると、もう、きょうはいいです、って感じになる。
それとキャラクターの魅力は圧倒的に違うね。
それだけで「STAR WARS」は嫌いになる。
あらゆる国から集められたクルー。それで地球は統一されたとわかる。
はっきりといって、とても楽しい2時間7分でした。
監督やスタッフはできる限りVFXやCGを排除して、昔ながらの特撮で撮ってる。
JJ・エイブラムスという監督はCGやVFXが嫌いなんだって。
どこかにも同じようなヤツがいたな、と思ったら、現在作曲を進めているハリウッド映画で使っている彼のペンネームがMUSICとしてエンドクレジットに出てきた。
エンドクレジットの音楽で、アメリカ公開時に、劇場でスタンディングオベィションが起こった、って2枚組限定USSエンタープライズ型DVDケース付きのDISC2の特典映像で語られている。
なんでかっていえば、TV版のタイトルテーマをフルオーケストラ・アレンジで流した。
オープニングは彼のオリジナルなんだけど、TV版が終わる頃になると自然に彼のオープニングが出てきて、また自然にTV版に戻って、の繰り返し。
彼はオープニングを作曲する時に、TV版と同じ調で、つなげても自然になるように仕掛けてた。
TVのあのテーマがなければ「STAR TREK」じゃない。
彼自体がトレッキーだから、仕事という感覚はないんだ。
おたくがたまたま、念願の作品と関わる機会を持った。
だからおたく目線でしか作曲できない。
それよりも少し前、イギリスで、ダニエル・クレイグが新しいジェイムズ・ボンドに選ばれ、新作で、原作では処女作の『カジノロワイヤル』にMUSICで参加した時にも、彼はOO7のおたくだから、エンドタイトルで、延々と、あの有名なOO7のテーマをノン・アレンジ新録音。しかもギタリストはオリジナルを弾いたヴィク・フィリックを起用して流した。
それを聴いた劇場の客は全員スタンディング・オベイションで、エンド・タイトルが終わるまで拍手が鳴り止まなかった。
次の『慰めの報酬』では、彼は起用されなかった。
劇場は不入りで、製作会社も大赤字を抱え、次回作も撮影は中止された。
彼は言う。
「もう新しいボンド映画は製作されないだろう。ぼくも2本(1本はID4のデイビッド・アーノルドとの共同で『ワールド・イズ・ノット・イナフ』。OO7のテーマを思い切ったヒップホップにアレンジして、ファンの不評を買った)に関われただけで満足だよ」
彼ってそうなんだよね。
仕事っていうより、自分が楽しみたい、こんな音楽がついていたら、客として観たときに楽しめるだろうな、ってことで、興味が湧けば夢中になるし、気がのらなければ『コクリコ坂から』みたいなことを平気でやる。
そんな姿勢を見てると、彼がどうしてグルメなのかもわかるよ。
どちらかの延長線上にどちらかがある。
でも、わたしはあくまでも、彼のグルメの網の穴を探すよ。
穴は絶対にある。
完璧な人間は存在しないんだから。