(注:講演の詳細な評価ではなく,あくまで感想です)

今週末,取得していなかった緩和ケア医認定のための講習会に出てきた.2日目であるが佐伯俊成氏(広島大学病院准教授)の「悪い知らせをどう伝えるか」という講義および演習が行われたが,内容・プレゼンテーション方法を含めて非常に感心しない講義だった.具体的な問題点についてはあとでまとめようと思う.

勘違いしないで欲しいのは,我々専門職が講習会に参加することの意義は足りないことを補うことであって,足りないことをあげつらわれることや講師がいかに優秀かとか講師の同業者が講師と比べていかにダメかということを知ることではない.同業者をいくら非難しても,講師の信頼度はなにも上がらない.

私は常々感じていることだが,「導師(グル)の罠」とでも呼べるようなものが専門職ギルドにはある.そこには根拠のない強弁,同業者を排他することによる孤立的優越主義,立場が弱いものに対する強烈な否定を根拠とするグルへの崇拝という循環がある.ちなみにこのグルの罠というのは私だけが言っていることである.

公衆の面前で同業者を非難したり,自分が正しいことを強調することは構わないが,ならば少なくとも自分が正しいという根拠(理想的にはデータ,研究が難しい対照であれば複数の権威の意見)は示して欲しい.「そうじゃないんです!!」「そんなことではあなた,医療者失格です!!!」という命題を立てることは構わないが,その真偽は講師一人が決めることではない.

プロはどんな権威の見解であれ,一人だけが言っていること,一人だけが経験していることで自分の実践を左右させてはならないと思う.今日の講義では佐伯氏の言っていることがどこまで業界の標準で,どこからが自分の意見なのか全く表明されていないし,正しさを検証する手段も示されていない.

あまつさえ分子標的薬の否定やNEJMの前立腺がんスタディを引き合いに出してドヤ顔で手術を否定する可能性まで言及するあたりは,もはやプロとしての規範を逸脱している.その割に,これは個人的見解であるという留保が一切ない.これでは佐伯氏は自分の意見が全て演繹的に正しいと思っていると解釈せざるを得ない.

私は基本的にどんな講演でも良い所がひとつぐらいあるはずと聴くようにしているが,こんなにも無駄で不快な講義はなかなか経験しない.今回収穫があるとすれば,厚労省の認定証がもらえることと,もう二度と佐伯俊成氏の講演を聞かずに済むということだ.

最後に「先生はグルなのか,それともサイエンティストなのか」と本当に問いただしたかったのだが,残念ながら質問の時間が与えられなかった.

あんなに同業者を馬鹿にするのだから,名指しで批判させてもらいます.