癌に対してAとBという治療を比較して生存率に差が出ることがある.また完全な新規治療法の場合は,治療しない場合と比較して生存率に差が出ることがある.初発癌を治療をするかしないかという前向き臨床試験は,この間前立腺がんの手術についてNEJMで出ていた.ニュースになったので知っている人も多いはず.

それはさておき.

場合分けの合成が全体を完全に推測するという仮定は危険だ.しかし(無治療との比較も含めて)生存率に差が出る治療法があるという「複数の統計的事実」に対し,あらゆる癌を全く治療しない場合に全体の生存率が向上すると考えるのはかなり倒錯した思考が必要になる

癌に対する治療の目的は生存率の向上だけではない.局所進行癌を放置すると,喀血・吐血・窒息・腸管穿孔など人権もクソもない悲惨な状況に陥ることになる.癌の治療には手術も含めそういった悲惨な状況を「とりあえず回避する」という大きな目的がある.

すべての人はいかなる理由であれいつか死にます.その前提に立てばすべての治療は「緩和的」であり,特に時間的余裕がある癌の治療についてはどのような手段を用いて症状を緩和していくかという考えが,「治療」の主眼になっているということを理解すると,医療に対する親和性が高くなってくる.