初期研修医の「研修」とは主に手技的なところへ集中することが多い.末梢・中心静脈のライン確保や気管内挿管・傷の縫合などはメジャーな到達目標になるだろう.有名研修病院になると,これよりも院内カンファレンスを無事にこなすことということにより大きな重みが加わることもある.

時間は限られているのでどちらを優先するかはその病院の状況やリソースによってくる.どちらも重要だ.ただどちらかを目的に初期研修病院を選ぶことが多いため,手技的なものを求めていった研修医は,手技を極めると安心し,スマートなプレゼンテーションを到達目標に研修先を選んだ研修医は,綺麗なPPTファイルを作成して安心してしまう.已むを得ないところはあるが...

臨床経験をつんでくるとある程度わかってくるが,臨床上一番困難なのは実は決断(Decision make)である.もちろん決断とは医療にかかわらず,社会で飯を食っていく上では常に一番困難なことである.なぜ困難かどいうと,決断には「情報・論理・勘」の3つが揃わなくてはならないからだ.

情報と論理だけで決断ができると思っている研修医も多いが,じつはそんなことはない.情報とは例えば患者の検査データや病歴,あるいはあるトライアルでこういった治療成績だったということである.論理とは様々な情報から,一つの整理されたストーリーを創り上げる能力のことだ.この患者はこういう状態で,この診断だから,この治療を選択すると,このような予後が期待できる.というのがストーリーである.

しかし実際にその人がどうなるかどうかはやってみないとわからない.95%の確率でうまくいくという治療は,すなわち5%の確率で上手くいかないということだ.実をいうと95%の確率でうまくいくようなファーストクラスの治療法はほとんどない.せいぜい6分4分,あるいは統計データすら無いようなことがたくさんある.ここを補ってくるのが「勘」だ.

「勘」はとても大事だ.これをおろそかにするとたいてい痛い目にあう.勘を鍛えるにはなんといっても経験年数を重ねることだ.いろいろな疾患に異なる立場から当たるのがよい.

異なる立場とは初期研修医にとってはどういうことかというと,できる上司についてもできない上司についても,ということである.あるいは有名病院であっても無名病院であってもということである.だれでもできる上司や有名病院で働きたいが,それだけでは勘が磨かれない.なぜなら上級医の上級医たる所以はまさにその「勘」がどのていど磨かれているかにかかっているからだ.これに頼り切っている自分を自覚し,そこを抜け出す覚悟ができるかどうかが,次のステップへの重要な「決断」となる.