4月30日,仙台市が運営する夜間急患センターで診療しました.いつにもまして軽傷外傷患者が多かったがのですが,その中に被災地でのボランティア活動中に受傷した例が多数ありました.慣れない作業ということもあり,これからも不意の怪我は多いと予想されます.受診時に誤った応急処置を施してくる方も見受けられたため,軽傷外傷(切り傷,刺し傷,擦過傷など)の簡単な対応についてまとめてみました.

■適切な装備をする.
 瓦礫撤去作業は過酷で,危険度の高い仕事です.足場もわるく,転倒しやすい状況です.先の尖った建材やガラス片など危険物も散乱しています.怪我を未然に防ぐためには適切な装備が必要です.日常的な傾向として,外傷の8割は顔・頭部・手に集中しますが,被災地での活動にはこれに足の外傷が加わります.底や足首の保護が十分でない靴のせいで受傷してしまうこともあります.厚底で足首まで保護できる登山靴のような靴が望ましいと思います.また手袋は必須ですが,いわゆる白い軍手は容易にほころんでしまうため,過酷な作業には不十分です.ぜひ丈夫な建設作業用手袋を装着してください.装備だけでなく,コンディショニングも大切です.単調な作業を延々と続けると,それだけ集中力が途切れたり,脱水になったりして怪我をしやすくなります.マメに休憩をとることはもちろん,交代で作業できるようにグループをマネージメントする必要があります.

■受傷したら患部を真水でよく洗う.
 傷の大きさや受傷機転に関わらず,怪我をしたらまず患部を真水(できれば流水)でよく洗ってください.患部を強くこすったり,勢いの強い流水で洗う必要はありません.傷の表面についたゴミや出血の際の凝血が適度に洗い流されれば十分です.患部だけでなく周囲の汚れもよく落としてください.また比較的大きな破片が創部に残っていたら,注意深く取り除いてもらって構いません.細かいガラス片などは無理にとらないでください.洗う水は水道水で構いません.濁っていなければ井戸水でも構いません.ただし海水やアルコール飲料は使用しないでください.傷の消毒は必要ありません.汚れが落ちれば十分です.この段階であまりにも汚染・異物混入の程度がひどい傷,また出血の多い傷については次の段階を飛ばしてタオルなどでかるく患部を覆い,医療機関を受診してください.

■患部のみを「軽く」圧迫して止血する.
 2cm程度までの切り傷・刺し傷であれば,ゴム手袋などをした指で傷を塞ぎ軽く圧迫して止血してください.また2cm以上の大きな傷,創面が広い擦過傷,挫滅創などについてはきれいなハンカチ・布などで覆い,手で軽く圧迫してください.もし使用していないオムツ・生理用品などがあれば,吸水面を創部に当てて軽く圧迫すると非常に効果的です.圧迫止血の際は,あまり強く抑えないことが大事です.ある程度患部に血流がないと,血小板や凝固因子など生体の止血機能が働きません.創部から血が流出してこない程度の圧迫で十分です.同じ理由で,包帯もあまり強く巻かないでください.血が滲みてきても已むを得ないくらいに考えてください.また患部より中枢側(例えば指であれば指の付け根,手であれば手首など)を強く縛って来られる人がいますが,どのような傷であってもこれは決してやってはいけません.体表から縛ると静脈の血流が鬱帯し,かえって出血を助長します.また患部以外の血流も悪くなり,虚血傷害が出てくる可能性があります.神経を圧迫して,神経障害が出る可能性があります.止血は患部を圧迫が原則です.

■受診は遠慮無く.
 圧迫止血は5分以上,できれば10分連続してやってください.途中で圧迫を解除してしまったら,またはじめから5分以上数えてください.圧迫をして止血すると,速やかに血小板が凝集して出血点を塞ぎ,凝固因子が固まって止血栓が完成します.そのため途中で圧迫を解除するとこの過程をまたはじめからやり直す必要があるからです.傷の大きさ・性状に関わらず,出血が止まらない場合は「迷わず,速やかに」医療機関を受診してください.また瓦礫撤去の際に受傷したものは,以下の理由により受診された方が良い場合があります.遠慮無く受診してください.

・ガラスの破片など,細かい異物が創内に残ってしまうことがあります.
・釘などをさしてしまった場合,表面は小さくとも傷が深くなりがちです.深い傷は洗浄が十分に行われないと,容易に膿瘍(うみ)を形成します.
・汚れた物で負った傷は,破傷風菌感染のリスクがあります.

 目の外傷は,全例眼科医の受診を勧めます.

■(補足)破傷風について.
 報道のとおり,被災地での破傷風感染症の報告が増えています.宮城県では,年間3~4例の報告が通常ですが,震災後の3週間ですでに5件の報告があります.破傷風は破傷風菌が産生する神経毒素により強直性痙攣(手足を突っ張るような痙攣)を起こす病気で,全身性痙攣を起こす場合は20~50%が死に至ると言われています.破傷風菌はあまねく土壌に広く分布しており,芽胞の形で存在します.この芽胞が傷口から侵入し,感染が成立します.破傷風に関する詳しい情報は感染症情報センター(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_15/k02_15.html)を参照してください.日本では生後3ヶ月から1年の間に三種混合ワクチンの形で免疫されていますが,成人するころには免疫もなくなってきています.そして多くの人はワクチンの追加接種をしていません.ですので瓦礫など,「汚い」現場での外傷には破傷風のリスクがあると考えられます.破傷風になりやすい創として一般的に言われているものは,

・受傷後6時間以上たった傷
・挫滅創(組織がめちゃくちゃになった傷)
・深さ1cm以上
・鈍的外傷(刃物以外の傷)
・土,糞便などの汚染あり

 といったものです(Tetanus prone woundsと言われています,メルボルン小児病院のガイドライン http://www.rch.org.au/clinicalguide/cpg.cfm?doc_id=5221).瓦礫撤去における外傷はこの種の傷に当てはまることが多く,ワクチン接種が推奨される場合があります.自分のワクチン接種歴を確かめ,よくわからなければ受診することをおすすめします.

 最後になりますが,被災地の一人の医師として,各地からのご協力に大変感謝しております.今後とも被災地へ入られる方が安心して活動できるよう,バックアップしてまいります.