水曜日に移植手術がおわったと思いきや,金曜日の昨日,病棟の送別会最中に移植ネットワーク担当の先生の携帯がなりひびいて場が静まりかえった.つづけて脳死患者が出たようである.場所は東京.にわかにあわただしくなりコーディネータがレシピアント候補者と連絡を取り始める.全ての血液型で優先度の高い患者を抱えている当科では,ドナー情報→即移植といった感じであるが,いろいろな事情があって結局肺は岡山へいった.というわけで私も無事当直先にいる(これを無事と言うのか?).

最近はほとんど広報活動をやっていないが,実際の所,臓器提供意思表示カードを持っている人は多い.もちろん「提供しない」という欄にチェックをつけて持っている人もいる.この「提供しない」という欄があることは意外と知られていない.あくまで意思表示のカードなのです.



ちょうど一週間前は東京ディズニーランドの隣で外科専門医試験を受けていたとおもったら,2日後に札幌,そして来週は沖縄.ずいぶん騒がしい.意外と東京は久しぶりであったと思う.試験が終わってから新幹線まで3時間くらいあったので東京駅でブラブラしようかと思ったが,もちろんのこと特にやることもない.そういえばと思い立って数年ぶりに八重洲ブックセンターへ行く.東京の本屋のなにがいいって,それは理系関係の趣味本が多いことである.さらにいうと物理関係の本である.

ぱっと見に行ってこのブログからもリンクが張ってある大ヒット物理サイト「EMANの物理学 」が書いた「趣味で相対論」があった.もちろん仙台でも手に入るものだろうが,やはり買ってしまう.


趣味で相対論
趣味で相対論

また微妙に手に入りにくい小泉純一郎の「音楽遍歴」を手に入れた.

音楽遍歴 (日経プレミアシリーズ 1) (日経プレミアシリーズ (001))
音楽遍歴 (日経プレミアシリーズ 1) (日経プレミアシリーズ (001))

この小泉の著作はかなり面白い.これはむしろ一般クラシック愛好家の最大公約数に近く,むしろプロ演奏家必読の書と言えよう.同じ話題が何箇所か出てきたり,完全な話し言葉であったり,書いたというよりは話を写したということだろうが,筋が通っていてすがすがしい.

いまとなっては諸悪の根源としてボロクソに言われている小泉元総理だが,つい数年前,我々は彼の熱狂的支持者であったことを忘れてはならない.ものすごく高い内閣支持率で彼を支え続け,はては衆院で3分の2以上の議席を与えた.これは我々の業である.

この本を読んでも,小泉の天才的な言葉遣いがかいま見える.言語明瞭意味不明は竹下登の専売特許であるが,小泉の場合は言語軽薄意味深長.彼自身が意図的に言っているのか,なにも考えていないのか,何も考えていない風を装っているのか,何も考えていない風を装っていると思わせようとしているのか,さまざまに深読みしたくなる明瞭な言葉たちがある.

手元にないのでかんべえ さんのところから孫引き

「要は自分に合うか、合わないかなんだ。感じるか、感じないか」

「私は音楽を聴くのが好きなのであって、芸術家と格別お付き合いしようとは思わない。芸術家だって政治家との付き合いなんて本当は迷惑なはずだ」

「オーケストラの指揮者を政治の世界の首相に喩えることがあるが、それはまったく別だと思う。政界は野党も居るし、首相に反対するひとはたくさんいる」

「クラシックの演奏会に行くと、よく最後にアンコールがあるけれど、これは興ざめだ。せっかくいい感じで終わったのに、また同じことをやるのかと思う」

30分くらいで読み終わる本である.いちばん興味深かったのは,日韓ワールドカップの決勝に誘ったお礼にドイツのシュレーダー首相からあのバイロイト音楽祭に招待されるくだり.ワーグナーについてはヒトラー・ナチスに関する話題もあって,現役政治家としてはすれすれの話題であるのだが,その危うさを感じさせない.

だいたいこういった経済的な癒着でない首脳同士のダイレクトな関係を築けた日本人政治家は今のところ小泉だけだ.日本の方はこの辺のことに無頓着であるが,基本的に法律のない国際関係においては首脳同士のダイレクトな人間関係のみがものを言う.(まあ無法地帯のビジネス社会もそんなもんでしょう)



で,八重洲のサウスタワーというところにある「パテ屋 」というワインバーで昼間からグラス片手に小泉著作を一気に読み終える.すげーうまいパテだった.本店は麻布十番なんだね.