仙台駅の地下に最近できた輸入食材店がある.いわゆるデリカである.デリカといえばもちろん「明治屋」であるわけだが,このお店「KALDI coffee farm」は品揃えがマニアックというか,たとえて言うならば「ソニープラザ」とか「village vanguard」のような趣で,ちょっとおもしろい.向かいには仙台老舗の果物屋である「イタガキ」が八百屋を営業しており,こちらもかなりいける.というわけで,駅にはなかなか行く機械がなかったのであるが,これだけを目的に仙台駅へ出没機会が増えた.

いちおうコーヒーが専門らしいのだが,目立つのはスパイスとワインだ.ワインもボルドー・ブルゴーニュやトスカーナ・ピエモンテなどはほとんど扱っていない.泡と言えばどうしてもモエ・エ・シャンドンを扱ってしまうのは仕方ないが,それでもプロセッコやカヴァ,クレマン・ド・ロワールなど,やや日本での知名度が低く,しかし十分注目に値する銘柄をそろえている.特に私は,世界で最上のスパークリングワイン用ブドウ品種はプロセッコだと半ば本気で思っているため,通販でしか手に入らない銘柄が置いてあるのは貴重である.

そこで今回入荷していたのが,カオールcahorsである.

カオールはいわゆるアペラシオン(法律で決められたワイン産地および製法名)であり,ボルドーの真東に位置する.はじめこのワインを知ったのは一年前,「Red Hot」という仙台屈指のフランス家庭料理&スープカレー屋でグラスワインとしておいていたからである.マスターに勧められて頂いたのであるが,これが濃厚きわまりなく,カレースパイスやニンニクにも負けないソリッドな香りと風味を持っていたのである.品種はマルベックであり,これが70%以上ブレンドされることが義務付けられている.

マルベックはおそらく南の方が得意であり,イタリアではマルベック100%のワインがどの飲み屋にも置いてあった.これまたスパイシーなチケットにもベストマッチなのである.マルベックのワインは味だけでなく見た目もかなり凝縮感があり,黒ワインと言われているらしい.件のマスターに聞いたところ,我々が開けたのが最後でしばらく入荷がないとのことであった.当時は知る人ぞ知る(というほどでもないが)人気物件だったらしく,東京都内ではほとんど手に入らないとのことであった.実は数ヶ月後に,まったく違う居酒屋のメニューでカオールを見つけたのだが「売り切れ,入荷未定」であった.というわけで幻になっていたのである.

で,その「幻のワイン」がいきなり目の前にあり,なんの迷いもなく購入に踏み切った.3000円を切る程度であるが高いワインである.それでもそれだけの価値はあるように思う.今回手に入れたのはclos de gamotという生産者の2002年ものであり,楽しみである.しかしこんな暑い時期に飲むようなものでないことも確かなので,やっぱり冬の鍋の季節まで待つべきか,とりあえず寝かせてある.