対オランダ戦の鮮やかな完勝を見て,ひょっとしたらロシアはスペインも食うのではないかと思ったが,結果は見ての通りである.それにしても今回のユーロで,ヒディング監督は戦術家としてだけでなくトレーナーとしても一流の評価を得ることになるだろう.2年前の惨めなロシア代表は完全に生まれ変わった.もちろんヒディングはファイター型の監督監督であるから,戦士的要素の強い選手がより際だつ傾向はある.しかし今回見せたロシアのプレーは,まるでヨハン・クライフが目指したようなフットボールであった.

それは美しく強烈な印象を残すものであるが,あっけなく敗れ去ることもしばしばである.

対するスペイン,そしてポルトガルというイベリア半島は,常に切ないサッカーをすることで定評がある.人口もそれほど多くない,経済的にも消して恵まれているというわけではないが,なぜかこの半島の人々は昔から美しいフットボールを愛していた.そしてその美しいフットボールは,常に儚さと同居していたのである.ポルトガルもスペインも,常にワールドカップ優勝候補に上げられながら,クオーターファイナルあたりで結構あっさりと負けていたのである.

今回のスペインは違うようだ.

彼らは明らかに自分たちのフットボールの弱点を知っていたし,ロシアがやってくるであろう「トータルフットボール」を完全に消す方向で試合を進めた.それは自らを呪縛するもでもあるが,彼らは本当に勝ちたいのだろう.万年優勝候補といわれる時代を終わらせたいのだ.

逆にドイツはどうだろう.どんなにダサいフットボールをしようとも相変わらず決勝に残ってしまう国.ドイツ国民以外,世界中がその優勝を望んでいない国.それがドイツである.これも仕方のないことである.今大会,彼らは珍しく中盤を厚くするサッカーをしているが,やはり決勝になったらあっさりともとのフットボールに戻るであろう.

そのとき,闘牛士はいかに戦うのか.すべてをかなぐり捨ててガチンコのカウンターサッカーをするか,それともいままで押さえ込んできた,縦横無尽たるパスサッカーを爆発させるのか.本当に分からない.しかし,永遠に続くかと思われるイベリア半島の儚いパス回しを夢見る.