レコード芸術誌でちょっとまえにDVDの特集をやっていて,そのなかにドキュメンタリーのコーナーがあった.そこで紹介されていたのがこのDVD5枚セットである.

ニホンモニター・ドリームライフ
レナード・バーンスタイン/答えのない質問
こういうものがあるとはしらなかった.系統的な西洋音楽の教育を受けていないものにとっては(場合によってはそのような人にとっても)きわめて刺激的な内容である.基本的にはチョムスキーの生成文法による言語学的な解析を音楽の解析に当てはめるというものだ.やや無理な推論があるにせよ,散文的な構造からどのように詩的構造が発展してくるかを新しい方法で示そうという意欲が全面に押し出されている.

講師自ら「単純な応用はできないが,,」と何度も断っているように,非常に熟考を重ねた講義だと思われる.講義のうちかなりの部分がその生成文法の方法論を紹介することに費やされている.人間はどのような表層的言語環境に生まれるかわからないにもかかわらず,生まれてから非常に短期間に言語を習得することが出来る.たとえ日本人のDNAを持っていたとしても,スワヒリ語の環境に生まれれば程なくスワヒリ語をしゃべることができる.そのかわり日本語は新たに学ばなければしゃべることが出来ない.

生成文法とはこのように人間が生来もっていると思われる言語習得能力に焦点を当て,人類が普遍的にもっている文法を推定し,そこから派生する諸言語を分析しようとする手法と思われる.

音楽からしてみると,たとえば長三和音を「美しく感じる感性」は人類共通と思われる.スケールや和声など音列とその組み合わせの美には数論的な背景があり,そのことを最初に追求したと思われるのはピタゴラスとその学派である.数論・幾何学・音階・和声の美しさについては,どのような文化圏にあろうと(教育が必要かもしれないが)人類は等しく「好ましさ」を感じることが出来る.

音楽についても美しさを感じる前提として人類共通の文法があるのだろう,バーンスタインの発想はそこから始まっている.



英語字幕付きだが,バーンスタインの発音はとてもクリアで,リスニングの勉強にも鳴ります.2万円はぜんぜん高くありません.