3.9 朝日新聞の記事からです。
"さまよう「新しい資本主義」
見えぬ全体像 ■政治決断先送り
岸田文雄首相の看板政策「新しい資本主義」を検討する会議が8日、3か月ぶりに開かれた。成長戦略の柱に据える「科学技術」をテーマにAI(人口知能)や量子技術などに重点投資する方針を確認したが、新味に乏しく、全体像はいまだみえない。
(中略)
「新しい資本主義実現会議」は昨年10月に発足したが、これまでに開かれたのは今回を含めて4回と、ペースは上がらない。取り上げられたテーマは、基本的な考え方の整理と今年度補正予算に向けた提言、賃上げだった。そもそも新自由主義からの脱却を掲げ、中間層の所得向上をめざすと宣言した「ビジョン」づくりは漂流しかかっている。昨秋の自民党総裁選で公約した看板が先行し、「ビジョン」が後まわしになったことが主な原因だ。
(中略)
肝心の「ビジョン」が具体像に結ばないことで、「新しい資本主義」をめぐる国会論戦も低調だ。首相は「成長と分配の好循環」という基本的な答弁を繰り返すばかりで、活発なやりとりには発展しない。"
(後略)
なぜ肝心の「ビジョン」が見えてこないのでしょうか。私からすると、日本の経済状況を見誤っているからだとしか思えません。
3月18日の日経新聞、『成長なき預貯金滞留 家計金融資産、初の2000兆円台』という記事の中で次のような記載がみられます。
"経済協力開発機構(OECD)によると、過去30年間で米国の名目平均年収は2.6倍、ドイツやフランスも2倍程度に増えたが日本はわずか4%程度の上昇にとどまる。"
ちなみにこの記事の冒頭は以下の通りです。
"家計の金融資産が初めて2000兆円の大台を突破し、過去最高を更新した。円安・株高で投資信託などの保有額が膨らんだ半面、新型コロナウイルス禍で個人消費の回復は鈍く、現預金は過去30年で2倍に増えた。同期間の賃金が横ばいで推移し、若年層を中心に社会保障などの将来不安が根強いことが個人マネーを預貯金に眠らせる。滞留する個人マネーは、成長なき日本経済の実情を映し出す。"
日本にも富裕層はいて格差は存在するでしょう。
しかしながら、世界と見比べてみても、先進国における日本の経済の低成長は顕著です。
「成長と分配の好循環」をうたいながら、成長がなければ、「分配による悪循環」しかありません。
アメリカで富裕層というと、億単位の資産をもつ層がターゲットとなるのですが、日本の場合、年収1000万円以上の高所得者も「富裕層」に含まれてしまいます。
日本の場合、超過累進課税が採用されていて、所得が高まれば高まるほど税負担が増えます。
各種の補助金もなく、課税だけ増えていく現状は『中間層の消失』につながるばかりです。
今日本に必要なのは、分配よりもまず『成長』です。政府は何年にもわたって成長をもたらしていないのを反省することなく、分配に頼って日本経済をますますマイナスの方向へ追いやっているとしか思えません。
3.27の読売新聞にこんな記事が掲載されています。
"日本の格差「深刻」88%
本社世論調査「今後拡大する」5割
読売新聞社は格差に関する全国世論調査(郵送方式)を実施し、日本の経済格差について、全体として「深刻だ」と答えた人は、「ある程度」を含めて88%に上った。「深刻ではない」は11%だった。
具体的な格差7項目について、それぞれ今の日本で深刻だと思うかを聞くと、「深刻だ」との割合が最も多かったのは「職業や職種による格差」と「正規雇用と非正規雇用の格差」の各84%だった。岸田首相は「新しい資本主義」を掲げ、これまで市場に依存し過ぎたことで格差や貧困が拡大したと繰り返してきた。調査からも、格差への問題意識が広く共有されていることが明らかになった。
自分自身が不満を感じたことがある格差(複数回答)としては、「正規雇用と非正規雇用の格差」の47%が最も多く、「職業や職種による格差」42%、「都市と地方の格差」33%などが続いた。格差縮小のため、政府が優先的に取り組むべき対策(三つまで)は、「賃金の底上げを促す」51%、「大企業や富裕層への課税強化の見直し」50%、「教育の無償化」45%などの順で多かった。
日本の経済格差が今後どうなると思うかを聞くと、「拡大する」が50%で、半数が悲観的だった。「変わらない」は42%で、「縮小する」は7%にとどまった。
調査は1月25日~2月28日、全国の有権者3000人を対象に行い、2184人が回答した(回答率73%)"
なんでしょう。この記事。
これはただの世論調査です。格差があると思う。格差は深刻だと思う。
ただの国民の感想でしかありません。実際に格差はどれくらいあって、『市場に依存し過ぎた結果』がどの程度の格差や貧困の拡大をもたらしたのかというデータは皆無です。
市場に依存し過ぎた結果、日本は世界的に見ても高度な経済成長を経験し、一部の人間のみが恩恵を受け、その他大勢が恩恵を受けていないというのであれば、岸田首相の理屈は間違っていません。
しかしながら、事実はこの30年間、日本はろくな成長をとげられなかったのです。
『市場に依存しすぎたのか』どうかはよくわかりませんが、『政府が存在していたにも関わらず』、世界的にみてもロクな成長を遂げてこれなかったわけです。
そんな中、次のような記事を見つけました。
3.23 日経新聞の記事からです。
" 国の政策、3割成果測れず
検証を軽視 事業終了時の目標なし
政策効果を検証できない国の事業が乱立している。毎年度の収支や進捗を記す「行政事業レビューシート」を日本経済新聞が点検したところ、終了年度の成果目標を示していない事業が3割強に達した。予算の適正さと費用対効果を判断する基準がなければ財政規律は緩む。各府省が予算獲得に満足し、検証を軽んじる姿勢が浮かんできた。"
(後略)
いかがでしょうか。
つまり
『市場に依存し過ぎたことで格差や貧困が拡大した』
というよりは
『ビジョンも基準も目標も持たない政府に政治を委ねたことで、日本経済は停滞し貧困が拡大した』
という側面が強いのではないでしょうか。
そうであれば
「成長と分配の好循環」
において分配ばかりに主眼を置くよりも、
まずは『高成長を目指し、成長にともない賃金の底上げを行い、国民全体の経済水準を高めた上で、富裕層との格差軽減を図る』ことが何より大切だと考えます。
岸田政権のかかげる政策を続けていれば、
『超富裕層は痛むことなく、中間層は消失し、そこそこの高所得者はその恩恵を受けることなく老後を迎える。資産や貯蓄をもたない人間は老後に不安を抱え、次第に国民の多くが貧困に向かうことになる。中途半端に働くよりも、労働時間も所得も抑える方がコスパが高いと考える人たちが増え、働くモチベーションを失い、まるでかつての〇〇主義国家のように国家の衰退を迎える』
としか思えません。