経営者になるためのノート 柳井 正著 | 進化するブログ『思索の蒼穹』

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医学、子育て、教育、教養、経営、経済等、様々な分野を節操なくつまみぐいしながら、皆さんと共有できれば幸いです。

ユニクロ創業者、柳井 正氏による経営者むけの本です。

ただし、本の帯には「新しい世界に一歩踏み出す学生・進入社員の皆さん、初めてリーダー・マネージャーになる人、さらに上を目指して学び続けているすべての人にこのノートを贈ります」とのメッセージが載せられています。
もともとは柳井氏が経営するファーストリテイリングの経営幹部のために書かれた門外不出の秘伝の書だったようです。
 
170ページ程度で薄く、1200円というお手軽価格ですが、内容はぎっしり詰まり切っています。
柳井氏は読書もかなりされているようで、数々の経営者向けの本のエッセンスを1冊に凝縮したような本です。
 

経営をする上でのエッセンスが次々に述べられます。そして思うのは、これらのエッセンスは経営という点だけでなく、教育や生きていく上での生活態度にも応用できます

 

未来の予測が困難で、激変する市場に対応して生き残っていくために必要なものは、まさしく今後の日本を生き抜く子供達に求められるものと一致すると考えます。

 

ディズニーのアイデアとも一致し、柳井氏もその影響を受けているのが紙面でもみてとれますが、経営をしていく上で成果をあげるために最も大切なことは、社会における自分たちの存在意義、つまり使命を考えることとしています。

 

会社の使命と成果が結びついていることこそが経営の原則とされています。この原則に従っていれば、会社のために全力でうちこむことで、会社も大きくなり、社会にも貢献できます。金儲けが目的となってしまうと、会社が大きくなるにつれて敵が増えるばかりですが、使命をかかげることで、会社の成長と社会貢献がリンクするようになるのです。

 

柳井氏によると経営は「実行」であり経営者には四つの力が必要とされるといいます。その四つとは

「変革する力」

「儲ける力」

「チームを作る力」

「理想を追求する力」 です。

 

我々は常識にとらわれやすいものです。うまくいっている時は特に、現状に甘んじてそれ以上の努力を怠りやすくなります。常識は会社の進化を妨げるため、柳井氏は非常識と思えるほどの目標を掲げ、既存の延長線の発想ではできないことに自らを追い込む必要があると説きます。

 

その背景にあるのは経営者は「危機感」にもとづいて経営をやるべきであって、「不安」にもとづいて経営をやってはいけないという理念です。

 
市場は絶えず変化をするもので、その正確な予測は困難です。今はよくても、努力を怠り現状にあぐらをかいていては、時代の流れについていけず、次第に会社はすたれていきます。現状維持のつもりでは会社を生き残らせることは困難であり、常に努力を続け、市場を自ら開拓していく、顧客の満足を積極的に満たしていくという態度が必要です。
 

 現状で満足していれば生き残れないという危機感が変革する力を生み出すのです。

柳井氏はいいます。「いつも断崖の上を歩いている、ちょっとでも油断があったら、真っ逆さまに落ちてしまうという危機感を持ってのぞむのが「正常な経営」」だと。

 
柳井氏はスピードの重要性についても述べられています。「即断即決実行。これをやっていかないと、変化に飲み込まれておしまいの会社になってしまう。」

 

「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」

 問題解決に対するスピード実行力がないと、一人のお客様を失っている陰で、何十、何百、何千というお客様を失っているのです。逆に問題解決により、今まで以上に企業として成長できる可能性もあります。よくいわれる「ピンチの時こそチャンスの時」です。

 

社会に通用し続けるためには、自分を成長させ続けなくてはならず、そのためには学び続ける向上心も大切です。

 

ではなぜ、非常識と思えるほどの目標が必要となるのでしょうか?顧客の要望基準は非常に高いため、世界のあらゆる人に通用する、普遍的な高い基準を目指してやっていなかい限り、経営者としては成功できないというのです。

 
今でこそ世界にはばたくユニクロですが、その出発は地方の一小売店にすぎなかったのです。柳井氏の「GAPを超える」という目標は当時は聞く人にとって笑い話ととられても不思議はなかったようです。それが今日の成功につながった一因には非常識と思えるほどの高い目標を達成しようという不断の努力があったのでしょう。
 
高い目標はたてるばかりで、どうせかないっこないと考えるのではなく、なんとかその目標を達成できないかと試行錯誤することが大切となります。絵にかいた餅ではなく、失敗してもいいので改良をかさね、なんとか達成させる態度が重要なのです。

 

経営者にはマネージメント能力も要求されます。

現場の仕事は、放っておくと昨日と同じことを今日もやるようになってくる。関心をもたなくなると、毎日が同じことの繰り返し。一つ一つの仕事が単なる作業となる。」そうなると顧客の顔が見えず、顧客のニーズに応えようという気持ちが消失してしまいます。自分自身だけでなく、周囲の意識も自分と一致させる必要があります。

 
「仕事の成果=能力×モチベーション」

信頼して、仕事をまかせる・権限を持たせることで、各個人はモチベーションとともにその仕事に対する責任感をもつようになります。この責任感・モチベーションによりその企業における経営者とスタッフの理念・信念が一致していくのです。

 

スタッフに関しては、常に視野を広げ、可能性を広げてあげるよう見届ける必要があります。

 

 優れたリーダーに求められる資質についても記載されています。

 「厳しく要求して本当にやってもらおうと思ったら、部下に「君だったらできる」というようなことを言ってあげることが必要。

 要求して、やらせる以上は最終的な責任は上司が全部取るということを覚悟しておくということ。部下が一番嫌いな上司というのは、言うことだけ言って、最終的に責任を取らなくて、責任は全部部下に押し付けるというような上司」なのです。

 「責任は全部上司にある。うまくいった時は全部部下の功績だ」というような気持ちで部下に接することが大切と述べられています。

 
 ただここで気を付けるべきことがあります。それは経営者が傲慢にはなってはいけないということです。
 
柳井氏はいいます。「一人でできることなど、本当にたいしたことない。経営はチームで行うべきもの。チームを作り、チームを動かす。この力を磨かない限り、経営者は何もできないのに等しい。」
 
スタッフを尊重し、一貫した理念・信念を共有することで信頼関係を築くことができるのです。
また信頼関係については「信念、大切にしている価値観、目的、こういったものが、ぶれない、変わらない」ことが重要と説かれています。言行一致と首尾一貫こそが経営者の「人としての誠実さ」につながり、スタッフとの信頼関係の構築につながるのです。
 
 
 
 
冒頭にも述べましたが、非常に簡潔にまとめられ、経営におけるエッセンスが凝縮された良書です。一読して損はないと思います。
 
 
 個人的な私見ですが、以前より「お客様」「患者様」という言葉に違和感を覚えます。
 「お医者様」も同様です。
 
 お客様第一だとか患者様第一と聞くと、なぜかwin-loseな関係に聞こえてしまうのです。
7つの習慣にも述べられていますが、win-winな関係の構築が最も望ましいと考えます。そうであれば、自分もスタッフも、顧客も誰もが満足のいくサービス、システムの構築が最も望ましいのではないでしょうか。
 
親しい家族や、友人を思いやる時、ヒトは想像を超えるような優しさや団結力を発揮することがあります。
「お客様のことを第一に考えろ!」とスタッフをどなりつけていたりすると強い違和感を覚えるのです。
 
自分、スタッフ、顧客。本来スタッフや家族も顧客となりえるし、スタッフとの信頼なくして、企業の発展も安泰もありえないでしょう。
 
そうであれば、人類皆兄弟ではないですが、スタッフも顧客も家族や親しい友人のように大切に思える理念があれば、ぶれずにゆるぎない理念となり、社会に通じる使命となるのではないでしょうか。