■35年間生き残ったカモシカ
2020年で誕生から35周年を迎えるヤマハ「セロー」は、20年目となる2005年に排気量拡大に伴う大幅なモデルチェンジが行われています。
新型エンジン、そして新型フレームの採用、スタイルを一新するも、これまでのセローと同じく2輪2足、ユーザーに寄り添ったモデルとして開発された「セロー250」ですが、いったいどのような狙いのもと、開発されたのでしょうか。
ヤマハ発動機 PF車両開発統括ST開発部ST設計Grの橋本貴行さんは次のように話します。
「セローは生き物に例えると35年間生き残ったカモシカですので、市場に対してのお客様のご意見を真摯に承って、そこに対して都度、改良を重ねています。
その中で2005年に250ccへと進化していくんですが、セローでは生物などの“進化”ではなく、より深くマウンテントレールを目指しましょうということで20周年記念&フルモデルチェンジの際には“深化”という言葉を掲げています。
2020年に発売するファイナルエディションのカラーリングに対しても“原点回帰”という言葉が使われていますが、実は2005年のフルモデルチェンジの際にもセローはセローですので、原点回帰を目指して250cc化をしております。
セローは225ccの時代からお客様に“遊び道具として使って下さい”という想いを込めていますので、常にお客様のご意見を伺いながら初期型の中でも5バリエーション程度、仕様を変えています。その時点である程度出来上がってしまっているので、そこから250cc化する際にはどうしようということになりました。
結果的に、トレッキングの楽しさに爽快な走行性能を兼ね備えた“操る楽しさNo.1 SEROW250”を掲げ、セロー自体ではなく、あくまでもお客様のアクティビティに対してセローは手を携えるということをやって参りました」。
■何度もポシャった初期型セローの企画
「セローには特筆すべきスペックはありません。セローの企画を立てる時も“セローの売りはなに?” という議題が出ましたが、“売りはない”んです。なので、初期型の企画はなんどもポシャったらしいです。
その一発逆転の企画を立てたのが、“次世代のオフロードを考える会”というもの開催したセローの開発者 近藤充で、彼は一緒に山を走りに行った人にYZやDTなどを乗らせて疲れ切ったところで、セローのプロトタイプに乗せたんです。すると みんなから“セローいいね“という言葉が帰ってきたそうです。結果、“このバイクありかな”ということで商品化されたと聞いています。
セローは“続けること”が大事なバイクですが、当然、変化をさせています。ただしこれは変化を求めずに深化を求めてのことです。積極的に高スペック化するわけではなく、お客様の用途に対してどういうふうに変化していこうかということで、常にお話を伺っています。
こちらからどうです? とお出しするのではなく、お客様の遊びに興じた車両ってどんなものでしょう? ということを問題提議しながら常に深化を続けています。
セロー自身は無個性なわけではありませんが、お客様に対してあまり個性を主張しません。お客様の個性をお助けするオートバイになっています」。
2020年1月15日に発売開始となる「セロー250ファイナルエディション」を最後に国内市場から姿を消すセローですが、乗り手に寄り添った存在であるセローシリーズは販売を終えた後も多くのユーザーと“二輪二足”で歩み続けるでしょう。