6月の初旬にニコニコ動画が視聴できなくなり、じゃあ、ネットフリックスをと思い、ザッピングしていました。たまたま見つけた、テレビドラマ『アンチヒーロー』をとりあえず、1話だけ観て、その後どうしようかという感じで視聴しました。結果的にはドラマ放映時に追い付いてしまい、残り3話はお待たせ状態になり、結果的に全話観てしまいました。このドラマはとても、引き込まれやすく、次も観たいという形になっているので、ついつい途中で止めるわけにはいかなくなりましたね。とても楽しんで観ることができました。全話観終わった感想としては、脚本はしっかりしていましたし、役者の芝居が凄く良かったです。こういう頭を使う展開のドラマは僕の好みですし、他にも引き込まれる、好きになる要素が多分にあったので、最後まで観てしまうということになったのだと思います。僕の所感としては最終話に近くなるほど、僕の想定通りという流れになっていったので、若干、うーむという感じにはなりましたが、それはまあ、ドラマの制約の限界でしょうから、そこは仕方がないと思います。もうひとつ、想定外の出来事があったも面白かったのですが、それをやるとドラマが完結できなくなるということなので、ちょうど良い落としどころだったのかなと思いました。とはいえ、このドラマは優秀ですし、報道はクソですが、ドラマはしっかりしたモノをたまにつくるTBSはまだまだ腐りきってはいないようです。このドラマに最初、引き込まれる要因になったのは堀田真由さんの芝居の凄さでした。

 

 堀田真由さんは映画『翔んで埼玉2~琵琶湖より愛をこめて』にも出演されていました。滋賀県の解放戦線の一人だったのですが、妙に目立っていた、存在感のある女優さんがいると思っていました。当初、この『アンチヒーロー』に出ているとは思わないほど、クールな役作りが印象的でした。あのクールな俳優は誰だ?と調べたら、堀田真由さんだったのです。これには驚きました。堀田真由さんはバラエティーやYouTube動画ではニコニコしているイメージがあり、ふんわり明るいキャラだと思っていたのですが、いざ、芝居になると、あ~いうクールな存在感を出す芝居をするんだ~と感心しました。あの存在感が素晴らしい。クールでかっこいいという感じでした。ドラマの途中で、身バレして、最終話に近づくほど、存在感が無くなっていったのは少し残念ですが、間違いなく、僕がこのドラマに引きずり込まれたのは、堀田真由さんの芝居の上手さでした。あの存在感は、ちょっとお目にかかることの機会が少ない、圧倒的な芝居ですから、この先の活躍も期待が持てますね。このドラマの凄いところは、キャスト全員が何かしらのタスクが求められ、それに応えるということがあります。なので、モブキャラは存在しないという作りは凄く面白く、楽しめました。主人公があまり多くを語らないことで、脇を固める俳優たちのアナザーストーリーが重厚さを作り出していますから、これは脚本の丁寧さ、緻密さの表れです。熱意をもって作られた作品はやはり良いものになると僕は思いますね。

 

 この作品の主題歌も効いています。誰が歌っている、なんていう曲かを調べましたもの。こういう行動は僕はあまりしないのですが、この音楽のセンスは素晴らしいと思いました。Milet さんの『hanataba』 という曲なのですが、歌詞も良いし、声質も素晴らしい。あ~いう独特な声質の歌い手さんは珍しいですし、その声質が心に響きます。何度もMVを視聴しましたが、この曲、単体でも素晴らしいのに、またドラマに合っているんですよね。出過ぎず、情緒がのるというか、絶妙なバランスでこの曲がかかるので、観ている方は盛り上がりますし、力が入るところなのです。それが絶妙すぎて、素晴らしいと思いました。何だか切ない、悲しい情緒がこの曲からは伝わります。それがドラマを後押しするので、本当に素晴らしいシーンに色づけされていくのです。この辺の丁寧さも凄いと思いました。昔からある、プロモーションのための主題歌という雑な商業主義ではなく、ちゃんと作品にあった、イメージの曲が流れるということが素晴らしいと思うところでもあります。この曲も名曲だと僕は思いました。そしてドラマに負けていないところが素晴らしいと思えることでしたね。

 

 このドラマ、進行しているうちにパターンは見えてきます。これは王道であり、ジャンプメソッドなのですが、視聴者が引き込まれる作法でもあります。それはなにかと言いますと、最初は主人公が追い込まれて、最後には逆転するというパターンです。この作品では要所要所でそのパターンがありました。最終的にそのパターンでドラマは終わっています。これは王道ですし、勧善懲悪のパターンですから、ラスボスは必ず負けるというシステムです。最終回もその王道パターンは貫かれていました。これは視聴者としてみれば、痛快な展開ですから、まあ、良いと思います。読める展開ではありましたが…。読める展開と言えば、大島優子の裏切りです。僕は7話ぐらいで、あまりにも情報が検察側に筒抜けだったので、裏切っている人がいるのでは?それが大島優子なら面白い!と思っていました。事実、9話の最後に完全に裏切るようなところで終わっているのですが…。ただ、本当に裏切っているのなら、この段階ではまだ早いと思いましたので、ダブルスパイだったという思考に至りました。結果、その通りになりました。ただ、ダブルスパイになるにも主人公との関係性が今ひとつ見えないところがあるので、モヤモヤは残りますが、まあ、ドラマを盛り上げるのならば、そういう立ち回りは必要でしょう。と思います。後付け感があるので、説明しきれてないところが惜しいなとは思いました。面白かったけど、まあ、無難なところに着地したかという感じです。そもそも、主人公の計画通りに事がすべて運んだという形でしたから、まあ、ドラマとしてはそこが限界なのかなと。ここで、主人公の計画に狂いが生じる、不測な事態が起きれば、またスパイスとなって面白かったのですが、ここが難しいところ。そのスパイスを組み込むと、時間内には収まらなくなりますから、それは仕方がないことかもしれません。僕が残念に思うところでもありますね。

 

 ただ、面白かったところとして、ラスボスの検事正役、野村萬斎の芝居が素晴らしかった。自分の正義が保身から来ることであるということに気がつかない愚かさを見事に演じていました。こういうヤツいますよね。今、大企業の組織のトップの周辺にはこういうヤツしかいません。正しいと思っていることが結局は自分の保身というのが常識です。この保身の塊という点が素晴らしい。そこを見事に描かれているところに非常に共感しました。隠蔽工作や妨害工作もこの一連の保身から生まれるものですし、それに巻き込まれる下の人間は大変です。作中でもありましたが、巻き込まれた人間が失敗すると、もうアウト!ということになっています。やるしかない!そこに個人の見解は存在しないという組織の理屈なのです。いや~たまらないほど僕は嫌いですね。そういう体質。そういう理屈。そういう組織。こういう組織では僕は排除されることになるから、まあ、実害はないのですが、こういう組織は本当に派手に散るような不祥事を起こしがちです。それは企業だけではなく、教育関係でもそういうことが起きます。いじめの事件で隠ぺい工作はよくある話ですし、地方自治体によっては、法律化しているのに、その法律が間違っていると提訴する自治体もあるほどです。保身もそこまで行くと、恥とか外聞とかないのでしょうけど、醜悪ですし、愚かですし、まさに恥ずかしいところだと思いますね。そういうところに気がつかない愚かさはもうどうしようもないところでしょう。この作品ではそういう醜悪な部分は必ず罰せられるということで結末を迎えているのもすっきりとします。日本人が好きなヤツではあるのですが、現実でも同じようなことになって欲しいと思いますね。保身で動く奴は本当に勘弁してほしいと僕は思います。

 

 そういう世相も受けてのか、この『アンチヒーロー』というドラマはヒットしました。なぜ人は保身に走るのか、なぜ偉くなると保身になるのかは掘り下げて考える機会でもあります。保身なんかで動くことがどれだけ愚かなことであるかを考え直すきっかけでもあると僕は思いました。保身の塊が居座っているのが組織というモノですが、そういう組織が生き残れない時代がやがて来るという願いも僕にはあります。まっとうに、真摯に、誠実に向き合うことでしか、生き残れないような世界が来ることを僕は期待しているのです。