フランス革命は、最初は経済難から始まった、やむにやまれぬ行動でした。かつ『国王万歳』と唱えるような、最終的には穏健な解決を目指す行動でもありました。ところが、ルソーを信奉する一部の過激派(第三身分の市民層の中にいた)が、フランスという国家の枠組みそのものを潰そうと企んだのでいたのです。では、ルソーの信奉者の標的は誰なのか?謎解きをしましょう。

 

 1790年、聖職者市民化法。フランス革命のまともな解説書に、これを書いていない本はありません。しかし、その重要性をマトモに解説しているのか?そして、その読者がマトモに理解しているのか?非常に心もとない限りです。この法律は、僧侶に『国民と法と国王への忠誠を誓う』と義務付けています。この法律では、すべての聖職者は国家公務員になることが要求されました。革命勃発当初から、教会財産の没収が進められていました。超経済難の状態にもかかわらず、教会は膨大な財産を有していたので、ならば特権階級の財産を奪って、国庫に入れてしまえばいい。革命派の真の目的は、第一身分こと宗教勢力だったのです。カトリックこそがフランス革命の標的だったと言っても過言ではありません。つまり、フランス革命の真の構図は、『僧侶&貴族 vs 民衆(第三身分)』なのです。そのすべてを束ねることができる唯一の存在が、国王です。聖職者市民化法で、国民と法のオマケのごとく扱われている、国王です。それでも国王への忠誠ならば、カトリックも妥協できます。千数百年にわたる、勝手知ったる喧嘩相手ですから。過半数の聖職者が、宣誓しました。革命の勃発当初、教皇ピウス6世は静観していました。革命に協力するか否かは、地域事情に任せました。だから、驚くほど協力的な教会も多く存在しました。財産国有化にも、十分の一税の導入にも、従順でした。しかし、革命が過激化するにつれ、教皇は警戒感を高め、対決姿勢を強めていきます。

 

 国王ルイ16世は、人権宣言あるいはそれに先立つ『封建制廃止宣言』への署名を先延ばしにし、時間稼ぎをしました。しかし、過激派がそれを見逃すはずがなく、市民たちを宮殿まで行進させるデモンストレーションを敢行します。ヴェルサイユ行進とか、10月行進と呼ばれます。七千人の婦人が『パンをくだされぇ~』と行進したのですが、後ろには二万人の革命軍がついていました。指揮するのは、アメリカ独立戦争で名をはせた、ラ・ファイエット将軍です。黒幕は、王位を狙ったオルレアン公です。陰謀も渦巻いていました。暴徒たちは『国王陛下万歳!』と叫びながら、ヴェルサイユ宮殿に乱入します。これを阻止しようとするや、『国王の近衛兵を殺せ!』と乱暴を始めます。国王ルイ16世と会見できると、また、『国王万歳!』です。そして、なぜかしら、国王一家を拉致しました。『王様、パリへ、パリへ。』などと叫びながら、暴徒と化した女性達は、虐殺した近衛兵の首を掲げながら、パリに戻ってきました。国王一家は以後、ティルリー宮に監禁されることになります。

 

 周辺諸国は、大国フランスの混乱を喜んでいました。イギリスは、アメリカ独立戦争の敗戦から立ち直ろうと必死の状況。露墺普三国は、ポーランドの分割に熱中しています。ただし、オーストリアはマリー・アントワネットの実家です。プロシアを誘って、革命を叩き潰す、干渉戦争を計画しています。実際は、両国ともに明確な意思を欠き、特段の準備をしていなかったのですが、それでも、こうした風評は革命派の態度を硬化させます。1791年6月、ヴァレンヌ逃亡事件で、国王と国民の亀裂は決定的になりました。国王一家は、国外逃亡を計画しました。ルイ16世は、嫁の愛人のフェルゼン(その正体はスウェーデンのスパイ)まで連れていってあげるというお人よしです。そいつが愛人であり、スパイであることを知りながら。とはいうものの、フェルゼンもフェルゼンなりに、愛する王妃のために必死に亡命計画に奔走したのですが、あえなく失敗します。マリー・アントワネットが『新しいドレスが完成するまで待って!』うんぬんのワガママで振り回したなどの事情は、すっ飛ばしましょう。それはともかく、ルイ16世には切迫感がありません。捕まるまでの過程をみても、物見遊山のようです。それもそのはず、そもそもルイ16世は『逃亡』などしたつもりはありません。一時的に国境近くまで避難しようとしただけなのです。周辺諸国の悪意に囲まれたなか、フランス以外に安全な土地などどこにあるのでしょうか。

 

 ちなみに、フランス国歌で名指しで非難されているブイエ将軍は何の役にも立たなかったばかりか、自分はルクセンブルクに亡命し、『国王に指一本でも触れたら、パリを瓦礫にしてやる!』などと、民衆を挑発するようなことを言い出します。ブイエ将軍は共和派のスパイだったのかと疑いたくなりますが、多分単なるバカだったのでしょう。底抜けのバカはスパイと同じ行動をするものです。バカな味方は、敵より怖い・・・ 国王一家は再び、ティルリー宮に監禁されることになります。この段階で普墺両国は、革命への干渉を示唆しますが、これでは『ルイ16世一家を殺してくれ』と言っているようにも聞こえます。国王一家にとっては地獄絵図です。まだまだ、狂気のフランス革命は続きます。それは次回に。