先日、ネットフリックスオリジナルドラマ『First Love ~初恋』を視聴して最後まで観てしまいました。そもそもネットフリックスで、世界で一番見られている作品ということで、話題になっていたので、ちょっと観てみようかなという感じでハマってしまいました。『First Love ~初恋』の本編の感想は後日、僕のブログ、『アドリブコンテンツクラブ』でお話ししますが、以前の僕ならば、絶対にラブストーリードラマは観ないだろうということでした。それはテレビドラマに限らず、マンガ、映画のラブストーリーは大嫌いでした。昔から、そういう類のものは嫌いでした。僕は『ラブコメ死ね死ね団』を敬愛しているので、そうなっています。『ラブコメ死ね死ね団』は僕のこのような感情を相対化し、言語化したものなのです。

 

 『ラブコメ死ね死ね団』とは『行け稲中卓球部』というヤングマガジンに連載されていたギャグマンガです。1993年頃からの連載だと思います。その作中の中で、『ラブコメ死ね死ね団』というものがありました。当時、全盛であったラブコメに対する強烈なカウンターを放っていた存在でした。文字通り、ラブコメに対して作中でも断固反対、邪魔はするわ、ぶち壊すわで、留飲を下げるというものでした。当時、読者でラブコメにうんざりしている人には画期的な存在でした。ラブコメが正義の時代、ラブコメを全否定する姿は勇ましく思いました。僕がラブストーリーモノが嫌いなのはもっと以前の話ですが、そういう感情を的確に表すと、『ラブコメ死ね死ね団』ということになるのです。本当にうんざりしていたのです。

 

 高校生ぐらいの時でしょうか、僕自身が全くモテないということもあったと思いますが、ラブストーリーには拒絶反応がありました。例えば、当時、あだち充のマンガが良い!と真顔で言っている男性にはアホか!と軽蔑していました。こいつは凄く浅くて、軽くて、全然面白くないヤツですが、女性受けはしていたようです。そもそも、現実とドラマとは乖離があります。ラブストーリードラマの世界観に浮かれているのは頭の中がお花畑としか思っていませんでした。僕はそういう輩を敵視していましたが、ニーズが多いのでしょうね。ラブストーリーのマンガや映画やドラマは世間を席巻しだすのです。『男女7人夏物語』ぐらいから、そういうのに特化したドラマが製作され、視聴率も良く、それが後にトレンディードラマというカテゴリーに昇華されます。こんなものを本気で観て、涙を流すとか、僕にとっては異常事態だったのです。その後の、1997年の『タイタニック』という映画は日本歴代興行成績の現在3位ですが、上位の2作品はアニメです。実写ではいまだに1位なのです。狂ってる!と僕は思っていました。あの映画は本当に良かった!感動した!と言ってくる多くの人達に、僕は『ただ船が沈没する話だろ!』と『ラブコメ死ね死ね団』ばりの悪態をついていたものです。この現実と空想の乖離をどう処理してきたのだろうか?本当に憧れる人はいなかったのか?不思議にも思っていました。

 

 大学生時代に、演劇にかかわる活動を少ししていたので、この手のラブストーリーもののドラマの展開予想当てゲームは僕は得意にしていました。テレビドラマを1話見ただけで、その後の展開とオチを想像して語るゲームです。大体、当ててました。なぜならば、プロットが簡単で、定型が決まっているからです。もうパターンじゃないか!という感じのものしかなかったです。役者と名前が違うだけで、根本はシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』ですし、あとはどこで伏線を張ってからの回収をするかですから、読み切るのは難しいことではありません。またそのパターンかよでうんざりしてましたね。しかも、恋愛の明るい部分しか描かないので、現実とは乖離するのが当然なのです。ちなみに、トレンディードラマのウソを暴いていたこともありました。例えば、地味な小さな会社の事務をやっている女性主人公。ところが住んでいるのは麻布近辺、住んでいるマンションは3LDK。着ているものはブランド品で、アクセサリーも多数。親が大金持ちではないという設定です。そうなると、この女性主人公は月収100万円もらわないと、この生活は成立しないという設定です。そんなことある?という無理やり感がありました。そういうありえないウソを暴露すると、大抵は夢を壊す!とクレームになるのですが、その夢って、何か役に立つの?と思ってしまいます。まあ、麻酔が効きすぎると身体には良くないとは思うのですが…そんな調子ですから、まあ、ラブストーリーの類は本当に観てませんでしたし、それは長い間続いていました。しかも、ラブストーリーものだとわかると、シャッターが勝手に降りるということがありましたね。本当に嫌だったのです。

 

 ですから、そんな僕がラブストーリーものを観だすなんてことはありえないことなのです。それが変わってきたのは数年前位から、『梨泰院クラス』を観てからでしょう。確実に変わったと思います。『梨泰院クラス』復讐劇でもありますが、ラブストーリー要素もあります。髪の長い女性とショートカットの女性の2人からの男性主人公という構造はラブコメの王道です。ただ違うのは主人公が優柔不断というパターンではなく、頑固で信念のある芯が入った男性でした。この辺がライドできる要素です。しかもこのドラマは対比が凄く明確で親子関係や敵対関係が絡み合っているので、ドラマとしては優秀です。しかも仲間と協力して、敵を倒すというストーリーは引き込まれる要素がありすぎます。展開的にそうなるとわかっていながらも、なったらなったで、嬉しくなってしまうという見せ方も実にうまい作品でした。この作品後、数本、韓国ドラマですが、ラブストーリードラマを観るようになっていきました。多少、イライラする場面はあるものの、ドラマの壮大性や意外な展開にライドできるようになっていきました。今まで、頑なに、『ラブコメ死ね死ね団』を信奉していましたが、実はそれほど悪くはないという心境の変化があったのかもしれません。それは、ドラマ性や役者の演技でライドできるかどうかということがあるのですが、ラブストーリードラマの全否定は無しになっているようでした。ようするに、ジャンルを問わず、良いものは良いという素直な心持になれたということだと思います。さらに、ドラマの分析する目というものが近年、とてもバージョンアップしていることも大きいと考えています。しかも、ラブストーリードラマ自体が時代の移り変わりで、そこまでベタな、ネチネチしているものではなくなっているということもあると考えます。

 

 日本のドラマはテレビの構造上、キャストありきで、台本が作られますから、物凄く陳腐なものになっています。この『First Love ~初恋』はネットフリックスのオリジナル作品なので、その辺の悪しき風習はないように思えました。残念なのはもっと台本を作り込めば、もっと凄い作品になるのになと思いました。とはいえ、凄く面白い作品ではあります。ラブストーリードラマには超辛口の僕が言うのですから、逆にあまり、褒める様な、お勧めするような、そういう作品はないだろうと思いますね。こういうラブストーリードラマをお勧めする時がこようとは…夢にも思っていなかったです。こういう僕の自分自身の心境の変化に驚いてはいます。