長年プログラムの開発に携わってきて、採用のために学生さんと面接する機会もありました。話をしていると、じつはゲーム会社が第一志望と告白され、驚かされることがありました。ゲーム世代なのです。

 私はゲーム業界の仕事は未経験ですが、熾烈な業界と想像します。そこを志望する若者が、本当に大変さを理解しているのか、と心配してしまいます。夢見る学生さんたちの志望動機を、少し掘り下げてみたいと思います。

 

「ゲームをヒットさせて有名になりたい」

 

 若者の野心は強力な武器です。しかし、有名になることが目的なら、プログラマより原作者やキャラクターデザイナー、作曲者や声優のほうが、チャンスがあると思います。プログラマは縁の下の職業で、なかなか注目されることはありません。

 プログラマもヒットに貢献できる可能性はあります。ただし、いいゲームを作ればヒットする、というほど簡単ではありません。10本作って1本ヒットするかどうか。もっと確率は低いでしょう。多分に運です。

 プログラマができる貢献は、いかに短期間で開発できるか、いかに安く作れるか、といった類です。たくさん出せばヒットに巡り合えるチャンスも増えます。新作を次々リリースする、そのため制作期間を半分にする、そのためには、というような発想ができるなら、それはどんな業界でも有用なプログラマです。

 

「じつはあれプログラムしたんだと自慢したい」

 

 分かります。ゲームのどこか一部を担当することは、新人にも十分チャンスがあります。最初たとえ1アイテムでも、担当すれば自信になりますし、自慢したいでしょう。ところが、何年か経つと、きっとあなたは自慢ができなくなります。

 ヒットすればするほど、注目されればされるほど、万一のトラブルが怖くなるからです。もしダウンでもしたら、クレームが殺到します。これはゲームに限りません。いま世界にはプログラムはあふれています。ショッピングや予約、残高照会や投資、飛行機や自動車にもプログラムが組み込まれています。空港のシステムがダウンしたとか、銀行窓口に長蛇の列ができた、というニュースを見たことがあるでしょう。もしあなたがそれに関わっていたら、自慢などしなければよかったと思うでしょう。

 

「でもゲームしかやってこなかった」

 

 学生時代ゲームばかりやっていた。他にアピールできることがない。だから、ゲーム会社を第一志望にした、と謙遜する必要はありません。いろいろなゲームをやってきた。あのストーリーはおかしい、あのキャラクターは難しい、不満もある、改善案もある。そういう経験をしてきたのなら、ゲーム以外のプログラムでも、じつは同じです。

 どんな業務でも、どんなシステムでも、多くのルールが存在し、多くのキャラクター(関係者)が存在します。いわば巨大なゲームのようなものです。そこにあなたは飛び込み、短期間で覚え、改善を思いついたのです。会社はそこを評価します。

 

「プログラミング・テクニックを試したい」

 

 テクニックに興味があるのですね。確かにゲームは、グラフィックを多用するプログラムです。素早いレスポンスが必要なプログラムです。そのために特殊なプログラミング・テクニックが必要となります。

 あのゲームのあのシーンは一体どうプログラムされているのだろう。知りたいと思うことは自然ですが、会社は学校ではありません。会社はあなたに新しいテクニックを考えてほしい、試行錯誤してほしいのです。

 コンピュータの性能は進歩します。だから、プログラミング・テクニックも進化が必要です。ゲーム以外でも、グラフィックを多用するようになりました。ゲームのために開発されたテクニックは、他の業界でも役に立ちます。

 

「レーシングゲームに興味がある」

 

 パソコンにハンドルとペダルをつなぎ、大きなディスプレイにサーキットが表示されるレーシングゲームは、ゲームオタクの言わば頂点です。本物のサーキットのデータ、本物のレーシングマシンのデータを使い、リアルなレース体験を再現できます。

 飛行機のシミュレータは、パイロット養成訓練のための精巧なゲームです。同様のシミュレータが様々な分野で開発されています。ドローン操縦、救命救急、ビルや橋の高所作業訓練などです。遠隔からベテランが支援するシステムも登場しています。様々な業界がゲームオタクを求めています。

 

「ゲームの攻略に興味がある」

 

 ゲームの穴を探すのが楽しい、という人がいます。本来無いはずのルートだったり、無敵のアイテムだったり、裏技だったり、それらを解説した攻略本まで出版されることがあります。

 穴を探すのは重要な仕事です。それを専門にするプログラマがいるのは、ゲームに限りません。穴を探すプログラマに適した資質は、プログラムを書くプログラマとかなり異なります。試験はとても地道な仕事です。

 地味ですが重要な仕事です。ゲーム全体をよく知っていること、プログラマがどんなところでミスを犯すか理解していること、そして何より利用者にとって困る欠陥を見つけることができる人は、どんな業界でも重要な人材です。

 

私からの激励

 

 いまはゲームと全く無縁に見える業界でも、近い将来ゲームのようなプログラムが求められかもしれません。あなたのゲームセンスを活かすときが来るかもしれません。そのときプログラミング・テクニックが役立ちます。地道な試験が必要になります。

 いまは第一志望と全く違う業界、荒野のようにつまらなく見える業界も、10年後にどうなっているか。むしろ、いま荒野をめざしたほうが、あなたは注目される可能性があります。そして、あなたの会社が第一志望だと言って学生さんが面接に来るかもしれません。