【エルサレム=村上伸一】建国から今月60年を迎えたイスラエルで、建国の原動力である「シオニズム運動」の根拠を否定する著書がベストセラーとなっている。題名は「ユダヤ人はいつ、どうやって発明されたか」。
シオニズム運動は、古代に世界各地へ離散したユダヤ人の子孫が「祖先の地」に帰還するというもの。著者はユダヤ人でテルアビブ大学のシュロモ・サンド教授(61)=歴史学。3月にヘブライ語で出版され、アラビア語やロシア語、英語に訳される予定だ。
著書では、今のユダヤ人の祖先は別の地域でユダヤ教に改宗した人々であり、古代ユダヤ人の子孫は実はパレスチナ人だ――との説が記されている。
サンド教授は「ユダヤ人は民族や人種ではなく、宗教だけが共通点」と指摘。第2次世界大戦中に約600万のユダヤ人を虐殺したナチス・ドイツが、ユダヤ人は民族や人種との誤解を広めたとする。
そのため、イスラエル政府が標榜(ひょうぼう)する「ユダヤ人国家」には根拠がないと批判。「パレスチナ人を含むすべての市民に平等な権利を与える民主国家を目指すべきだ」というのが著者の最大の主張だ。
シオニズム運動は欧州で迫害されたユダヤ人たちが19世紀末に起こし、「ユダヤ人国家の再建」を目指した。運動の根拠になったのは、ユダヤ人が紀元後2世紀までにローマ帝国に征服され、追放されたという「通説」だった。
これに対し、教授は「追放を記録した信頼できる文献はない。19世紀にユダヤ人の歴史家たちが作った神話だった」との見解だ。パレスチナ人から土地を奪うことを正当化するために、「2千年の離散の苦しみ」という理由が必要だったという。
教授によると、古代ユダヤ人は大部分が追放されずに農民として残り、キリスト教やイスラム教に改宗して今のパレスチナ人へと連なる。イスラエルの初代首相ベングリオンらが建国前に著した本の中で、パレスチナ人たちをユダヤ人の子孫と指摘していた。ユダヤ人の入植で対立が深まる中で、パレスチナ人を子孫とは言わなくなったという。
教授は「新説ではなく、建国指導者らが知りながら黙ってきたことをはっきりさせたにすぎない」と語る。
nofrillsさんが日本語化していた、イラク人のライードさんのブログ で、
ライードさんが「アンチセミティック(反ユダヤ主義)」と思われ、米国への招待を取り下げられたのを、
どうやったら僕が「アンチ・セミティック」になれるんでしょうか? 僕はパレスチナ人なのに。
っていうか・・・僕はセミティックです・・・
と嘆いていた のを思い出しました。
「離散の物語」というイスラエル建国の根拠となるものが、ファンタジーであることはみんな気づいていても表立って言うことがタブーであったわけで、今こういうことが書かれた本がイスラエルでベストセラーになっているというのは喜ばしいことだとは思うのだけど、ブラックユーモア的な苦い気持ちが混じりますな。
R・A・ラファティの「巨馬の国」を思い出すなあ。ラファティ一流の誇張とユーモア、皮肉に似た世界。
今現在ファンタジーを元にイスラエルがやってることや、ライードさんが受けた「シオニストという言葉を使っただけで反ユダヤ思想という決め付けによる批判」を考えると、ネット上で誰かが語っていることをいちいち取り上げて「あれがけしからん」「あいつは○○だ」とか言ってるのが、死ぬのはやつらだ先輩の言うように「知的遊戯」にしか思えませんなあ。がっくり。