前記事に書いたとおり、子供というものは本来大人を底の部分で信頼し存在をゆだねているものだと思う。
口ではバカにしたり生意気なことを言うだろうが、その実、大人に甘えたいし、構ってもらいたいし、クサイことを言うようだが、「愛されたい」のだ。
そして、子供にかけた愛情は、どんなに無様なものでも伝わるものだと信じている。

「いい子にしていなければ何もしてあげませんよ」
「この国を愛する気持ちをお偉い方々がわかりやすい形で表現しなければ何も受ける権利がありませんよ」
などと言い出すのは「子供の人権侵害」であり、動物に芸を仕込むような「非人間的」なやり方だと思う。
最近ではちょっとマタに毛を生えたくらい高校生くらいのガキまでお偉い大人の口真似をして自分たちの権利を狭めても構わないという覚えたての「お利口」な口をきくやつがいるから、「あなたのような人にそんなこと言われたくない」とか言うかもしれないがちょっと黙ってろ。

大人というのは子供を幸せにしたいと願わなければいけないものなのだ。と俺は思う。
そりゃあクソ生意気なガキが生意気なことを言ったら、「死ねばいいのに」くらいは言うかもしれないが、
どんなクソ生意気なガキでも、苦境に陥ったときには大人というものはクダクダ文句を言わずに全力で動かなければならないものなのだ。
以前、特定日本人から忌み嫌われる「左翼」の高校生が、戦争中の外国で武装勢力に拉致され、政治的な取引材料に使われたと言うことがあったが、その時の日本政府の対応もこれまた未成年者に対しては驚くべき冷酷さ、非常識なまでの見捨て方でアメリカ共和党のパウエルもビックリだったわけだが、これが「普通」で「毅然」とした対応に見えているのが日本人の権力に対する驚くべき従順さの表れだと思う。
政府の毅然とした外交のためなら、子供の命も平然と売り渡す。一方で、権力の為に惜しまれ、選別され望まれる「命」もある。

まあ、俺が思い出したのはこのことじゃない。
俺は自分が関わった子供たちは、どんな子供でも大きくなるのが楽しみだ。
ちょっと前までビービー泣いていたガキが、どんどん大きくなって、そのうち一丁前の口をきいたりすると、感動のあまり目がウルウルしてきそうになる。
俺のことが嫌いなままで卒業する子供もいるだろうが、相性があるから仕方ない。しかし、嫌われていたとしても、俺はどの子供でも無事に大きくなって幸せにやっていると言うことを聞くと嬉しい。偽善じゃなくて本心からそう思う。子供が不幸せになるのは悲しいことだ。

無事、大きくなるのを見ずに遠く離れてしまった子供たちもいる。引越しやいろんな事情で。
昨年末、父親が自殺して母親の実家のあるところに引っ越してしまった子がいる。
父親は、大会などには一回も付き添いに来たことがなく、たまに顔をあわせるくらいで、あまり面識はなかったが、葬式には行った。
子供三人と、母親が団子になって背中を丸めて泣いていた。
父親が仕事が忙しく、ノイローゼ気味だった、というのを、その父親と同じ会社に勤める知り合いから聞いていたが、そんなになるまで勤めなくても・・・とそのときは思っていた。

その知り合いから、今日、会社の倉庫で自殺した父親が当初「衝動的に」自殺した、とされていたのに、後から会社が隠していた「遺書」が見つかった、ということを聞かされた。
その遺書には、会社に辞職願いを出しても受理されなかったこと、当てつけにもっと厳しい仕事を押し付けられたこと、などなど会社に対する恨み言が連ねてあって、最後に、家族に対して
「仕事が忙しくてちっとも構ってあげられなくてごめんね。お父さんはもう疲れました。
お母さんを助けてあげてください」
といったことが書いてあったと言うのを聞かされた。
俺は昨年葬式でオンオン泣いていた子供の背中をありありと思い出し、泣き出したい衝動にかられた。
教えてくれた人も目を潤ませていた。

前に、その子に「父親が一度も大会を見に来てくれない」ことを愚痴られたことがあった。
俺は「きっと仕事が忙しいんだ」「きっとお父さんは見にきたいと思っているよ」と言った覚えがあるが、
その言葉は嘘にならなかった。
きっと、どんなにか来たかった、娘が頑張る姿を見たかったに違いない。
たまたま会った時に、ちょっと娘のことを誉められただけで、冴えない顔色がほんの少し輝くくらいに喜んでいたんだから。

夫が自殺した奥さんもどっかの誰かさんが非難するように、「自分のことさえ良ければ夫を自殺にさえ追い込んでも平気」な専業主婦だったんじゃない。何度も、病院に行くよう、仕事を辞めるよう言っていたという。自殺した人だって、妻が自分が働かなくなって働きに出たとしても、自分ほどには稼げるほど世間が「女性」を優遇していないということがわかっていたからこそ、自殺をするほど追い詰められたのだ。
残業代ゼロになれば、誰も残業しないで少子化対策になる、なんて絵空事が通じるほど、会社が労働者を優遇していないことを自覚していたから、自殺にまで追い込まれたのだ。

その自殺者まで出した会社は最近「景気がいい」んだと評判だ。
自殺するまで労働者をこき使えばさぞ利益があがるんだろうな。

安倍総理よ、聞きたいことがあるんだが、
あんたには一人でも、大きくなるのを楽しみにしている子供がいるか?
別に自分の子供でなくてもいい。俺だって自分の子供なんか持っちゃいない。
自分が大事に思っている子供が、父親を亡くして泣いている姿を見る気持ちがわかるか?

この国には「格差がない」んだとあんたは言うが、父親が子供を残して自殺するほど経営者が労働者を思うとおりにこき使う状況はどう思うんだ?
自殺に追い詰めるまで働かせておいて、その経営者が何の責も負わずにのうのうとのさばり続ける状況は「格差」じゃないのか?
使用者が労働者が反駁できずに死んでいくほどの権力をもつことは「格差」じゃないのか。

なあ、総理、なんとか言ってみろよ。

今アンタが牛耳っているこの国は「美しい国」なんかじゃない。薄汚い誇りをなくした権力者のための国だ。