日刊ゲンダイ4月28日号より引用


問題の歴史教科書を真っ当な学者が徹底批判


新しい歴史教科書とは、「従来の歴史教科書は自虐史観に毒されている」とし、それに代わる教科書を作ろうと、97年に結成された「新しい歴史教科書を作る会」が作成した中学校の教科書。01年に初めて検定を通過し、今回が2度めの検定だった。この教科書をめぐって日本の歴史学者が(4月)25日、「歴史の事実を歪める『教科書』に歴史教育をゆだねることはできない。」と緊急声明を発表した。あまりにも都合よく歴史を解釈しているというのだ。

「つくる会」の教科書とは、どんな内容なのか。


侵略戦争を「アジア解放」とし、南京大虐殺も否定」


「つくる会」の歴史教科書は、古代から近現代までアジア人の反感を買うような“ご都合史観”で貫かれている。実在しなかったことがハッキリしている「神武天皇の東征伝承」を持ち出すなど、史実を無視した記述も多い。

最大の問題点は、光と影が混在する日本の歴史の「光の部分」だけを都合よく解釈していることだ。

731部隊、慰安婦、朝鮮半島での同化政策など「影」の部分からは意図的に目をそらしている。緊急声明に名前を連ねた茨城大名誉教授の荒井信一氏(歴史学)が言う。


「『つくる会』の歴史観がとくに表れているのは、近代史についてです。象徴的なのは、ほかの教科書が『太平洋戦争』と記述しているのに、ただ一社だけ『大東亜戦争』と呼んでいること。大東亜戦争と書いた中学教科書は、戦後初めてです。大東亜戦争とは、当時の日本政府が『これはアジア解放のための戦争だ』との意味を込めた言い方。『つくる会』が戦前のアジア侵略をどう見ているか分かります。」

実際「韓国併合」「南京虐殺」「日中戦争」などの記述はムチャクチャだ。

「韓国併合」は<日本の安全と満州の権益を防衛するために必要>との当時の日本側の都合だけを一方的に書いている。韓国併合に対する抵抗運動にはほとんど触れず、強制連行も「連れてこられた」と曖昧な表現でボカしている。これでは韓国民にひどいことをしたというニュアンスはまったく伝わってこない。

「南京虐殺」にいたっては<この事件については資料の上で疑問点も出され、さまざまな見解があり、今日でも論争が続いている>とわざわざ否定論を追記していた。


植民地支配を堂々と賛美


その一方で、日本の植民地支配を賛美するような記載があちこちに出てくる。同じく名前を連ねた一橋大名誉教授の安丸良夫氏(日本思想史)が言う。

「よっぽど日本の侵略行為を正当化したいのか、日本が韓国の鉄道を整備したとか、台湾の開発も行ったとか、日本の重工業の進出などにより満州が経済成長を遂げたことが、ことさら協調されています。」

台湾については一切加害に触れずじまい。「台湾の開発に力をつくした八田興一(台湾総督府の日本技師)」というコラムが大きく扱われている。

「囲みコラムの『アジアの人々を奮い立たせた日本の行動』では、『マレー半島を進撃していく日本軍に、歓呼の声を上げました』と書き、『日本を解放軍として迎えたインドネシアの人々』でも「日本軍がオランダ軍を破り、進駐すると人々は道端に集まり、歓呼の声を上げてむかえた。日本はオランダを追放してくれた解放軍だった』と極端な解釈を載せています。」(安丸良夫氏=前出)

歴史教科書だけでなく、「つくる会」の「新しい公民教科書」も相当なものだ。

「『基本的人権』の項で、『国防の義務』と題した資料を掲載し、ドイツ、中国、スイスの三ヶ国を例に『これらの国の憲法では国民の崇高な義務として国防の義務が定められている』とイラスト付きで強調している。」(62人の中心メンバーである石山久男氏=都立大講師)

日本国憲法にもない国防の義務をしっかり教育したいのだろう。こんな教科書がよくぞ、検定を通ったものだ。中学生の教科書としてはやはり問題が多すぎる。


“国のために喜んで戦争に行かせる”狙いが・・・・


それにしても「つくる会」の狙いは一体、何なのか。アジア諸国がいっせいに反発することを承知しながら、ここまで偏った教科書に固執するのは尋常ではない。

評論家の佐高信氏は、本誌に「戦争責任を広くとらえようとする歴史観が『自虐史観』なら、つくる会は『自慢史観』だ」と語っていた。さらに「サンデー毎日」で、「つくる会」のメンバーをこう揶揄している。

「いつも日本が偉いと自慢ばかり言っているのは、本当は日本に自信がないからなんだ。他人があまり『偉い』と言ってくれないから、自分で言ってしまおうとむきになっている。(略)自慢を少し抑えて、自虐ができるくらいの自信をもてるようになってもらいたい」

これは言い得て妙だ。自信のなさの裏返しとみれば納得である。もちろん、彼らの狙いはそれだけじゃない。隠れた本当の狙いがあるのは明らかだ。

「『つくる会』の真の狙いは、国のためなら喜んで戦争に参加する子供を育てることでしょう。新しい歴史教科書には、戦争の悲惨さがほとんど書かれていない。沖縄のひめゆり部隊や集団自決の記述は皆無。長崎の原爆被害もたった一言触れているだけです。その一方で『日本の将兵は敢闘精神を発揮してよく戦った』などと戦争を美談に仕立てている。これでは、子供たちに戦争の悲惨さは伝わらない。それどころか、戦争を肯定しかねません。それと同時に、天皇中心を強調し、改憲を訴えている。こうなると狙いは明らかでしょう。ズバリ、日本を戦前のような国にすることです。」(立正大教授・金子勝氏=憲法)

衣の下に鎧どころか、血刀がムキ出しなのである。心ある歴史学者62人が、新しい歴史教科書が教室に持ち込まれるのを憂慮するのも、当然だろう。


==================================


小学校の教員の方のブログで「問題の教科書を読んでから批判したら… 」と仰っているものを読んだが、

こんな内容を読んで何も問題を感じないのならそれこそ問題がありすぎる。
教え子を「お国のためにがんばって!」と意気揚々と戦場に送る準備をしているのだろうか。マジメに怖い話だ。