白いうさぎの人形(木製)が倒れている。
なかなかにホラーな雰囲気で、自由に動く長い腕と長い脚をぶらさげながら、まぬけにぽてんと転がってる。
おかんの友達がくれた。おかんじゃなくておいらに。
その人の顔を見たことはない。




昨日、電車の中で言い方悪いけど頭おかしそうな、さらに悪く言えば狂ってそうな、最低の言葉を使えばキチガイの人が、すごくすごく近くに接近してきた。
頭ん中真っ白になる。頭の両側をペンチでぐりぐりされつつ、内側をどんどんくりぬかれてる感じ。わけわからんな。でもそんな感じ。
そのとき、後ろに座っていた背の高い、大きな外人の方が、急に立ち上がった。
びっくりして彼を見た。彼はこっちを見ずに、ただ、そのキチガイを、本当の意味で追っ払ってくれた。
その、大きな外人の方が威嚇した瞬間、あの野郎、びびって、逃げた。あからさまにびびって逃げた。すいません、みたいなこと、言ってたかもしれない。覚えてない。

泣きそうになった。その外人の方に、一つ礼をして、でもまだ足りんくて、何回かこっそり礼をした。その人は、しらっとまた席に座って、ぼんやりと音楽を聞いていた。

泣きそうになった。
怖かったから。
いつも通りどうせ誰も助けてくれないだろうと思ったのに、助けてくれたから。
安心したから。
だから泣きそうになった。


一回、いや、回数数えたら果てしないな、数回、そういう、キチガイ、の人にすごく近くで遭遇した。
毎回怖いけど、その中で僅か、ものすごく、怖い思いをした。
終わるかと思ったことがある。
終わる現場を目撃してしまうかと思ったことがある。


誰も助けてくれない。
あの人らからの被害に遭うのは大抵、女性だ。
一般的に、小さくて弱いひとたちだ。
そんで、周りの人は、それを、無視する。
一般的に強くて大きい男の人も。
そりゃあ、だって、怖いもの。
被害に遭いたくないから。
巻き込まれたくないから。
それを、糾弾できる権利は私にはない。
私も、あの瞬間は動けない。



障害って、なんなんだろう。
障害、の一言で済ます大人はなんなんだろう。
しょうがない、の、一言で済ます大人はなんなんだろう。
頭がおかしかったら許されるの?
責任能力が無かったら、人を殺しても許されるの?
責任能力が無かったら、人に、怖い思いをさせても許されるの?
わけわからん。
そんなんだから、ローは嫌いだ。
更新していけよ、あと、もっと、考えろよ。
お前らの家族ぶっ殺されてみろよ。
それでも「死刑は駄目」とかなんとか、ほざけるのかっつーの。
ばかやろう。


逃げて、追っかけられる、怖さ。
障害ってなんなの。
私の知ってる、彼らは、温かい。
どんぐりあげたら、嬉しそうにハンカチに包んで、こっち見て、ありがとう、って、言ってくれた。
学校で会う度に、手を振って、私の名前を必死に覚えてくれた。
笑って、名前を呼んでくれた。
手をつないだら、ちゃんと、温かかった。
笑われても、ちゃんと信じてくれた。
私の名前を、大事そうに呼んでくれた。


お前らは障害じゃねえよ。
お前らはそういうのじゃねえよ。
その言葉に甘えるな。
ただの人間だよ。
皆ただの人間だよ。
考える事を放棄してるだけだ。
考えろ。
想像しろ。
想像を止めるな。
思考を止めるな。


だから、17歳の小娘に、キチガイ、だなんて、呼ばれるんだよ。
私は呼び続けるよ。
強くありたいから呼び続けるよ。
遠慮したら、一生、あの恐怖には勝てない。
一生、刃物が怖い。
一生、男性が怖い。
一生、人ごみが怖い。
一生、二人席が怖い。
物理的に強くなりたいけど、無理だったから、せめて精神だけでも強靭でありたい。
がんばりたい。




うさぎの人形を座らせ直す。
相変わらず不気味で、まぬけな白い顔をしている。
おかんの友達が、そいつを見た瞬間、会った事の無い私を思い出したらしい。
なんだかなあ。
なかなかに似てるのが、ちょっと嫌で、少しおもろい。