2010.07.19

「なぜ日本人の体型は胴長短足だったのか」1の⑦

・道具の形が違うということ



  「合理的だった動きがバラバラになった」、「伝統的なしぐさや姿態に変化が生じた」、今の若い人の身体を表現するのにぴったりな表現だと私は思いました。


 「近代化」によって、西洋の衣服、家具、作業用具が取り入れられてきました。私もこれが若い人が上手く身体を使えなくなってきた原因の一つだと考えています。


 さまざまな西洋の道具が取り入れられるようになってきましたが、なぜ日本と西洋では道具の形が違うのでしょうか。下駄や草履が靴に、和服が洋服に変わりました。食事をする時に日本人はお箸を使いますが、西洋人はナイフとフォークを使います。

 ここで二つの文章を引用してから話を進めていきたいと思います。


  文明とは道具の歴史である。からだの延長として、さまざまな道具がある。手の延長としてハンマーがあり、足の延長として車がある。道具のむれはやがて複雑な機械となり、機械をあやつる集団組織を生んでゆく。
 素朴なからだは、機械のむれのなかに埋没してしまった。

(前出『からだの日本文化』 多田道太郎著)



  道具は結局身体の延長であり、ただ材料や目的を思い切って限定したものである。たとえば、着物や家は皮膚や毛の延長であり、カタパルトはヒトが物を投げる時の腕の延長である。
(『ヒトの見方』ちくま文庫 養老孟司著)


 足の機能を延長して切り離したものが下駄や靴で、皮膚の延長が和服と洋服、手のそれがお箸とナイフ・フォークです。


 道具の形が違ったということは、身体の使い方が違ったということです。そして、その違う形の道具を使い続ければ、身体の使い方が変わってきます。箸で食事する時とナイフとフォークで食事をする時とでは、使われる手や腕の筋肉が違うでしょう。ふだんと使っている筋肉と違う筋肉を使い続けると身体の形が変わってきます。(おそらく身体の動作が変われば思考も変わります。)


 これが若い人の体型が変化してきている原因ではないかと私は考えました。

大正、昭和生まれの世代では、生まれた当初は日本の生活様式(日本の道具の多い環境)で育ち、日本人の身体の使い方の「型」を日本の道具を介して無意識のうちに身につけることができた。今はその応用で西洋の道具を使えている。


しかし、平成生まれの若い世代は、生まれた時から西洋の生活様式で育ち、「型」を身につけていない。


 次章では、日本と西洋の道具の機能の違いと、そこから解ってくる文化の違いについて書いていきたいと思います。


(第1章で、もっと書いておきたいことがあるのですが、上手くまとまらないので、後で番外編として後でまた書きたいと思います。)


・2の1道具が変わった文明開化


・1の①初めに

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595005935.html
・1の②実際日本人の体型はどのように変わってきたのか

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595008762.html

・1の③若者より高齢者の方が立つのが上手い

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595011330.html

・1の④胴長短足もカッコイイ

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595013752.html

・1の⑤体型の流行

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595014652.html

・1の⑥身体の形が違うということ

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595015828.html

・1の⑦道具の形が違うということ

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595019207.html


2010.07.14

「なぜ日本人の体型は胴長短足だったのか」1の⑥

・身体の形が違うということ



 身体の形が違うということは、その身体の機能が違う、得意とする動作が違う、ということだと私は考えています。


 スポーツ選手の体型を思い浮かべてみてください。スポーツ選手は、その競技によってみんな体型が違いますね。100m走、マラソン、走り高跳び、砲丸投げ、バレーボール、レスリングなど、みんな身体の形が違います。

 

 これは身体の機能が違うからです。競技によって、それぞれ訓練していく動作が違います。100mの距離をどうしたら誰よりも速く走れるか、42.195kmをいかに短い時間で走り切るか、どうすれば空高く跳び上がれるのか、重い球を遠くに投げ飛ばすにはどうしたらよいか、を研究し突き詰め、練習を積み重ねていくと、あの体型が出来上がるわけです。


 身体の形だけ真似しても、その機能が備わるわけではありません。身体の機能が、その形に表れるんです。


 身体の使い方が変わると、身体の形が変わってきます。

身体の形が変わってきているんですから、きっと若い人の身体の使い方が変わってきたのだと思います。どうして若い人たちの身体の使い方が変わってきたのか。

 また『養老孟司の<逆さメガネ>』からの引用になりますが、先生はこのようにおっしゃっています。


 それまで何百年も、この日本列島の中で体をいろんなふうに使ってきたんです。それなら全体に合理化され、統一された動きになるのは当然でしょ。動きは合理的だからこそ美しいのです。それをバラバラにしてきたのが、明治以来の「近代化」でしょ。


 

 国立民族学博物館助教授の野村雅一先生も、著書『しぐさの世界-身体表現の民族学 NHKブックス』でこのようにおっしゃっています。



 ひとはふだんつかっている以外の筋肉をなかなかつかおうとしないものであるとすれば、逆にまた、習慣的なしぐさの型に適合しない道具類は容易には採用されないことが予想される。けれどもまた、いったん新しい衣服、家具、作業用具などが導入されると、それにあわせて伝統的なしぐさや姿態に変化が生じるはずである。


「合理的だった動きがバラバラになった」、「伝統的なしぐさや姿態に変化が生じた」、今の若い人の身体を表現するのにぴったりな表現だと私は思いました。


・1の①初めに

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595005935.html
・1の②実際日本人の体型はどのように変わってきたのか

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595008762.html

・1の③若者より高齢者の方が立つのが上手い

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595011330.html

・1の④胴長短足もカッコイイ

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595013752.html

・1の⑤体型の流行

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595014652.html

・1の⑥身体の形が違うということ

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595015828.html

・1の⑦道具の形が違うということ

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595019207.html

2010.07.12

「なぜ日本人の体型は胴長短足だったのか」1の⑤

・体型の流行



 江戸時代の日本では、胴長短足の体型が美しいとされていました。

 日本人論などについて数多くの評論を書き、現代風俗研究会の二代目会長を務めていたらっしゃった、故 多田道太郎先生は『からだの日本文化 潮出版社』で、このようにおっしゃっています。

 西洋では、ルネサンス期、第二帝政期のように、ウエストを極端に細くすることが流行した。が、日本の江戸期では、ウエストどころか、バストもヒップも、無きにひとしくすることが美女の条件となった。


 むかしは西洋人と日本人とでは、身体に対する美意識が違ったようです。多田先生はさらにこうもおっしゃっています。


 むかしの子供は野暮な女をあざけって、「鳩胸、出ッ尻、十三文、甲高、親指外曲がり」とはやしたそうである。いってみればこれが、お仙の対極にある女性像といえようが、何の事はない、マリリン・モンローの美を江戸の言葉で嘲笑したようなものだ。モンロー側からすれば、お仙など「撫で肩、胴長、針金娘」ということになろうか。

「美」はこのようにはかなく、もろいのである。社会と文化とによって、変わってしまう。「鳩胸」のひとも「胴長」のひとも、いたずらに恥じいることはない。

 きっと「拾う神」―つまり、拾う文化はある。



 お仙人は、江戸時代を代表する美女の名前です。西洋や現代の日本ではバスト、ウエスト、ヒップのメリハリのついた凹凸のハッキリとした身体が美しいとされていますが、むかしの日本では凹凸の少ない平坦な身体の方が美しいとされていました。

 

 このように、むかしの日本人が美しいとしていた体型は、西洋人のそれとはほとんど真逆のものでした。

 後述していきますが、この体型の方が和服が映えるんです。また、服装に限らず、日本の美意識は表に出して表現するのではなく、「内に秘める」表現なんです。

 西洋の女性の体型を観察すると、手足が長く、バスト、ウエスト、ヒップの凹凸がハッキリしていますが、筋肉もしっかり付いています。フィギュアスケートを見ていると、アジアの浅田真央選手やキムヨナ選手に比べると、西洋の女性は筋肉質でなんだかゴツゴツしている気がします。

 最近は日本の女性も西洋人のような体型に近づいてきましたが、筋肉が全くついてないように見えます。ただ痩せて筋肉を削ぎ落として細くなっているだけのように思えてなりません。やはり西洋人の体型とは何かが違うようです。

 

 ただ体型を真似ることだけに夢中になるのではなく、一度その体型の機能について考えた方が良いんじゃないか、と私は考えました。



・1の①初めに

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・1の②実際日本人の体型はどのように変わってきたのか

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595008762.html

・1の③若者より高齢者の方が立つのが上手い

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595011330.html

・1の④胴長短足もカッコイイ

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595013752.html

・1の⑤体型の流行

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595014652.html

・1の⑥身体の形が違うということ

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595015828.html

・1の⑦道具の形が違うということ

 http://ameblo.jp/dounaga-tansoku-karada/entry-10595019207.html