自民党参議院議員長谷川岳氏(以下、HGと略す)のパワハラ問題がひとしきり話題となった。動画サイトで著名歌手が取り上げたことで、全国的にも名前を知られるところとなり、北海道ではもちろん連日のように報道された。

 

当初の動画サイトでは、HGが飛行機内のCAに対し非常に高圧的な言動を行った事実が明かにされ、その後、この航空会社ではこの人物が搭乗する際の注意事項が現場に事細かく指示されていた事実も明らかになった。

その後、こうしたパワハラは航空会社(のCA)だけでなく、北海道庁、札幌市役所の幹部職員にも及んでいた事実が次々と明るみに出て、実際の録音テープまで公開されるところまでいった。

しかし、本人は「パワハラであると認識しているか」とのメディア等からの取材に対し名言は避け、議員辞職を否定し現在に至っている。

 

HGについて、このブログで再び叩くことは簡単だ。しかし、ここでは別の視点から、批判ではなくあえて擁護する観点からこの人物について少し考えてみたい。

 

HGは、北海道での初夏の風物詩としてすっかり有名になったよさこいソーラン祭りの創始者としてそれなりに有名である。実際、ウィキなどを読んでも(それ以上の資料等にあたる気はもちろんない)、このときの成果を実績として政界に打って出たようだ。もっとも、被選挙権を得た1996年(平成8年)に、初めて衆議院議員総選挙に無所属で立候補したものの落選、その後も2009年(平成21年)まで自民党公認で2回(計3回)立候補するも落選。結局、衆議院議員総選挙で勝ったことはなく、2010年の参議院議員選挙で自民党公認で北海道選挙区から立候補して初当選、以来現在に至るようである。

 

よさこいソーラン祭りについては個人的には全く興味がない。しかし、地方都市とはいえ、学生の身分からこの手の、最初は海とも山ともわからぬものから形にし、地元の学生やごく普通の道民、さらには経済界、マスメディアなども巻き込んで全国的にもそれなりに知名度のあるイベントにまで育て上げた手腕、エネルギーといったものは、特筆に値するのではないだろうか。通常なら豊富な資金と政治力、人脈をバックにした大手広告代理店等の出番である。その行動力や実行力等だけをとっても、政治家に立候補する資格は十分あったと筆者は考える。

 

しかし、彼は総選挙では常に勝てなかった。地盤、看板、カバン。どれがどうかは知らないが、そういうものが決定的に欠けていたのだろう。そりゃそうだ。今の国会議員の惨状を考えて欲しい。有能でも2世、3世といった世襲議員でないとなかなか政治家になれない。世襲でないなら、あとは無能でいいから元アイドル、元タレント、元スポーツ選手といったような知名度が無ければ、党の公認が出ないであろう。参議院議員とはいえ、よく健闘したと思う。実力で永田町の一員となった数少ない事例ではないだろうか。

 

特に今の北海道から輩出されている与党の国会議員にはいわゆる「大物」がいないといわれている。自民党の参議院議員といえば、無能で何一つ「これをやった」といえるような実績が無いにもかかわらず北海道知事を4期16年も続けた、ついでに国会議員になったら裏金も20万円くらいつくってしまったT氏などもいるが、一体国会でどういう仕事をしているのか全く不明でお話にならず、「元ナントカ」というのとあまり変わらないレベルの仕事しかしていないのではないかと思う。

 

そんな中にあって、HGは、世襲でもなく元アイドルでもなく、実際に仕事をしてみせることでしか自分が政治家として生きる道はない。鈴木宗男氏あたりとどこか通底している。

実際、DX・金融資産運用特区の指定などについては、メディアの報道等によれば、かなり力を入れていたようである。道職員や札幌市役所職員などというのは霞ヶ関ではうまく立ち回れない。そもそもが相手にされないし、政治家、それも与党の政治家の力を借りなくては特区の指定など勝ち取れない。

 

参議院議員ということで、衆議院議員に比べればそうでなくても見劣りしてしまうところ、このHGはパワハラも(恐らくだが)武器にしながら、それと紙一重の「本気にさせると怖い政治家」というセルフイメージをつくりあげ、その手法についてはともかく結果は出したのである。HGのパワハラ言動を問題視するのはわかるが、では他に代わりの政治家はいたのであろうか。答えは恐らくノーだ。何も問題ないかわりに仕事もしない者は大勢いるが。

 

因みに筆者の知っている北海道選出の野党の国会議員は、今が国会(選挙)で大事な山場であるというのに、相変わらず毎晩、繁華街を飲み歩いていると聞く。国会で見せ場のある質問もしようとしないこの手の税金泥棒のなんと多いことか。

もちろん、有能な政治家はここ北海道にもいる。個人的に尊敬するのは元ニセコ町長であったO氏などだ。いつか機会があれば彼のエピソードなども紹介したい。しかし、この手の案件は野党の議員ではまとまる話もまとまらない。道職員や札幌市職員が普段議会対策で野党議員への根回しや対応を二の次、三の次にしているのと同じことだ。

 

与党であること、そして力があること。力が足りないならそれを補うエネルギーがあること。そういう議員に頼らなければ進まない話というのは特区に限らず多い。

それが良い悪いの話ではなく、現実がそうなのだ。

野党の国会議員に聞くと与党時代と野党の現在では、「霞ヶ関」という名の「国」が進めようとしている行政政策について入ってくる情報量が圧倒的に違うとのことだ。悔しかったら与党になるしかない。

 

もっとも最後にこれは書いておきたい。

国会で「国の」予算が成立したときに、国会議員に感謝のメールを送ることを道庁のある部局が他の各部長あてに申し入れたとのことで、もちろん流石のHGもこんなことを要求した事実はないようであり、完全に道庁の自己満足だ。つくづくバカバカしい話で、議会事務局の職員が議会の開会中に議員の動向についてトランシーバーで「今、どこそこの部屋に向かった」などとやりとりをしていたのを新人職員が見て道庁を退職したという話(北海道新聞の記事の記憶から)と同じくらい情けない。

 

「ねぇ、バカなの?」