昨日の北海道新聞で道立近代美術館の老朽化対策の話が出ていた。
 

教育庁(北海道教育委員会)は2022年1月に外部有識者会議を設置し、先月5月に改修、現地新築、移転新築の3つの整備案を示したとして、今回はそれぞれのメリット、デメリット、工事に伴う休館期間、環境への影響、建設費、50年分の維持費を含む費用総額といった項目で、道民(北海道新聞の購読者)は今日の新聞である程度の詳細を知るところとなった。
 

積算の根拠は全く不明で、現地改修の場合の費用が最も安価であることは常識的に考えてわかるが、現地新築よりも何故か移転新築の方が建設費と費用総額は安くなっている。
 

費用の観点から言えば、それぞれ幅はもたせてあるが、最も安くあげる場合で費用総額は335億円(現地改修)、逆に最も費用がかかる場合が現地新築の520億円(現地新築)とのことだ。まぁ、道としては移転新築としたいのだろう。
 

しかしだ。北海道の昨今の一会計年度の一般会計の予算は3兆円(特別会計は1兆円)である。最も安くあげる場合と最も費用をかける場合とでも、一般会計予算の内の1%~2%の範囲内である。しかも、上記費用はあくまで「50年分の費用総額」ときている。であるならこの場合の費用の差はもはや誤差のレベルだ。
まして作成しているのは教育庁の道職員である。減価償却の意味さえ満足に理解していない職員が殆どの道職員(他の都府県も東京都を除き似たようなものだと思う)が立てた計画案である。
また、こう言っては身も蓋もないが、そもそも美術や美術館に特別に造詣が深い職員というのも当事者の学芸員を除き恐らく殆どいないはずだ。いたとしても、そういう職員をこの部署に配置するなどという人事も聞いたことがないし、まず考えられない。
 

ここで、整備案とは有識者会議のメンバーが汗をかいて作成したものでは?と思う方がいるかもしれないが、ありえない。
有識者会議というのは、道職員があらかじめ作成した案を、あらかじめ作成されたシナリオ(本当に担当の道職員が作文までしてつくる)に沿って「検討」(殆どの場合、その場で資料を渡され黙読)し、司会の道職員が「意見はございませんか?」と意見を求められたら、多少の意見は言ったとしても(それも結構レア)結果的には司会の言う通り(今回の件でいえば、3つの案とそれぞれの費用の積算結果やメリット・デメリット等についての内容・表現等の承認といったところか)になってお開きとなる。謝礼と交通費はあとから振り込まれる。それが外部有識者会議というものだ。参加者は「有識者」として道から呼ばれただけでその肩書きを名刺に書けるので、何も波風を立てないようにするのが次の別の有識者会議に呼ばれる賢い生き方だ。まして費用の積算などを有識者会議のメンバーがするなどという話は聞いたことがない。
 

しかし、この発表で一体道民にどうしてほしいのであろう、というか道民はこれから何ができるのだろう、言えるのだろう。
新聞によると道内主要6市の道立美術館やインターネットで昨年10月から今年の2月にかけて、既にアンケートは実施済みで850件の意見を集約済みとのことだ。
その方法から言って、本来的に美術館に興味のある人の意見しか拾えていないはずだ。
 

有識者会議の設置や審議、道民アンケートの実施など、どれも従来から行政のアリバイづくりと批判されてきたものばかりである。
 

新聞では「道は今後、有識者会議の議論を踏まえ、年内にも3案から1つを選び、基本構想を策定する方針」とある。やはりあとはもう決まってしまうだけのようだ。
 

有識者も含め一通りの道民の意見を聞いたというアリバイづくりが終わって、それを道民に周知したというアリバイをつくった今、あとは道議会の与党の先生方にお伺いをたて、基本構想とやらを作成し、今度はまた与党議員を中心に根回しに動くだけだ。来年の夏には財政当局との予算折衝に入りたいであろうから、基本構想とやらの議会決定(と道教委委員長決裁)は今年の3定(第3回定例道議会)か4定、遅くても来年の一定が目標となるはずだ。
 

なお、昨年2月に「有識者会議が作成した」中間報告で新しい近美のコンセプトとして示された「くつろぎ空間」としての魅力向上や「子どもたちの学びの場としての機能の強化」といった文言は今回の上記整備案では記載がなかったとのこと。有識者会議のメンバーからもさすがに不平が出ているという。