小説指原莉乃SP「しぇからしか、乃木坂! 〜まいやんのピンヒール」中編  | 散り急ぐ桜の花びらたち~The story of AKB.Keyaki.Nogizaka

散り急ぐ桜の花びらたち~The story of AKB.Keyaki.Nogizaka

小説家を目指しています。ゆいぱる推し 京都地元大好き 鴨川のせせらぎと清水寺の鐘の音の聞こえるところに住んでいます。

 
 
 
 
クリスチャンルブタン。
彼が造ろうとしたのはナイトクラブのショーガールの為の靴
今では全ての女性の憧れの靴の始まりは
夜のスポットライトに浮かび上がる妖しき女たちの足元を彩る為の物だった
彼女達を美しく見せる、よりセクシーに魅せる
ステージで輝くためなら履きやすさ何て二の次
履いた瞬間に襲ってくるつま先の痛さ
いつ折れるとも知れぬ極細のピンヒール
痛みを知れ窮屈さを知れ怖さを知れ
そしてそれを履く自らを誇りに思え
秋元康が乃木坂に贈ったメッセージ
生駒里奈や白石麻衣に伝えたかったもの
それは彼女たちに届くのだろうか
 


 
 
                       

「君の名は希望 まいやんのピンヒール」前編 はこちらから

 

 

✩✩

 

 

 

2015年NHK紅白歌合戦リハーサル初日、

私達の手元に届けられたのはルブタンの真っ赤なピンヒール。

ヒールは15,6センチほどのルブタン特有の高さ。
その漆黒のエナメルブラックにフロントには真っ赤なハートがあしらわれ

鮮やかなビビッドレッドのソールは誰の目にもルブタンでござると言った主張がそこにはあった。

 

「わぁ、ちゃんとイニシャル入ってるよ」
真夏の声が弾む。

 

「ほんと、レンタルじゃないんだ」
ソールの表と裏に光るIRのきらびやかなゴールドの文字を見て
乗り気じゃなかったはずの生駒里奈の顔にも、やっとこ笑みが零れた。

 

「えらい出費だよね秋元先生も」と私(白石麻衣)

 

「ポケットマネーなの?」

 

「あの人の思いつきだからねほとんど。運営にも事後報告みたいだし」

 

「NHKには?」

 

「それは抑えたって言ってた。いくら何でも制作サイドにサプライズは通用しないからね」

 

ゼロポジと両サイドだけがルブタンのピンヒール
違和感は誰の目にも明らかだし何よりちゃんと踊れるかどうかが微妙。

いくら了解は得られたと言ってもダンスでちゃんと足元が捌き切れなければ当然NGがかかるだろう。

 

「でもぉリハに履かなくてもぉいいんじゃなぇ?」

 

部屋の隅からかずみん(高山一美)の滑舌の効かない大きな声が飛ぶ。
NHK本館の大スタジオが今日の私達の控室。
48グループと一緒の言わば呉越同舟の状態だ。
それぞれ別に割当てられてはいないけど自然に真ん中にAKBを中心とする超選抜が陣取り

周りにその他大勢の本店支店のメンバーたちが思い思いに座っている。

私達は出口に近い端っこ。誰かが最初にそこに陣取ったのかそれとも予め大人たちにここを充てがわれたのか、

それは知らないけどとりあえず私達は無難で安全な位置には居る。

 

「本番ぶっつけでぇやってぇサピュライズでいいんじゃなぃ?」

どこの国だかのなんちゃら語に聞こえるかずみん。特に熱くなってきた時のこの人の滑舌はホントにひどい。

でもそれもこれも引っくるめて彼女の愛されるキャラがあるんだけど。

 

「ごんなそばでまじまじと見られだらぁ
なぁにを言われるか分がんないもぉん!」

 

「言うかなぁ」

そんなかずみんにはいつもはここぞと突っ込みを入れる里奈も今日は浮かない顔だ。

口を尖らせながらぼそっとまわりの同意を求めるように反論する。

里奈は昨日からいつもの里奈じゃなかった。

48グループとの関係性で最も辛い立場に立つのは彼女だ。

(帰ってこなくて良かったのに)

そんな声をAKBとの交換留学が解けて数か月経った今でも耳にする。ネットでも。それにメンバーの中からも。

里奈がその意に反して背わされた十字架は今も尚彼女の背中にべったりと張り付いてる。

 

「こっちが構えるほど向こうは意識してないようちらのこと」

 

「そぉれは生駒ちゃんにばそうでしょうおよぉ」

かずみんがテーブルを挟んで乗り出すようにして被せてくる。

 

「どういう意味よっ!?」

 

 

 

気がつけばテーブルの上のルブタンのピンヒールを取り囲むように10人ほどのメンバーの輪ができていた。

二人の言い合いそっちのけで、

「うわっクリスチャンルブタン初めて見た」「限定品っていくらぐらいすんの?」「まぁ全うな人は一生履けないぐらいの値段」

「ヲタさんたちにおねだりしちゃおっか」「でも踊れる?こけない?歩けんの?」

と何やらかしましい。

 

「意識しすぎだよ。もうそういう時期は過ぎたんじゃない」
秋元真夏の声に頷く子もいればいやいやと手でその声を制する子もいる。

 

「ハイハイ!」

 

「手を挙げなくていいよさゆりん。それにあんたも声が変に弾んで大きいし」
 

 「だって被害者がメンバーに結構いるよ。

 私も歌番のリハでグッチのTシャツが被ってさ、オーバーサイズのブラックのやつ。

穴の開くほど舐め回すようにガン見された上に

なんで?なんであんたが?どうゆうこと?って言われたことがあるから」

とさゆりん(松村沙友里)

 

「誰によ?」

 

「知らないヒト。周りには有名なメンバーさんもいたけどね」

 

さゆりんの声に背中を押されたのか私も私もという手が胸の前で小さく上がる。

メンバーの中に少なからず漂うAKBへの疎ましさがぽろぽろと顔を出し始める

それは小声で喋ってはいるものの女子の嗅覚を持ってしたらこういうのは驚くほどに伝わるもので、

先ほどからのざわつきが嘘のように静まり返ったスタジオ内にはなにやら重たい空気が漂い始めていた。

 

「結局ぅみんな胸の中はもやもやすたものぁがあるっていうことっしょ。
うちらは公式ライバルでAKBの二軍やBチームじゃないのにぃ向こうはそっ思ってるんだから」

 

「だからかずみん、あんた声が大きいって」

彼女の声の大きさに思わず真夏の掌がその口元へ伸びる。





 

 


そんな秋元真夏とみんなのやり取りを横目で見ながら私の視線は部屋の中央をずっと捉えたまま。

ちらちらとこちらを見やる数人のメンバーの陰が気になっていた。

 モニターから流れてくるリハーサルの音楽は小さめ。時折聞こえる誰かしらの軽い咳払いがそれに重なる。

もう話し声は私らの声以外は聞こえない。おそらく真ん中の人たちの耳はダンボになっていることだろう。

 

「もういいよその辺でやめとこ」

出たぁ、私の中の良い子ちゃん。

言いたいことは誰より山ほどあるのに治める方に回ってしまう。

私は所詮切なくて情けないいつも腰が引けてるまとめキャラなのか。

リーダー気取ってキャプテンシーを、さもゆとりこいて見せてるけど、

ほんとは高山や松村よりももっと弾けて言いたいこと言って生きたい

そう願ってやまない人間なのに。

不平や不満は溜めれば溜めるほど傷口はどんどん大きくなるのを何より知ってるのは私なのに。。

 

「とりあえず履いて足動かしてみよ。そこそこの高さのヒールなら履いて踊ったこともあるし、なんとかなるんじゃない..」

 

 このままじゃダメだ、このままじゃ私達はAKBの予備軍で終わる、

そう思いながらもまたいつものように小さくまとめてしまう自分がいた。
 

その時だった。

 

 

 

「クリスチャンルブタン、舐めない方がいいよ」
 

低いけど張りのある艶っぽい声が頭越しに聞こえた。
テーブルを挟んで対面のかずみんが口を掌で抑えながら目を丸くして唇をあわあわさせる。

まるで餌を貰うために水面に顔を上げた出目金魚のように。

さゆりんはと言えば「し、しのしの..」と何やら呟き、震える手で出口を指差した。
みんながその声に促されるように振り向くと出口のそばに板野友美と篠田麻里子が立っていた。

 

(なんでいるのよあんたたちは...)
今にも零れそうなそんな心の声をぎゅいっと喉元へ押し戻す。

 

超まずい展開。。。
生駒里奈はもうテーブルに突っ伏したまま顔をあげようとはしない。
秋元真夏は頭を手で抑えたまま私とにらめっこ。かずみん以下は口をあんぐりさせたままその場にに凍りつく。
 

「おしゃれは我慢、それを文字通り具現化したのがルブタンだよ。
初めての子は歩くのももどかしさを感じる。
三分も歩けばあちこち痛いってなる。
だよね、ともちん?」

 

 「まあね」

ふわりと掻き上げたブロンドヘアから現れたその微笑みはまさに神だった。

現役時代に接点のなかった私たちには彼女たちはまさに神格化された存在。

 

「止めたほうが無難かな
超選抜メンでもなんとかステップ踏めるほどだから
体の中心が崩れてたら普通にこけるよ、振りなんか入れたら」

 

なぜこの日OGメンの二人がこの場所にいたのかは分からない。

 でもいつの日にも麻理子様とおしゃれモンスターともちんの言は海より深く鎌倉の大仏様より尊い。

彼女たちは秋元グループの言わば不文律。抗う選択肢など露ほどもあってはいけないのだ。

 

ただ私はこの日の前夜からずっと考えていた。
なぜ秋元先生がこんなしょうもないと言ってはなんだけど

私達の中に無用とも思える波風を立たせようとしてるのか。

先生は何をしようとしているのか私達に何をさせようとしているのか。

いくら思いを巡らしても私の中で答えは出ないけど

ただひとつだけこれだけは言えた。

秋元先生は今の私達にイエスとは言ってない。

そう、私達は私はNoと言われてるんだと。

そんな想いがこの時ふと大きく頭をもたげた。

そしたら急に。。。

 

 

 

「やってみないとわからないし...」

 

「うん?なに?」

 

この時、真夏が慌てて何度もアイコンタクトを試みたらしいが私の顔はもうあらぬ方へ吸い付けられたまま微動だにしなかったらしい。

そう、私の中で二人の神に刺激され鬱積していた何かが目覚め始めていた。
そうですねの一言で何事もなく収まったはずなのに
それを私は。。。

 

「ヒールやパンプスは私達は履きなれてます。
Popで跳んで弾けてるのが取り柄のAKBさんと違って、私たちは..」
言ってしまってから青ざめた。取り柄って他に言い方あるじゃん。

これは絶対ダメなやつ、煽ってると同じやん?。。

 

「AKBさんと違ってなに?」
 

それでもまだ麻理子様の中には微笑みは消えていなかったと思う。

まだ今なら間に合った。それを私は。。

 

 「ち、違って清楚さがメインで。だ、だからそれほど大きなステップは踏まなくて良いし。だから...」

 

「だからこける訳なんかない、そう言いたいの?」

 

「....」

 

「違うね。

要は基礎的な筋力といかに履きなれてるかの場数。

それがないとこの靴は履けないし足の自由は効かない。まして踊るなんてうちらの選抜でもできるかどうかだよ」

 

みんなが注視している。それを背中で肌で感じていた。

冷静になってみれば取るに足らないちょっとした強めの言葉のキャッチボールかもしれない。

でも、ここを乗り越えないと私達は何者にもなれない。

この場に及んでヘタレの私がそう思った瞬間だった。

 

 

 

「皆さんができないからって私たちもできないってなぜ言い切れるんですか?
私たちが皆さんより劣ってるって何故決めつけるんですか!?
私たちは皆さんのお味噌じゃないし、私たちは。。。」

 

 

 

 

「やめや、杏奈!」

 

麻里子様の叫びが間に合わなかったんだろう。

スナップの効いた回転が掛けられた紅白の分厚い台本が私の後頭部を目掛けてきれいな弧を描いてスタジオ内を舞う。

 

「痛っ!」

 

「 しぇからしかね、乃木坂!」
 

吠えたのは博多の鉄砲玉と言われて久しい村重杏奈だった。

 

 

 

 

 

✩✩

 

 

 
 
 
後編につづきます~♪( ᴗ͈ˬᴗ͈)◞❤︎*˚

 

 
 
 


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