森田童子の美学Ⅱ

森田童子の美学Ⅱ

※jugemの同名ブログから移動しました。
「はじめに」からどうぞ。
長いトンネルを抜けて、開いた扉がここだった。
時と空間を超えて、森田童子の美学の世界へ―。

今日は六月一日です

 

 今日いちにちはきみに会わない 

今日だけは部屋のなかでさみしい王様

 今日は六月一日です 

だから夢でぼくの影に やさしく話して喜ぶ 

今日はなんて自由な一日だろう 

なんて気ままな一日だろう 

なんて静かな一日だろう  

なんて悲しい一日だろう 

なんて今日はいい一日だろう 

まるでぼくは今日一日を 美しく生きたい人のようです

 

※レコードに収められなかった曲。「六月一日(いちにち)」と読む。

友人は「なんて気ままな一日だろう」のあと「なんて淋しい一日だろう」と記憶していた。

六月一日は「無為の日」だと何かで読んだことがある。
その真偽を調べようとするなかで、釈迦の前世といわれる「雪山童子」(せっせんどうじ)の記述を目にした。

無為の日、いろは歌、雪山童子、森田童子。繋がるのか、偶然なのかー。

 

BS・TBSで、「高校教師」が再放送されている。

野島伸司脚本、桜井幸子&真田広之主演の1993年版だ。

第3回放送まで、使われている童子の曲は「ぼくたちの失敗」1曲のみ。

 

 春のこもれ陽の中で

 君のやさしさに

 うもれていたぼくは

 弱虫だったんだヨネ

 

センセーショナルな内容と展開とは関係なく、透明感のある童子の歌声が随所で流れる。

歌だけでなく、時にはインストでー。

 

以前も、「高校教師」について書いた。

1993年1月、ドラマの放送が始まったとたん、当時を知る友人から次々と連絡が入った。

十数年ぶりで聞く声、懐かしい友からの手紙。

 

不思議な感覚だった。

整理券を配り、チラシを貼り、ライブハウスや小劇場、東京カテドラル聖マリア大聖堂、黒テントを埋め尽くしても、すべてのLP数万枚売れたかどうか。

それが、ドラマ化されたとたん、CD化された「ぼくたちの失敗」はオリコン1位、約90万枚の大ヒットを記録。

すでに童子が現役を退いて10年という時が経っていた。

 

もちろん、マスコミがいくら騒いでも、新たなファンが一目本人を見たいと望んでも、二度と童子が人前で歌うことはなかった。

こんな形で注目される日が来るとは夢にも思わなかったが、嫌な感じはしなかった。

いや、むしろ素直に嬉しかった。

このドラマにより、童子とその作品たちにスポットが当てられたのだから。

 

前田さんと電話で話した件は、以前の記事に書いた通りである。

なぜ、あの時、前田さんと会わなかったのだろう。

なぜ、あの時、別の名前で作った童子の曲について詳しく聞かなかったのだろう。

 

絶対に開くことのない透明な箱にしっかりと「森田童子」は納められた。

どんなに解き明かそうと試みても、それは本人から答えを得ることはできず、「試み」でしかない。

 

しかし、数十年、いや百年経っても、

この世に音楽を聴く手段が残されている限り、

童子の歌は聴き継がれていく。

 

何度でも言おう。

童子の歌は、時空を超えて「いま、リアルに作用する」ものなのだ。
初めて聴く人にも、久しぶりで聴く人にも。


そう、必要な時、必要な人に、必要な童子の言葉が降りてくる―。

 

 

いま、童子の歌を聴きながら書いている。

私たちが住む場所と時代に生誕した、この特別な日にー。

何と透明で美しい声だろう。

いつ聴いても、変わらずやさしく包み込んでくれる。

 

どんなに童子を穢そうとする者がいても、

それは叶うことのない謀に終わるだろう。

天に唾を吐く者は自分に返ってくるだけなのだから。

 

真っ白な雪の世界に

泥のついた靴で踏み込もうとも

天から降り注ぐ雪で消されていく。

そして、真っ白な雪に覆われて

春になれば、すべて溶けてなくなるだろう。

光射す頃、そこには菜の花畑が広がるはずだ。

 

ぼくときみは

雪にうもれて

もう見えないヨ

白一色世界
ああきれいだネ
きれいだネ いい気持
雪よ降れ んーん
雪よ降れ んーん


【「夜想忌 森田童子大全」発刊のお知らせ】
JOJO広重(非常階段)三上完太監修による森田童子の書籍「夜想忌 森田童子大全」が4月1日に発売される。
本書は2018年4月に死去した森田の真実を伝える初の書籍。関係者へのインタビューをはじめ、寄稿、本人自筆コラムやインタビュー記事の再録、直木賞作家・朱川湊人のオリジナルストーリーなどが、森田の遺族許諾のもと360ページにわたり掲載される。また1978年にFM東京(現:TOKYO FM)で放送されたスタジオライブを収録したCDも付属する。
監修:JOJO広重 / 三上完太
関係者インタビュー:石川鷹彦 / 谷山浩子 / 佐藤信 / 佐久間順平 / 竹田裕美子 / 千代正行 / 高橋研 / 松村慶子 / 麻生静子 / 市川義夫 / 島村満博
寄稿:内田雄一郎 / Grimm Grimm / 佐井好子 / 見延典子 / 高橋伴明 / 野島伸司 / 桜井幸子 / 大森靖子 / しーなちゃん(東京初期衝動) / and more
論考:笠井嗣夫 / TAKU(青い旗の会) / JOJO広重 / and more

※2022年1月15日 15:00 音楽ナタリー 発表記事より