らんはベッドに移しても眠ったままだった。
シッターさんはしばらくらんの様子を伺って。
よく眠ったままなのを見て、ようやく僕の側までやって来た。
シッターさんの仕事は子どものお世話。
親である僕のお世話は仕事内容に含まれない。
動こうとすると体のあちこちに鈍い、でも強い痛みが起こる。
小さく噛み殺した呻き声にも驚かず。
床に寝っ転がったままでも焦らない。
そのままで今日の出来事を申し送った。
僕のお世話は仕事じゃないのに、ついでなのか?
僕の様子も見てくれる。
看護師の資格も持つシッターさんは頼もしい。
骨折はしていないようだ、と言われてホッとした。
捻挫くらいだったら、なんとか痛み止めでごまかせるだろう。
いつもと同じようには踊れないかもしれないけど。
体が覚えてる。
らんにはおでこに冷却シートを。
僕には保冷剤とバンダナで足首を固定しつつ冷やして。
肩の辺りもあまり動かさないようにバンダナを巻いてくれて。
なんとなく楽になった気がする。
ちゃんと専門家に見せるようにと言い含められた。
そろそろレッスン場に向かう時間。
着替えが入ったバッグを持って、玄関から出るとマネージャーがいた。
いつもは地下駐車場の車で待ってるのに。
軽く状況説明しておいたから、心配してきてくれたんだろう。
インターホンを鳴らさないのはらんが寝てるって知ってるから。
それでも僕の電話に連絡くれれば、すぐに出たのに。
焦らせないように気を使ってくれる。
いいマネージャーだな、って。
また思う。
僕は周りの人に恵まれてる。
嫌な人がいなかったわけじゃないけど。
それも全部何かの糧にはなってると思うから。
大して重くもないバッグを僕の手から取る。
ひょこひょこと片足をかばうように歩く僕に肩まで貸してくれる。
ぼくよりずっと背が高いから、僕の背に合わせてちょっと屈みながら。
それで歩くのはすごいしんどいはず。
僕は大丈夫だから、って遠慮したんだけど・・・
これでまた転ばれて踊れなくなったら困ります、って言われて。
これもマネージャーの仕事の一部なんだと思うことにして。
ありがたく肩を貸してもらった。
痛む足にかかる負担が全然違うから。
マネージャーがあえて、なんだろうな。
業務連絡を伝える感じの口調で。
事務所専属のスポーツトレーナーの手配をしたから。
レッスン場で診てもらえることになってる、と。
さらっと大事じゃない風に言われて、なんか・・・
なんか・・・ありがたかった。
駐車場の車は後部座席がフラットにされていて。
ブランケットとかクッションとか。
準備されていて。
僕が楽な体勢を取れるように、って心遣いが見えた。
あぁ・・ホント・・・僕は恵まれてる。