「今年も暑いねぇ。

なんだか年々暑さが増していってる気がするね」

 

庭ではひまわりが強い日差しに負けずに咲き誇っている。

涼しい風を待ってるのは人間だけなのかな。

庭を眺めながら翔くんお手製の麦茶を一口。

何回教えても翔くんは麦茶以外のものは作れるようにはならなくて。

僕は早くに諦めた。

苦手なことを無理にしてもらわなくても。

お互いできることを分担しあっていけばいいんだしね。

 

お茶うけは僕が漬けた梅干し。

今年出したのは前回のオリンピックの年に漬けたもの。

毎年、夏にロケに行く翔くんにお手製の梅干しを持たせてたけど。

この梅干しで最後になるかな。

チリンと風鈴が鳴った。

 

 

「ちょっと風が出てきたかな」

 

隣に座る翔くんが団扇をパタパタとしながら梅干しを口に含む。

ついでに指先も舐める。

酸っぱくて塩っぱくて。

まるごと食べたら、くーってなるって分かってるのに。

翔くんはいつも梅干しを一口で食べる。

そのたびに顔をくしゃっとさせる。

イケメンが台無しだよって言っても。

“そんな俺も好きなんでしょ?”って全部お見通し。

 

 

「んーっ!この塩っぱさ!

この塩っぱさが夏場にはいいんだよなぁ。

智くんの梅干しはアスリートの皆さんにも好評だったんだよ」

 

翔くんは取材対象のアスリートの方々にも振舞っていたらしい。

美味しいものを食べ慣れているみなさんに・・・なんて。

恥ずかしいし・・・お世辞に決まってるのに。

初めてこのことを知った時にはやめてくれ、ってお願いしたんだけど。

たくさんのアスリートの方からリクエストもらったらしくって。

翌年から漬ける梅干しの量を増やすことになった。

僕も梅干しを口にする。

たまには翔くんみたいに一口で。

ちょっとためらないながらも口に放り込んだ。

くーーーっ!酸っぱい!

よくこんなの一口で食べるよねぇ。

しかめっ面しながら翔くんのことを見返った。

翔くんはいたずらっこみたいに、ふふって笑って。

梅干しの種を庭にプッと飛ばした。

 

軒先にぶら下げたすだれが風で揺れた。

チリンと南部鉄器の風鈴がまた鳴った。

 

 

「さ、そろそろ、中に入ろう。

これ以上、陽にあたってたらまた熱中症になっちゃう」

 

「そうだね。

智くんと別々に寝ることになったら、寂しくて眠れなくなっちゃうから。

それは困るなぁ」

 

翔くんは目尻にシワを寄せて微笑んだ。