船長は僕たちのことを上から下まで見た。

それはお揃いがどうとか、じゃなく。

釣り船にお客さんを載せる時の装備を確認する目だった。

海の上は危険が伴うから、そのチェックは欠かさずしてる。

 

 

「うん、オッケーだ。

お客さんに注意しときます。

うちの船は手すりはないんで。

よっかからないようにしてくださいね。

海に落ちますから」

 

僕を見て船長がニヤリと笑う。

それは僕の失敗!

翔くんはそんなことしないよ!

僕がずっと見てるから!

翔くんも僕を見てた。

 

 

「・・・気を付けてね」

 

照れ隠しに目を逸らした。

船に案内されると、釣道具が全部載せてあった。

 

 

「船長、ありがとう。

今日はどんな風に攻めればいいかな?」

 

「うーん、初心者はワームの方が扱い易いだろうな。

スプレーも入れといたから使ってやるといい。

大野さんはルアーだろ?

ボトムからもうちょっと上あたりを狙うといい。

気温が上がってきたら、魚も上に上がってくるから

ちょっと遊ばせる感じでな」

 

僕と船長が話してる間、翔くんは船でウロウロしてる。

僕のタックルボックスを眺めてみたり、釣り竿を持ってみたり。

もやいを解いてロープを放り投げた。

 

 

「行ってきます」

 

「おぅ、健闘を祈る」

 

手を上げて、操舵室に入った。

 

 

エンジンをかけるとブルルンと音を立てる。

ゆっくりと離岸する。

初心者の僕でもなんとかなるように。

周りの船が出払った時間にしてもらった。

 

 

「翔くん、出発するよ」

 

声をかけると、慌てる。

 

 

「智くん!船長さん乗りそこねてる!」

 

「今日は僕の運転。

この釣りツアーの船長は僕、大野智が務めさせていただきます」