「うぅっ、見に行けないことは・・・・理解・・してますっ!
でも・・・でもっ・・・見たい。
サクラを・・・見たいんですッ!」
ショウの言葉を聴いても、サトシは何も言わなかった。
自分の考えが伝わっていないのかと、ショウは必死に訴えた。
「ショウくんの気持ちは分かった。
考えなしで山に登ってしまうほど、その気持ちが強いってことも。
そこで・・・一つ提案。
昨日、手当をしたサクラ、ここからでも見える。
分かるかな?あっちの丘みたいなところにある」
ショウはサトシが指差した方を見た。
離れているから本当の大きさはわからないが。
前回のサクラよりは小さそうなサクラ。
「あそこに行くためには、山をちょっと下ってまた登らなきゃいけない。
慣れた人間なら往復3時間もあれば十分な距離だ。
でも、慣れてないショウくんが行くとしたら、半日は見ておく必要がある。
ショウくんが言うようにショウくんが行くのは無理。
ただ、それは今日ここから下山するとしたら、だ。
ショウくんが行くとしたら、もう1日ここで泊まらなきゃいけない。
どうしても行きたいと言うなら仕事として請け負うよ。
仕事だから必要な経費プラスガイド料をもらう。
どうする?」
「行きたいっ!
サクラを見られるなら、泊まります!
お願いします!」
ショウはサトシの言葉が終わる前に返事をした。
さっきまでどうしようもない気持ちが処理できなかったのに。
サトシの言葉だけでそのどうしようもない状態が解消された。
「じゃあ、契約することにしようか。
これが契約の条件。
これに納得できたら契約料と仮払いの経費の前払いの支払いを。
それをもって契約期間開始。
ガイド料は後からの請求。
細かい条項もよく読んでね。
いろいろと普通の契約書と違うから」
サトシは端末を操作しショウに契約書を送信した。
すぐにでもサクラを見に出発したいと気持ちが逸る。
目で契約書を追えないくらいにスクロールさせてしまう。
端末に表示された契約書をいい加減に見ていることを注意された。
そんなことでは契約はできない、とはっきり断られる。
ショウは改めて契約書を最初から確認することにした。
たしかによく読んでみると、他では見ない条項が追加されている。
契約期間中、安全確保のための指示には従うこと。
従わない場合の安全の保証はしない。
完全な安全の保証をするものではない。
身体的な損傷を負った時の補償はなし。
契約期間は日時での取り決めではなく。
ビークルのルートに戻れた時を終了とする。
細かい条項がまだまだ続いていた。
ショウはサトシに言われたように一つ一つの条項まで目を通した。