俺の大学生活もほぼ半分が過ぎた。
3年生になると、次は就職活動のことを考える時期でもある。
卒業に必要な単位を取れるだけ今年中に取ってしまいたいから。
3年次も授業はわりと詰まっている。
必要でないものでも、興味がある授業は聞きに行ったりもするし。
ぼんやりとしか考えてこなかった自分の将来。
さすがにこの時期になると、具体的なことも考えなきゃいけなくなる。
後期の試験があらかたすんで、ちょっとのんびりできる時期。
この時間にしっかり考えておかないと。
食後のコーヒーを智くんが淹れてくれた。
今夜はビールは抜き。
智くんがもうちょっとピアノ弾きたいらしいから。
智くんとお揃いのマグカップを両手で包んだ。
智くんの家は古いせいなのか?
それとも、留守がちなせいなのか?
暖房をつけていても、効きが悪い。
手をカップで温める。
智くんは猫舌だから、ふーふー冷ましている。
こんな時には、猫背になるんだよね。
ぼんやりと流れるこの時間が俺はなんかいいなぁ、って思う。
智くんとは、こんな風に会話がなくても、気にならない。
会話しなきゃ、って頑張らなくてもいい関係になれたな、って思ってる。
まだ熱いコーヒーを一口ずっ、と啜った。
「ねえ?智くん。
大学卒業するときにさ、その先の仕事どうするか?って。
どうやって決めた?」
えっ?って感じに目を瞠って。
次の瞬間には苦笑いっていうか、悔しい哀しいなのか?
どうとでも取れるような顔になった。
「んー音大の学生の仕事ねぇ・・・
ほとんどが挫折の結果、なんだよね」
どういうこと?
自分なりのやりたい仕事に就くもんじゃないの?
「音大の特色なのかもしれないけどね。
ピアノ科だと、一番の希望はコンサートピアニストなんだよね。
でも、なれるのは、ほんの一握りで。
大学時代、切磋琢磨するうちに、自然と振り落とされる。
コンクールに出場するためには、教授の推薦がいるからね。
そのための校内選考を受けてたよ。
でも校内選抜に出るには担当教官の推薦がいる。
僕は・・・諦めざるを得なかったけど・・・
諦められない人は何度でも挑戦する。
学年なんて関係ない。
ただ、いい演奏を聴かせた人が推薦をもらえる。
入ったばかりの一年生が推薦かっさらったときなんかさ。
実力の差を感じたのか・・・諦める子も多かったかな。
だんだん現実的な目標に変えざるをえないんだよね」
智くんの背がだんだん丸まっていく。