「だめっ・・・」

 

翔くんが思い切り腰を引いた。

 

翔くんはいつか、僕の側からいなくなっちゃうんじゃないか。

何かのきっかけがあるわけじゃなく。

なんとなく、二人の関係は変わっていって。

離れていっちゃうんじゃないか。

ちゃんと考えると、恐怖すら感じてしまう。

胸の重石になってるそんな想い。

 

 

「やだっ!いなくならないで!」

 

普段は言えない言葉をこの時とばかりに。

口に出す。

こんな時にしか言えない。

今、だったら、翔くんはちゃんと誤解してくれる、

翔くんの重荷になって、足手まといになって。

そんな風にならずにすむ。

 

 

 

大丈夫、智くんが満足するまでこうしているから。

 

ピッタリと隙間なくなるところまで。

引いた腰をゆっくりと戻した翔くんに。

そんな返事をもらって。

安堵の涙が零れる。

 

ゆらゆらと視界が揺れる。

翔くんの顔が歪んで見える。

男っぽく微笑んで、色っぽく瞳眇めて、切なそうに苦しそうに呻く。

 

 

浅い呼吸を繰り返し、ゆるゆると揺すられる体。

今、僕の世界には翔くんしかいない。

視野いっぱいに翔くんの顔がある。

つぶらな瞳が僕のこと映してて。

映った僕は苦しい顔してる。

 

こんな顔、見せたいわけじゃない。

こんなにしあわせな時間なのに。

しあわせな時間・・のはずなのに。

 

この先、が過ると哀しみと寂しさと苦しさで胸が詰まる。

 

 

 

「ずっと・・・このままで・・・いたいよ」

 

自分が漏らした言葉なのに。

現実不可能だってことをすぐに思い出す。

 

さっきとは違う涙が零れて、途切れることなく流れていく。

僕の願う未来は、きっと翔くんの未来とは重ならない。

 

 

 

「俺もこのままでいたいよ」

 

目元に触れた口唇が僕の涙を拭った。