飽きた!ので、早速別のおはなしを(笑)
久しぶりの二人です。
去年一年間は書いてなかったみたい。
☆
ある日、智くんの家に行くと、ピアノ室で練習をしていた。
ピアノ室のドアをそっと開けると、“月の光“が聴こえてきた。
智くんが弾く“月の光”は音の粒になって俺の中に降り注ぐ。
最後の音を丁寧に置くように弾いて。
鍵盤から手が離れて音楽の世界から戻ってきて、俺に気付いた。
俺は“月の光”に聴き惚れてて。
ピアノ室の入り口から奥に入ってなかった。
「翔くん!」
顔がパッと明るく嬉しそうになり、飛びつかんばかりの勢い。
実際、飛びつかれた。
「今度、大学のホールのピアノを弾けることになったの!」
あ、もしかして、文化祭でも卒業公演でも弾けなかった、っていう?
智くんは大学時代にご両親を亡くしてる。
そのドタバタで成績が落ちて・・・って話を以前に聞かせてくれた。
智くんは本当に嬉しそうな顔をして、話し続ける。
「僕、ホールにあるピアノの音が大好きだったんだ。
一回弾いてみたいと思ってたんだけど、弾ける機会がなくて!
あ〜どうしよう!
何弾こうか、さっきからいろんなの弾いてみてるんだけど・・
うちのピアノ、ベヒシュタインと音色も響きも違うから選べない!」
「ベヒシュタイン?」
「あ、ピアノのメーカーの名前。
世界三大ピアノメーカーの一つで・・・」
普段はあまり口数が多くない智くんの口からピアノの話が続く。
やっぱりピアノが好きなんだなぁ。
浮かれたように話し続ける智くんの腰を抱きつつ、居間まで誘導する。
ソファーに座らせて、コーヒーメーカーをセットした。
「智くん、よっぽど嬉しいんだね?」
智くんがこんなに喜んでることが、俺には嬉しい。
「あ・・・ごめんね。
僕ばっかりしゃべってて。
卒業生の交流会みたいなものなんだけど。
卒業生にホールを開放してくれるイベントがあってね。
本格的なコンサートじゃないんだけど・・
家族とかも呼べる会だから・・・
翔くんのスケジュールが空いてたら、来てくれる?」
なんとしても、スケジュールは空ける!
智くんが好きだ、っていうピアノを弾いてる姿が見られるんだから!
コンサートは3ヶ月後の祝日だった。
もちろん、スケジュールは最優先。