飽きた!ので、早速別のおはなしを(笑)

久しぶりの二人です。

去年一年間は書いてなかったみたい。

 

 

 

 

ある日、智くんの家に行くと、ピアノ室で練習をしていた。

ピアノ室のドアをそっと開けると、“月の光“が聴こえてきた。

 

智くんが弾く“月の光”は音の粒になって俺の中に降り注ぐ。

最後の音を丁寧に置くように弾いて。

鍵盤から手が離れて音楽の世界から戻ってきて、俺に気付いた。

俺は“月の光”に聴き惚れてて。

ピアノ室の入り口から奥に入ってなかった。

 

 

「翔くん!」

 

顔がパッと明るく嬉しそうになり、飛びつかんばかりの勢い。

実際、飛びつかれた。

 

 

「今度、大学のホールのピアノを弾けることになったの!」

 

あ、もしかして、文化祭でも卒業公演でも弾けなかった、っていう?

智くんは大学時代にご両親を亡くしてる。

そのドタバタで成績が落ちて・・・って話を以前に聞かせてくれた。

 

智くんは本当に嬉しそうな顔をして、話し続ける。

 

「僕、ホールにあるピアノの音が大好きだったんだ。

一回弾いてみたいと思ってたんだけど、弾ける機会がなくて!

あ〜どうしよう!

何弾こうか、さっきからいろんなの弾いてみてるんだけど・・

うちのピアノ、ベヒシュタインと音色も響きも違うから選べない!」

 

「ベヒシュタイン?」

 

「あ、ピアノのメーカーの名前。

世界三大ピアノメーカーの一つで・・・」

 

 

普段はあまり口数が多くない智くんの口からピアノの話が続く。

やっぱりピアノが好きなんだなぁ。

 

浮かれたように話し続ける智くんの腰を抱きつつ、居間まで誘導する。

ソファーに座らせて、コーヒーメーカーをセットした。

 

 

「智くん、よっぽど嬉しいんだね?」

 

智くんがこんなに喜んでることが、俺には嬉しい。

 

 

「あ・・・ごめんね。

僕ばっかりしゃべってて。

卒業生の交流会みたいなものなんだけど。

卒業生にホールを開放してくれるイベントがあってね。

本格的なコンサートじゃないんだけど・・

家族とかも呼べる会だから・・・

翔くんのスケジュールが空いてたら、来てくれる?」

 

なんとしても、スケジュールは空ける!

智くんが好きだ、っていうピアノを弾いてる姿が見られるんだから!

 

 

 

コンサートは3ヶ月後の祝日だった。

もちろん、スケジュールは最優先。