サワレナイ 1

智くんがコンクールに出てから4年が経った。

コンクール後、智くんは少しずつピアニストとしての活動を始めた。
国内のそんなに大きくないピアノコンクールでいい成績をとっても・・
ピアニストとして、すぐに成功できるってわけではないらしい。
今までと同じように、いろんな場所でピアノ弾くバイトをしながら。
時々、同じような若手音楽家と合同でコンサートしてる。
俺はそのたびに聴きに行って・・・・

そして、コンクールと同じようにおまじないをする。
ちょっと恥じらって、おまじないを待っている智くんは・・可愛い。

そして、この4年間。
おまじないはよく効いてるみたい。
ステージでの大きな失敗はないみたいだし。
大体は満足できるように弾けてるみたい。

終わった後の、笑顔で分かる。
ピアノの横に立って、お辞儀をする時・・・
客席を見渡すフリをして・・・俺を探す。
目が合うと、にっこり笑ってくれる。


智くんと高校生の俺とは・・休みが合わない。
だから、一緒に出かけられるなんて機会はない。
デートなんて・・外でしたことはない。

智くんと外で会えるのは、おまじないの時くらい。
ピアニストとしての正装をした智くんは・・・
かっこいい。

自分のやりたいことが出来ているってこともあるのかな。
まだ、やりたいことも見つけてない高校生の俺には・・
なんだか、まぶしく見える。


帰りは一緒には帰れない。
コンサートの後の片付けとか。打ち上げとか。
いろいろあって。

俺がせめて大学生とかだったら・・・
コンサートのスタッフのボランティアとかで入れるのに。

そんな時には・・10歳の歳の差がもどかしく感じる。


誰のせいでもないし。
10歳の差がある、って知ってて好きになったんだから・・・
しょうがないんだけど。